神造遊戯 ~100人の転移者は願いを叶えるために殺しあう~
@watakomax
第1話 異世界へ
「これから君には、異世界に行ってもらう」
ふわふわと夢うつつの頭が少しずつ覚醒していく。
だぶだぶのローブを被った人物は、俺―――『石森 翔太郎』に短くそう告げた。声の感じから言うと老人。ローブの隙間から見える口元には、豊かな口ひげが蓄えられている。ちょっと現実にいたらお近づきになりたくないくらいだ。
周りには仄暗い暗い空間が広がっている。果てはぼやけてしまっていて見えない。
この空間にいるのは俺だけではない。5メートルほどの間隔で、同じような2人組が何組も見える。ローブの人と、俺もよく目にする、制服やスーツ、ジャージを着た人たちの2人組だ。男女も様々だ。体格や、服装がスカートだとかで見分けられる。しかし光量が足りないのか、首から上ははっきりとは見えない。
そもそも、俺はここに来る直前に何をしていたのか、思い出せない。朝起きて高校に行って部活をして、その後……家に帰ったんだっけか? ベッドに横になった記憶はないんだけれど。
「聞いておるのか?」
「聞いてます、はい!」
周りをきょろきょろすることに夢中になっていたことを見抜かれたのか、目の前の老人から叱咤の声が上がった。
しかし、怒っているようには見えなかった。やんちゃな若者を見るような、おおらかな声だ。
「よいよい。怒っているわけではないのだからな。始まる前から他の者を冷静に観察とは、なかなか期待できそうじゃのう」
「はぁ、あ、ありがとうございます?」
最初の厳かな声が急にフレンドリーになったことに困惑して、お礼が疑問形になってしまった。
老人に言われたことだし、先ほどの言葉について質問してみる。
「それでその、異世界に行けと言うのは?」
「言った通りじゃよ。お主は地球出身じゃな?」
「地球……そうですね」
自分を地球出身だと名乗ったことはなかったため、少し新鮮な気持ちになる。普通は○○中学校出身です、とか○○県出身です、だからな。
「周りの者もそうじゃ、ざっと100人ほど、今回は日本から重点的に人を集めたが、これから全員で地球とは違う世界、すなわち異世界に行ってもらう」
異世界というのがどういうものか全くわからないんですが、どういうことなんだろうか。
「魔法やモンスターのはびこる異世界じゃ。お主は異世界転生物の小説を読んだことはないのか? それこそ、日本では有名だったはずじゃが……」
「はい、あまり」
アニメはそれなりに見るけど、その系統は友人がめちゃくちゃに批判してたから俺も興味を持ったことはなかった。
「異世界、に行ったとして、何をすればいいのでしょうか?」
「簡単じゃ」
老人は一呼吸間をあけて、
「殺しあってもらいたいのじゃ」
「……は?」
日本での生活で、ここまで現実に、まじめに使わない言葉はそうあるまい。殺し合い。漫画やアニメではこれでもかと題材にされているが、それはフィクションだからこそ楽しめるのだ。
……や、何を考えているんだ。そんなにまともに考える必要がない。だってこれは夢―――
「―――夢ではないぞ、若者よ」
都合のいい考えは一蹴された。
俺の思考を先読みしたように、老人は言葉をかぶせてきた。しかしフレンドリーだった雰囲気は吹き飛んでいる。顔が隠れているせいで得体の知れない存在が目の前に立っているような気がして、足が震えてきた。
夢ではないとはっきりと宣言されたことで、急に眼が冴えてきたように感じる。ぼんやりとしていた手足に血が巡り、今更ながらこの異常事態を認識した心臓が鼓動を速め始めた。
「や、だって、殺し合い、って……っ」
「安心せい。何も強制ではない」
「はぁ?」
ジェットコースターのように乱高下する話の内容に、俺はついていくのに必死だ。
「最後の1人となった者は我々がどのような願いもかなえてやろう。それに興味がなければ、永遠に逃げ隠れしてもかまわんわい」
でも、最後の1人になろうとする人がいる限り、永遠におびえて隠れながら過ごさないといけないのか。
「お前さんたちが死んだときは、記憶を消して元の世界に戻すことになっておる。どうしても嫌な場合は自決することでリタイアすることもできるぞい」
自決するもの、誰かに殺されるのも死ぬには変わらないだろうに。そんな勇気があれば何も苦労はしない。
「なんで、なんで、殺し合いなんて……」
「そう深くは考えるな。相手は殺しても死なず、元の世界に戻るだけじゃ。死の恐怖も、元の世界に戻る時には全くなくなっておる」
そういう問題じゃない。どこまでもズレた感覚に、目の前にいるのが出来損ないのAIなのではないかと思えてしまう。
「しかし、ちまちまと戦っても派手さが足りないじゃろう?」
知らないよ、そんなこと。
頭の中で吐き捨てるが、老人はスラスラと続けていく。
「ワシの神格を少しだけ使えるようにする。これはうまく駆使して生き残ってもらいたい」
流石の俺も聞き逃せない単語があった。
「シンカク……神格?」
「そうじゃ、我々は人間でいうところの神じゃ。正確に言えば、神というのは人間が付けた名前で、名称は別にある。個体にも人間が付けた名前があるが」
つまりこの老人は、俺たちの知る神様の名前を持った超常の存在? だめだ、まだ理解できない。なにもかも。こんなにはっきりとしているのに、夢としか思えない。夢ではないと切り捨てた老人の言葉を否定したい気分だ。
「ワシの名は■■■■。地球の名を借りれば、ゼウスといったところじゃな」
「―――は?」
俺には聞き取れない言語の後に告げられたのは、あまりにも大物過ぎる名前だ。昨今のソーシャルゲームに必ずと言っていいほど登場する名前の1つ。オリュンポス十二神、その中でも最も兄弟だと言われている神様である。名前だけを聞いてしまえば安っぽい最強だが、目の前にいるとなれば話は別だ。
この老人の話が嘘か本当かなんて吹き飛んでしまう。
「『神格:全知全能』―――それがわしが与える神格じゃ」
とんでもないものを与えられてしまった。
「神格を与えると同時に、その神格を扱えるように体が強化されておる。しかし注意するのじゃぞ。全知全能は文字通り人智を超えた力。うかつに使えば、その身を滅ぼすことになる」
何やら脅してくるが、肝心の能力の使い方や、その効能、デメリットに関する何もかもを説明してもらえていない。
疑問を解消しようと口を開いたその時、俺の足元から、光の柱が空高くまで伸びた。周りを見ると、同じような光景が広がっていた。
「済まんが時間のようじゃ。くれぐれも、向こうについて早々に死ぬことがないようにの」
「ちょ、ちょっと待―――」
徐々に俺の体が浮いていく。水の中にいるような感覚。浮力によって体が浮かんでいくようだ。踏ん張っているが、真上に向かう力にはなす術はない。足が完全に離れてしまい、不安から体をばたつかせる。
それを見る老人は何も言わない。見えない壁に柱の光が遮られているように、相変わらず外の世界は不鮮明だ。
一気に速度が上がり、地面から離れていく。
真上を見ると、白しか見えない。やがてまぶしさに目を開けていられなくなり、俺の意識はなくなった。
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