空鯨の唄

 道に迷って、空を見る。


 去り行く季節は空の鯨となって、

 原音の旋律を泳いで彼方へと向かう。

 その引いては寄せる波を視線で追うと、

 手が届く範囲の空が、螺旋状であることに気がついた。


 その時、


 柔らかな木々が身を寄せ合うかのような、

 飛行機雲の言葉が聞こえてきた。





 ねえ知ってるかい。

 かたちを無くした言葉は死ぬんだ。

 そうして幽霊になった言葉は揮発して、

 あの空に浮かぶ、ゆめまぼろしになるんだよ。


 だってさ。

 たとえ空が真っ暗でも、

 たとえ空を見たことがなくても、

 そこには必ず、

 目が覚めるほどに透明な雲が浮かんでいるのだから。


 だから頭上を見上げてごらんよ。

 円環模様の空の海。

 涙色の幽霊が、夢の彼方を泳いでいる。





 か細い余韻のような雲は、過去からやって来る。

 だからこの唄の主に、出会うことはないのだろう。



 言いそびれたさよならの代わりに

 道端の小石を 大きく蹴り上げるふりをした

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