第14話 ~夜桜羽美の独白~

「……ふぅ」


 ギリギリ駆けこんだ電車内で、扉を背に軽く息を吐く。練習時間を言い訳にして、一人で先に帰路についた。


 ――そう、言い訳。


 余裕がないのは確かだけれど、走るほどじゃない。家が隣の颯は気づいているかもしれないけれど、そんな事にも気が回らない程に心を乱された。


 颯は覚えていないみたいだけれど、わたしには心当たりがある。白雪さんが語った動画に。穹が有名になった影響だろうか、関連動画としてピックアップされているのかもしれない。


 ――聞きたくなかった。


 自分から問い質しておきながら、そんな言葉が出かかった。……だから、逃げるしかなかった。


 もっと適当な、わたしに都合のいい理由を期待していた。ただ、颯を残してFBを辞めない確証が欲しかっただけなのに。


「……そりゃ、あんな顔するわよね」


 颯は気づいていないみたいだったけど、彼女は話している間、ずっと羨望の眼差しを向けていた。今はまだ、それ以上の感情は読み取れなかったけれど。


 こんな事になるなら、陽姉にお願いするんじゃなかった――なんて、最低な思考が支配しないよう、思いっきり頭を振りかぶる。


 正しい。これが颯にとって正しい選択……そのはずだ。彼がFBを辞めてからというもの、何もかもが変わってしまった。


 まるで自身を罰するように、颯はすべてを手放した。その姿を目の当たりにしながら、わたしは何もできなかった。……きっかけを、探していた。だから彼女を利用した。


 それなのにこんな感情を抱くなんて、お門違いも甚だしい。


 彼女は颯の隣に居続ける。

 それは、わたしには出来なかったこと。

 わたしには……許されなかったこと。


 胸が締め付けられる。

 これは駅まで走った代償だ。

 それ以外の感情なんてない……はずなのに。


 無意識に、貰ったばかりのネックレスを握りしめる。

 強く、強く。


 ――決して手放さないように。

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