脚のない蝶

 ひらゝと、透明な空を泳いで蝶が舞う。

 日光を蒼い翅で透かす空の女神は、

 ぐるゝと回る地球の乗り方を、誰よりも識っているかのよう。

 

 旋律に乗る彼女に、やがて誰かが言葉を添える。

 

 ある人は、

 豊かな花の香に誘われて踊るのだと云う。

 またある人は、

 太陽が眩しくて仕様がないから風に乗るのだと云った。


 孤独な牡鹿の鳴き声。

 トンネルを通り過ぎる薫風の触感。

 揮発する夜。


 ありとあらゆる旋律から、色とりどりの蝶が溢れ出す。

 彼女らはそれに乗って、やがて銀河へと還るのだろう。


 呆然としてその様子を眺めていると、

 その柔らかな肉体に、あの繊細な脚が無いことに気がつく。

 空の女神には、地に降り立つ脚は必要ない。


 ああ、だから、

 彼女らがこの豊穣たる大地に、留まることはないのだろう。


 さよならを告げる誰かの口元から

 一匹の蝶が 円環状の宙へと羽ばたいた

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