上位イノシシ怪人
腰を抜かし、怪人が尻餅をつく。
変身も解けていた。あまりの衝撃からだろう。
「まさか、コウガの正体が、コーデリア王女とは!」
「あなたを殺すために、地獄の底から蘇ったのです」
「ぼ、亡霊!」
「亡霊ではありません。我こそ、コーデリア第二王女。あなたの息の根を止めに来ました。私は、あなたの死だけを望みます!」
「ひいいいいい!」
四つん這いで逃げる伯爵の脇腹を、コーデリアは容赦なく蹴り上げた。
死なない程度に手加減したが、伯爵の身体は壁にめり込んだ。
「ごぼおお!」
壁から這い出しながら、伯爵は嘔吐する。怯えた目で、完全に戦意を失っていた。しかし、頑丈な身体のせいで、まだ死ねない。
コーデリアは、伯爵のアゴを蹴り上げた。また、伯爵を壁にめり込ませる。
「ぬおおおお!」
伯爵の顔面で壁を掘り進みながら、コウガは伯爵を地面に這いつくばらせた。
「あなたに殺された女たちの分まで、あなたは償うべきです」
「た、助けてくれ。この土地をやる。金もおいていく。だから、見逃してくれ!」
勝てないと分かったのだろう。伯爵は命乞いをしてきた。自分の財産をやるから見逃せと。
なんと、哀れな男か。すぐ後ろに奥方もいるのに。
『コーデリア、悪いが交代する。こんなヤツのために、キミの手を汚すわけにはいかん』
「彼の言葉を聞き入れるのですか、ベルト様!?」
コーデリアの抗議には応えず、リュートは無理矢理に意識を変換した。
伯爵から手を放す。
「み、見逃してくれるのか?」
『オレは、復讐から得るものは何もないと思っている』
「だったら」
『しかし、貴様のようなゲスを見逃すほど、お人好しでもない!』
望みを絶たれたと思ってか、再度伯爵はイノシシ怪人に変化する。
「ならば死ね、コウガ!」
捨て身の突撃で、怪人は迫った。
手負いの怪人など敵ではない。コウガはカウンターパンチ一発で、相手の突進を止める。
またしても、怪人は吹っ飛ぶ。
『今だ、トゥア!』
コウガは、大地を蹴った。上空で、足刀を繰り出す。
『レイジング・キック!』
「ぎゃあああああああああ!」
コウガは伯爵を、キックで粉砕する。
伯爵は爆発し、首だけになった。夫人の足下へ、無様に転がっていく。
「オホホ、情けない男」
なんと夫人は、夫である怪人の首をヒールで蹴り飛ばした。
『自分の主に、なんてコトを』
「夫? オホホ! こやつは我がデヴィランの捨て駒に過ぎませんわ! どちらがデヴィランの幹部なのか、分を弁えるべきだったのです。我が主はデヴィランの首魁、魔王ヴァージルのみ!」
魔王ヴァージルとは、何者なんだ。
「ロデントスが飽きた女を食べるの! もっとも、極上の魔力を持った女は優先して回してもらったわ。なぜなら、わたくしの方が強いから!」
狂気じみた高笑いとともに、伯爵夫人の姿が膨れ上がる。皮膚を引き裂き、醜い二足歩行のイノシシへと変わっていく。
『なに、お前もイノシシ怪人!』
怪人なんてものではない。それほどまでに醜悪な姿だった。
先程の怪人より脂肪が多い。
人間体の美貌など微塵も残っていなかった。体中に広がるアザが、女の悲壮な顔のように見える。これが、伯爵夫人の正体か。
上位イノシシ怪人が、さらに巨大化する。
まるで、食ってきた女の恨みを吸収するかのように。
その壮大さは、もはや『怪獣』と呼んでも差し支えない。
『何者だ!』
「ワタクシの名は【オーカス】! 魔物の上位種・魔族がひとり」
顔こそ、伯爵と同じイノシシ怪人だ。が、色が違う。
顔も身体も、黄金に輝いていた。
身体も、豪華なドレスを着たイノシシそのものだ。丸太のように太い足が、八本も生えている。
岩のような手には、宮殿の柱より太い
「オーカス。古に伝わる魔族で、オークの親玉です」
星さえも喰らい尽くす、オークの女王だという。
「感謝致しますわ、コーデリア王女殿下! あなたのおかげで、ワタクシはようやくバカ夫の妻を演じる任務から解放されましたもの!」
手に持っている柱ほど大きな
飛び込み前転で、コウガは王笏をかわす。
王笏が、建物を破壊した。天井が崩れ始める。
「愚図な分際で偉そうにしていたわ。影ではワタクシにヘーコラしていたくせに! 表向きは財産があるから取り入れとの命令でなければ、ワタクシの手で丸焼きにしていましたわ!」
夫への不満を爆発させながら、コウガへ何度も攻撃をしてきた。
打撃のことごとくを、コウガはよけ続ける。
建物が限界を迎えた。
「お礼として、王女サマ。あなたの棺はワタクシの胃袋といたしますわ。オーホッホッホ!」
落下してくるガレキを足場に、コウガは連続跳躍で屋敷の崩壊を切り抜ける。
上位イノシシ怪人は、ガレキが落ちてこようがビクともしない。それどころか、なおもコウガへ王笏を叩き込もうとする。
「ぬうん!」
上位怪人は、王笏でガレキの一つを打ち上げた。
ガレキが次々と反射して、コウガの足場を破壊する。
『くそ、いかん!』
足下がおろそかになってしまった。これでは、蹴りを放てない。
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