特撮ヲタ、姫騎士のヒーローベルトに転生! ~二人で一人の復讐者《ヒーロー》~ 

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

第一部 戦乙女コウガ、変身!

1-1 「大丈夫。川落ちは生存フラグだ!」「死にかけてるんですけど!?」

変身ベルトに転生!

「念願の、変身ベルトが完成したぞ!」

 織部おりべ 琉斗りゅうとは、完成したベルトを掲げて歓喜した。


 ベッド周りには、修復用の部品が散乱している。DVDラックには、特撮番組のBDがズラリと並ぶ。


 リュートが手に持っているのは、バックルつきのベルトである。地球上のどの文明とも似ても似つかない。バックルには、宝玉らしき赤い物体が内蔵されていた。その周りを、文字らしき模様が円を描くように並ぶ。


 共に考古学者の両親からもらった、未知のアイテムだ。発掘当初は、所々にヒビが入っていた。科学者であるリュートが修復作業を行い、完璧に復元してある。


 リュートにはどう見ても、このアイテムが変身ベルトにしか見えない。同じ科学者であるリュートは、両親から絶対の信頼を寄せられ、修復を任された。幼い頃より身体が悪く、ずっと自室のベッドで過ごしている。


 唯一心血を注げるのは、特撮番組とベルトの修復だった。



 生まれてから三〇年、ずっとこんな調子だ。

 それでも、リュートには幸せな時間である。



 最初こそ、ベルトの刻印も『甲』と『牙』という文字しか分からずじまい。だが、変身用のツールだと解読できて以降は、あっという間だった。 


「あとは、変身するだけだ」


 変身が可能なら、このアイテムは間違いなく変身ベルトと断定できる。


 これは正真正銘の、変身ベルトだ。


 リュートの勘が叫んでいる。


「このベルトは、異世界から来た物」


 父の説をバカにしてきた連中に、一泡吹かせることができるのだ。それは、リュートの作業に掛かっている。


「父さん母さん、見ていてくれ。オレが、あなたたちの説を証明する」


 リュートは、腰にベルトを装着した。病人の自分は、立つのがやっとだが、どうにか起き上がることができた。


 これでヒーローに変身できれば、日常生活も送れるかも知れない。そうすれば、両親に迷惑をかけずに済む。


 次の瞬間、窓に暗雲が立ちこめる。しかも、室内に。


「なんだ?」



 リュートは、ベッド脇に設置してある警報スイッチを押す。


 雲から、怪物の足が現れた。足だけじゃない。全身が浮かび上がってくる。


「ギイイ!」


 怪物の姿は、特撮の怪人のような姿をしていた。


 ビジュアルは、狼男を思わせる。手足の指からは、刃のような長い爪が伸びていた。全身が灰色の毛に覆われ、顔はオオカミで身体は半裸の人間である。


「ギイッ!」と、また怪人が吠えた。

 言葉を話しているように思えるが、聞き取れない。この世界の言葉ではないようだ。


 警備員が、駆けつけてくれた。


「ば、化物!」

 警棒を装備して、警備員がリュートの前に立つ。


 怪人は、警備員を腕で払いのけた。


 それだけの動作なのに、警備員は壁に穴を開けるほど吹っ飛んだ。


 全身に鳥肌が立ち、リュートは戦慄する。


 だが、怪人の腰に付けているベルトが、変身ベルトと形状が酷似していることを、リュートは発見した。


 次の行動は早い。ベルトと共に発掘された古文書に書かれていたポーズを取る。



 こいつが古文書と関係している化物なら、変身ヒーローの姿で倒せるはず。


 右手を曲げた状態で、左手でベルトを撫でる。右から左に滑らせながら。


「変身!」


 叫んだリュートは、右手を高く掲げた。


 まばゆい光が、リュートを包んだ。全身が、硬い装甲に覆われていくのが分かる。ベルト中央の宝玉から、展開されているのだ。


 最後に鋼鉄の仮面が、リュートの顔全体を覆う。


「グギ、コ……ウ……ガッ!」 

 目がくらんだのか、怪物が怯む。


「トゥア!」


 全身、銀色の装甲に包まれたリュートは、渾身の拳を叩き込んだ。


 怪物の身体がひび割れ、スキマから光が漏れる。


 嫌な予感が、リュートを襲った。


「こいつ、自爆する気か!」


 リュートは怪物の身体を掴み、窓を突き破る。 

外に出た瞬間、怪物が爆発した。


 怪人と共に、リュートも爆風に巻き込まれる。自分の身体が、粉々になるのを感じた。痛みはない。即死だったらしい。


「父よ母よ、あなた方より先に命を落とすオレを許せ。オレはこいつを倒すのが精一杯だった」


 我が命は、天に預けた!


 変身できただけでも、家族の無事を守れただけでも、よしとしよう。

 

 そのとき、不思議なことが起こった!

 魂が、天空に吸い込まれる感覚に襲われたのだ。





      ◇ * ◇ * ◇ * ◇






「あなたは死にました」

 そう告げたのは、目の前にいる女性である。白いエレベーターガール風の衣装を着たこの女性は、「転生の女神」と自称した。


 真っ暗な空間に、女神だけがポツンと立っている。ふんわりした笑顔をで、まったく緊張感がない。


「ですが、あなたの見事な功績を称えて、転生を許しまーす。といってもー」


リュートの姿を見て、女神はため息をつく。


「その姿で、本当によろしいのです?」


 今のリュートは、変身ベルトの姿になっていた。



 女神が言うには、

「さっきの怪物との戦闘で事故を起こし、魂がベルトに定着してしまったのだ」

 という。


「身体の修復は無理でしたので、人間以外なら何にでもなれると説明はしましたが」


『これでいい。いや、これがいい』


 装着してくれる相手がいるなら。

 

 自分が変身するという目標は達成している。

 

 けれど、やはり自分は、誰も守れなかった。

 自分の命すらも大事にできず。


 そんな自分がベルトを持っていても仕方ない。


 しかるべき人物の腰に治まるべきだ。


「好きにスキルも所持できますよ。でも『変身』でいいと」


『構わない。変身したオレは無敵だ。どんな相手も倒し、弱きを守る』


 女神が「あはは」と、乾いた笑い声をあげる。


「で、では、ベルトの所持者に相応しい相手を認定しまーす。変身した人物は、超人になれますよー。本当にそれ以外は入らないのですね?」


『構わない。できれば、特典は装着者の方に頼む』


「承知しました。色々てんこ盛りにしておきましょうかね」

 女神が、手に持った指揮棒らしきステッキを振った。


 何もなかった虚空に、映像が浮かぶ。


 炎上している城のようだ。


『どこだここは?』 


「ドランスフォード王国ですねぇ」


 異世界でも指折りの、魔法王国だそうだ。


『あの小さな少女が、ベルトの適合者だというのか』


 剣を持った少女が、戦っている。金髪の少女が、ドレスの上にヨロイをまとい、両手持ちの大剣を振り回して、迫り来る人型モンスターを次々と斬り捨てていた。


 顔は幼いながら、腕が立つ。


 リュートより、よっぽどヒーローに適した肉体を持っている。


 相手をしているのは、二足歩行の……クモではないか!


 クモの頭を持った男が、ジリジリと、コーデリアに迫っている。肉体の各所が機械化していて、歯車や回路が剥き出しになっている。


 コーデリアが斬っているのも、特撮に出てくる戦闘員のような出で立ちだ。短刀など、簡単な装備しかしておらず、全員が顔を仮面で覆っていた。


『こいつは、さっき戦った怪人と同種族ではないのか?』


 映像のクモ怪人が、手をワキワキさせながらゲラゲラと笑う。


 この魔物のベルトは、家を襲撃してきたヤツと同じタイプではないか。


「姫様!」

 姫を守るため、複数の兵隊がクモ怪人を迎え撃つ。


 クモ怪人が、糸を吐き出す。屈強な兵隊を、いとも容易く絞め殺してしまった。


 コーデリアが、小さく悲鳴を上げる。同時に、仲間を失った悲しみに打ちひしがれていた。


「ギヒヒ。これまでだな、コーデリア王女。おとなしく我らに従い慰み者になるか、ここで死ぬか選ばせて差し上げましょうぞ。悪いようには致しませぬ。我が【デヴィラン】の手で、ドランスフォードの名に恥じぬ、最強の肉体に作り替えますぞよ」


 クモ怪人が、ゲスめいた言葉を少女に吐く。


 少女の名は、コーデリアというらしい。クモは、コーデリアを王女様と呼んでいる。


「なにを! 人を人体実験の道具としか見ないあなたがたの所業、許す物ですか。覚悟!」

 コーデリアは剣を振り下ろすが、クモ怪人に片手で止められてしまう。


 腕を軽く振り上げただけで、コーデリアは燃えさかる炎の中に突き飛ばされた。左半身が焼けただれ、ドレスアーマーは砕けてボロボロに。手に持っている剣も根本から折れていた。





「うーん、死にかけていますねぇ。もっと適任者を探しましょうか?」

 女神が、この王女をほったらかそうかとほのめかす。


『いや。この子がいい。今なら、助かるかもしれん』


 女神は難色を示す。

「適合率はこれ以上ないくらいですが、もう虫の息ですよ?」


『構うものか。あの女性を見てみろ』



 コーデリアは、まだ折れた剣を握りしめていた。

 諦めていない証拠であろう。



『あんな状態になりながらも、まだ戦おうとしているのだ。そんな子を無視して、他の相手など選べぬ。その間に、あの娘は死ぬぞ!』


 今にも、コーデリアはクモの毒牙に掛かろうとしている。急がねば。


「あなたが行けば、助かるかも知れませんねー」


『よし、あの女性の、コーデリア王女の元へ向かう!』



 女神は二度目のため息をついた。

 しかし、その表情は穏やかである。



「承知しましたー。どうなっても知りませんからねー」

 女神が指揮棒を操った。

 リュートに向けて、指揮棒の先を突き立てる。





「転生の力よ、今こそ、かの者に祝福あれ!」





 ベルトが、リュートの身体が、温かい光に包まれていく。

 そこで、リュートの意識は途切れた。

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