第8話 彼女がいない水曜日

その日、俺は斯波が登校してこないから、とても心配だった


「風邪をひいたのかな」


俺は斯波にメールを送る


 でも、返信はなかった。授業は始まり、そしてお昼休みになった


 俺は、斯波が心配で、携帯で電話をかける事にした。心配なのだ


 斯波の声が聞きたい。俺、斯波の声を聞かないと情緒不安定になるんだ


 俺は校舎の屋上へ行って、電話をかける事にした。みんなの前でラブラブコールを送るのは流石に恥ずかしかった


 登録済みの斯波のアイコンを押す......


 聞こえて来たのは無機質なメッセージだった


 『お客様のおかけの電話番号は現在使われていません』


「......」


俺は放心状態だった


「何が?


 何が起こった?」


 俺はさっぱりわからなかった。何もかも上手くいっている筈だった


 後、2ヶ月で、俺達は高校卒業だ。斯波は高校を卒業したら、就職するつもりだ


 もちろん就職先も決まっている


「何が?」


俺は慌てて担任の先生のところへ行った


「先生、斯波に、斯波に何かあったんですか?」


俺は教員室に無遠慮に入ると担任の先生に詰め寄った


「高野君、斯波さんとは仲が良かったのね。ホームルームで話そうと思ったんだけど


 高野君には先に教えるわね。ショックを受けるけど、いい?」


「はい」


俺は涙声になっていた。いい話しではない事は察する事ができた


「斯波さんは昨日で退学したの。お母さんが倒れたそうよ


 それで、その、お父さんも働ける状態でなくて、斯波さんは高校中退して働く事にしたの......」


「俺、何も聞いてないですよ」


「高野君......」


先生は辛そうだった。教子の不幸、先生にとっても辛いのだろう


「先生、早退します」


俺は一方的に宣言すると、クラスの荷物も持たずに、高校を飛び出した


 行き先は斯波の家だ。必死に走る。急がないと二度と斯波に会えない様な気がした


「はあ、はあ、はあ」


 俺はゼーゼーしながら、ようやく斯波の家についた


 斯波の家は俺の家と同様、古い家屋だった。そして、住所から、部屋番号を探す


 だが......


 斯波の部屋番号の部屋には表札が出ていなかった。最近まであった形跡はあった


 俺はピンポンを鳴らす


『誰も出ない』


俺は何度も何度もピンポンを押した


 しばらくするとお隣の住人が出て来た


「あれ、斯波さんの知り合い?」


「あの、すいません。斯波は彼女達はどこに行ったのですか?」


俺は必死に訴えた。唯一の手がかり


「斯波さん家はお引っ越ししたみたいよ」


「どこへ行ったんですか?」


「それは、私もちょっと、聞いていなくて。突然だったから.....


 そうだ、大家さんに聞いて見たら」


「ありがとうございます」


俺は大家さんの家を聞き出すと、すぐに大家さんの家のピンポンを鳴らした


「はい」


大家さんが出てきた。年配の方だ。もしかして斯波達の行き先を教えてくれるんじゃないかと期待する


「あの、すいません。この住宅に住んでた斯波さん達は何処に行ったかご存知ないですか?」


「斯波さんね。私もびっくりしたの。突然引っ越すと聞いて


 斯波さんのお母さんは横浜の病院よ」


「まゆみはまゆみは何処に行ったんですか?」


「えっと、まゆみさん、斯波さんのお嬢さんね。ごめんなさい、それは聞いてないの」


「何か手がかりでもいいんです。何か思い出せませんか?」


俺は必死に食い下がった


「ごめんなさい。本当に知らないの。でも、お母さんのところに行ったらわかるんじゃないかしら」


「お母さんの病院の場所、教えてくれませんか?」


「本当はだめなのよ。でも、あなた、斯波さんの娘さんの彼氏さん?」


「はい。お付き合いしてます」


「若いっていいわね。特別よ」


そういって、大家さんは斯波のお母さんの病院の場所を教えてくれた


 俺はそのまま、横浜の病院に向かおうとしたが、お財布も何もかも学校という事を思い出した


「しまった。財布位持ってくれば良かった」


俺は学校より近い、自宅に向い、自宅で、お金を調達した


 幸い、お母さんが今日は休暇の日だった。お母さんはずいぶん驚いたが、俺が斯波が斯波がと騒ぐと


 事情を聞かれた。俺は簡単に事情を話すとお母さんは黙って、1万円を俺に渡した


「早く、横浜に行ってきなさい」


俺は涙が出るほど嬉しかった


 そうして、俺は慌てて電車に乗って、斯波のお母さんの入院した病院に向かった


 病院についたが、俺は困った。俺は斯波のお母さんのフルネームを知らない


 俺は斯波のお母さんの親戚でもなんでもない


 看護師さんに一生懸命事情を説明した。看護師さん達は困った様だが


 根負けして、調べてくれた。そして、家族という扱いで、斯波のお母さんに会う事が出來た


「斯波まゆみさんのお母さんですか?」


斯波のお母さんはかなり衰弱していた。だが、一生懸命俺に話してくれた


「まゆみのお友達ね。高野君でしょう?」


「はい、高野です」


「ごめんなさい。私が倒れたばかりにあなた達に迷惑かけて」


「そんな......」


「まゆみは今、どうしてるの?」


俺は衝撃を受けた。斯波のお母さんが唯一、斯波の居場所をしる人間の筈だった


 だけど、斯波のお母さんから斯波の居場所を聞かれてしまった


「すいません。俺もまゆみさんの居場所を探してるんです」


「えっ?


 だって、この病院の手配もまゆみがしてくれて。私、倒れた後の記憶がほとんどなくて」


「そ、そんな......」


「でも、そのうち、まゆみがお見舞いにくるわよ」


俺の顔は多分輝いたと思う、自分でもそんな気がした


「そうですよね。まゆみさんがお見舞いに来ますよね」


「ええ、連絡先を教えて頂戴、来たら、連絡してあげるから」


「はい、ありがとうございます」


そう言って、俺は斯波のお母さんに自分の連絡先を渡した


 俺は、少し、安堵し、病院を後にした


 だが、お母さんからの連絡は1週間しても来なかった


 そして、1週間後にお母さんの病院を尋ねると既に退院していた


 俺は、斯波の行方のあてを全て失った

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