不滅の闘志
「とどめですわ!」
王笏による突きが、コウガの腹部を直撃した。
「ぐはああっ!」
大ダメージを受けて、コウガは地面に激突する。
だが、ダメージはコウガの装甲だけではない。それを覆うコデロにまで行き渡っていた。
『なに、コウガの装甲を突き抜けただと!?』
「これが、魔族の力というのですか」
致命傷を負い、コデロは起き上がれない。アバラも腕も、骨折している。
「哀れですわね殿下、もう一度死ぬなんて! でもご安心を。ワタクシがおいしく食べて差し上げますわ!」
イノシシが、化物じみた高笑いを上げた。
「忌々しいドランスフォードの王女さま。あなたにはさぞ、輝かしい将来が待っていたのでしょう。地べたに這いつくばるあなたを見るのは実に愉快、愉快ですわ!」
『お前とコーデリアとの間に、何があったのだ!』
上位怪人の言葉は、コーデリアを侮辱している。
「ワタクシだって、それなりの貴族でしたわ。魔法の成績もトップだった。でも、コーデリア様はワタクシ以上の実力を持っていました!」
コーデリアは魔法学校においても、上位の成績をキープしていたらしい。
それだけでなく、コーデリアは人格者だった。
伯爵夫人は、ライバルに嫌がらせをして蹴落としていたのだ。
が、コーデリアが彼女たちを励まし、鼓舞していたという。
「そのせいで、ワタクシは彼女たちにまで追い抜かれ、結局最終成績は中の下! ろくな嫁ぎ先がなくなりましたのよ!」
『嫉妬か。コーデリアに対する妬みが、お前をそんなに醜くしたんだな?』
「醜いですって? 昆虫を模した甲冑に言われ得る筋合いはございませんコトよ!」
イノシシ上位怪人は、そのでっぷりした脂肪まみれの足で、コウガを踏み潰そうとする。
「あなた方の方こそ、この高貴なる魔物の姿を美しいと思えないなんて、目がどうかなさいましてよ! 今度はハエにでも生まれ変わらせて差し上げますわ!」
『まだだ!』
最後の力を振り絞って、コデロは立ち上がる。だが、すぐによろめいた。足が折れている。
「そんな身体で、何ができると言いますの?」
『オレはまだ戦える! この命尽きるまで、オレは人々を守るんだ!』
「こざかしいセリフを!」
上位怪人が、王笏を振り回した。雷雲を呼びだし、電撃を放つ。
『ぐおおおおお!』
リュートも、コデロ同様ダメージを受ける。ここまで凄まじい攻撃は、初めてだ。
「黒焦げになっておしまい!」
『死んでたまるかぁ!』
両手で雷をガードし、上位怪人へと弾き飛ばす。
反射した雷撃が、上位イノシシ怪人の顔面に直撃した。
肉が焦げる悪臭が充満する。
「やりましたか?」
『まだだ』
リュートは、手応えを感じなかった。
「ぐおっ! 生意気なぁ!」
片目を潰され、顔を押さえながら怪人は悶絶する。
それが、最後の抵抗だった。コウガの変身が、解けてしまう。変身に使うエネルギーは、尽きてしまった。
だが、諦めない。最後まで戦うと決めた。魔王という存在も判明した今、ここで死ねば誰がこの世界を救うのか。
自分が死ねば、コデロも死ぬのだ。
弱き者の盾となれるのは、自分しか、コウガしかいない。
『オレは、負けん!』
死力を振り絞り、リュートは自身の全力を、コウガの宝玉へ注ぎ込む。
月明かりが差し込んできた。光が当たるように、リュートはベルトを月へ向ける。
『コウガの宝玉よ、オレの命をやる! この世界を守る力を与えてくれ!』
月光を浴びながら、リュートは願う。ベルトは応えてくれないかも知れない。それでも。
「最後の仕上げと参りましょう。こんがり焼いて差し上げますわ!」
これまでとは比較にならない程の雷撃が、コウガの頭上に迫った。
だが、不思議と受け止める自信が湧いてくる。
負ける気がしなかった。ベルトが、反応しているのである。
だが、賭けだった。再度、変身の構えを。
自分は死んでもいい。せめてコデロだけでも無事で。
次の瞬間、コウガを守るかのように、三対の斧が電撃を食い止めた。斧のブーメランが、持ち主のところへ帰って行く。
「待たせたな、コデロ!」
戻ってきた斧を、アテムが掴む。
「随分と苦戦しているようだが、無事かコウガ!」
ダニーも、けん制で女王怪人に銃を撃ち込んだ。
『アテム! 感謝する!』
「手こずってるな、あたしも混ぜろよ!」
それは助かるが、コウガは首を振る。
『いや、コイツはオレがやる! あんたは助けた人々を守ってくれ』
「よしきた!」
リュートは、コウガの宝玉に集めた魔力を、コデロに注ぎ込む。コデロの治療のためだ。折れたアバラや腕、足を、瞬時につなぎ合わせる。
「どうして!?」
『キミが死んだら、どうにもならん。常に万全でいるんだ。この場は、オレが引き受ける!』
「そんなことをすれば、あなたが消滅する可能性だって」
『構わん! キミが生きていてくれたら、オレの存在など消えてしまってもいい。キミは、世界の希望なんだ! 生きてくれ!』
改めて、リュートはコデロと同化し、変身ポーズを取った。
今こそ……今ならば可能かも知れない。
そのとき、月の石に変化が現れた。
リュートは、耐え難い疲労感に襲われる。本当に、自分を失ってしまうような。
しかし、コウガが強化されていく気配は感じる。
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