あたし……憧れのかおる先輩に、壁ドンされてるんですが!?【エイプリルフール】

NkY

ちょっとした昔話という名の前置き。

 部活。学生生活において、大きなウェイトを占める大事な居場所。


 あたしは――あ、あたし、粕谷かすや未瑠みるって言うんだけど。そんなあたしは、中学に入学して間もない頃部活決めに物凄く苦戦していたんだよね。

 苦戦していた、というか……何にも興味を持てなかった、っていう方が正しいかもしれない。どんな部活もどこか違和感というか、めんどくささというか、そういうのがあって前向きに決められなかったんだ。

 でも、全員どこかしらの部活に入らなきゃいけないのが学校の決まり。他の子たちがワイワイと次々と部活を決めるのを眺めながら、あたしは白紙の入部届を無気力に眺めてたんだ。


 ……え? 意外? 吹奏楽部入るんだー、わーい、って友達とキャーキャーやってるイメージだった?

 えっとね……実はね? 粕谷さ……学校入ったばかりの頃はすごくすごーく暗い子だったんだよ?


 まあ、それなりの事情はあるんだけど……今はそんな話じゃないから、教えない。


 そんな仮入部期間が終わりに近づいてきた日の昼休み。誰にも言っていない……というか到底言えるはずなんてない、重い重い思いを背負い込んだあたしは、気分転換に屋上に行っだんだ。

 立ち入り禁止にはなっているけど、そんなのこのあたしは気にしない。むしろ立ち入り禁止なのが都合がいいんだよね。誰もいないのが約束されているから。

 騒がしい周りの子たちから離れて、粕谷は一人になりたかったんだよね。


 誰もいない……はずだったんだ。

 でも……屋上のドアの向こうから、楽器の音が聴こえてくる。

 あまり音楽を知らなかったあたしでも分かった。この音は、トランペット。


 ドア越しの音だからちょっとこもってたけど……その音に、胸をぎゅっとわしづかみにされた。

 もっとちゃんと聴きたくて、鉄製のドアをおそるおそる開ける。

 鍵はかかってない。すんなり開いちゃった。


 ドアをほんの少しだけ開けた瞬間、こもっていた音がドアの隙間からはっきりと耳に届いた。その瞬間から、あたしはその音のとりこになっちゃった。

 透き通ってた。真っすぐだった。……とても、とても綺麗だった。

 思わず前にのめり込んだ。自分の身体がどんな姿勢になっているのかすらも忘れちゃってさ。


「うぎゃっ」


 そうなると案の定、バランスを崩して倒れちゃった。

 思わず変な声を上げてすっころんだあたしを、音の持ち主が少し驚いた顔で見つめる。

 肩くらいまである、とにかく大きなポニーテールの先輩だった。


「あはは、聴いてた?」

「ご、ごめんなさいっ。隠れて聴いちゃってて……」

「いいのいいの。それよりあたしにファンが出来た方が嬉しいから」


 あわあわしてたあたしに、先輩はトランペットをおろしてウインクを飛ばしてきた。

 ドクン、と胸が思わず高鳴っちゃったのを覚えている。


 すごく、可愛い……。


 多分、そういうのを一目惚れって言うんだろうね。今となっては分かる気がする。


「……部活、まだ決まってない?」

「あ、はい……悩んじゃってて」

「それじゃあ今日の放課後、音楽室来てみてよ。あたし、教えてあげる」

「え……?」


 あの先輩に、直接教えてもらう。そんなことを想像して、顔が熱くなってきた。

 そんな体験初めてのことで……自分が分からなくって、戸惑ちゃって。


 え。女の子だよ? あたしも女の子だよ? 何で……?


 ……それが、あたしとやまかおる先輩との出会いだったんだ。

 音に惹かれて、聴きいってしまって……って、わりと小説とかだとベタだよね。あはは。


 そして……女の子相手に胸がドキってなる感じも、初めて体験して……今思い返すと、もうその時点であたしはかおる先輩のことを特別視してたんだよね。

 でも、あたしに女の子を好きになる趣味なんてないと思ってたから、戸惑っちゃってさ。放課後部活に行くのもほんの少しためらってた。


 ……でも、いざその時になると身体の奥から突き動かされるように、真っ先に音楽室に行くあたしがいてさ。

 驚いちゃったよね。ついさっきまで無気力だったあたしが、真っ先に吹奏楽部行きだよ? 笑っちゃったよ、あたし。




--※--




 吹奏楽部はとても人数が少なかった。たしか粕谷が入ってきた時には当時の二年生が5人、当時の三年生がたったの2人の計7人。去年――は吹奏楽部は小中学校の交流行事に来てないから分からないけど、おととしの交流行事の時は結構大勢の部員がいた気がする……だいたい、40~50人くらい?

 それが、こんなにいなくなっちゃうとか……びっくりしちゃうよね。本当に。


 あ、ちなみに粕谷の代は10人入ってきたんだよね。14人来て即座に5人辞めて、その後1人途中入部って感じ。

 ……即座に5人辞める辺り不穏だよねー。うんうん。

 まあ、今のあたしはその理由知ってるんだけど……でも、今これから話はあくまでかおる先輩の話だからしない!


 その上、顧問の先生はほとんど不在と等しい状態だった。吹奏楽をまともに教えられる先生がいないんだって。

 一応いたはいたんだけど、ほとんど監督役に徹してた。教えてくれないことを除けばそんなに悪くない先生だったよ? ああしたい、こうしたい……っていう相談事にも乗ってくれるし。何でだか演奏機会はもらえなかったけど。


 まあ、その演奏機会をもらえなかった理由も今の粕谷は知ってるけどそれも教えないよ? かおる先輩の話だもん。


 と、まあ、そんな感じの崩壊しかかってる部活だった。外から見ればね?

 でも……楽しかったよ? 外からのプレッシャーがない分、楽しく音楽できた。主にかおる先輩がみんなをまとめ上げて引っ張っていく感じの部活だったんだよね。三年生もまとめちゃってさ。すごかったよ、ホントに。


 そして、粕谷は……本当にかおる先輩に教えてもらった挙句、トランペットを吹くことになった。

 かおる先輩、すごく素敵なんだよ? 丁寧に分かりやすく教えてくれるし、色んなことを楽しそうに話してくれるし。テストとか行事とかの話もしてくれて助かったし。


 で……そんなかおる先輩の隣にずっとあたしがいるんだよ?

 手を伸ばせば届く距離に、かおる先輩のすごく可愛い笑顔があるんだよ?

 ……我慢できなくなるよね。普通ね。


 いや、普通じゃないけどさ。うん。

 でも、この吹奏楽部、普通な人皆無だから。……いや、一応普通な人はいるんだけど。クラリネットの学指揮の先輩。



 まあ、それはさておき。

 ここまでが、実は前置きだったりするんだよね。長くてごめんね?



 この先は……粕谷の妄想。じゃなくて……別の世界線の粕谷とかおる先輩の話。

 だから、まあ、その……今話してるのあたしとは全くつながりのないあたしの話ってこと。

 知ってる人に向かって言えば、本編とは何のかかわりもないよってこと。


 というか、ぶっちゃけるとかおる先輩を性的に好きというのも本編とはかかわりないからね?

 つまり実は前置き含めて全部本編とはまるまる関係ないよってこと。ごめんね? エイプリルフールだからね?



 まあ、それでもいいのならこの続きを読むことをよしとしよう。えっへん。


 ほんとに? ……いい? おっけー?


 結構過激にやっちゃうけどいい? 粕谷クオリティ炸裂するよ??






 ……それじゃ、どーぞ。

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