空の終わり

 世界が終わる夢を見る。



 瑰麗の夢は解れて消えゆく。

 言の葉の上をさらさらと流れる小川。

 老婆が空目した麦畑。

 飛行機乗りの感じた宇宙。

 イルカの夢。

 ダリアの笑顔。


 空。空。空。


 円状の空を望遠鏡に見た銀河。



 星を宇宙へと帰そうか。

 心を海へと帰そうか。

 身体を夜の隅へと隠して、

 太陽の明かりに照らされる、硝子の目玉だけが転がる。


 小さな世界は、たぶん空気力学と陽光で形作られている。

 瞳に乱反射する温もりは、胸が締め付けられるほどに眩しくて。

 いつの間にか僕は、ラムネの空き瓶の中で転がっていた。


 カラン、カラン

 カラン、カラン


 青い硝子のゆりかごで揺蕩う。

 どこからか、風鈴の音が聞こえた。


 今日は、38度を超えるらしい。

 温度計の中の赤い水銀が、誰もいない校舎の中で猛暑を告げる。

 アブラゼミの鳴き声は、プールの次くらいにあったかかった。


 扇風機が吹き付けてくる風は、チェリオのオレンジ味がする。

 昼寝の夢は、溶けたアルファベットのチョコレート。

 パチリと、蚊を叩く。

 ふと見上げた空は、青い絵の具を煮詰めたようで。



 流水で顔を洗う、清涼な朝。

 乾いた汗を、冷たい水が注ぐ。

 セミの鳴き声は遠く、窓から射し込む日差しは強い。

 多分、外は晴れ。


 爽やかな風が、濡れそぼった髪の先端を撫でる。

 柔らかに生い茂る草花のように、寝汗の染みたシャツと髪が揺らぐ。

 地平線の果てには、空が見えた。


 夏と、清流と、昼寝の夢を薄く引き伸ばした青い空。

 どこまでも、どこまでも青い空。

 想像したとおりの晴れ模様なのに、

 胸の中に、ぽっかりと穴が開いた。

 そんな、悲しいほどに青い空。



 世界が終わる、夢を見る。

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