第4話 え? え? えー。
――かくして俺は、その週の土曜日、合コンのために駅前の広場を訪れていた。
……いや待て。待ってくれちょっと俺の名誉のために弁解をさせてほしいと思う。
これは信じてもらえるかどうか分からないが、なにも俺だって合コンに乗り気だったというわけじゃない。むしろ、他人が複数人同時に集まって
となれば、だったら断ればいいじゃないか――という意見も多分にあることだろうと思う。いや、実際、俺だって最初は断ったさ。「合コン? 俺が? 無理無理、ぜってー無理。俺には向いてないだろ、そういう場」って、森畑の誘いを受けてすぐに俺はそう返したはずなんだ。
しかし、まあ、あれだ。
「ええー!? ちょっと笹ちん、んなこと言うなよぉ!? 俺と大っちの仲じゃんねえ?」
とか森畑がウザい絡み方をしてきたのが、まあ、悪いと思う。
「……いやおい、笹ちんとか大っちってなんだそれは。俺のことか? そんな珍妙なあだ名でお前から呼ばれたこととか、これまで一度たりともなかったはずだと思うんだが?」
「えーいいじゃんよぉこんぐらい。ほらほら、お隣のイケメンがこんなにフレンドリーなんだぜ喜べよぉ~」
「ってぇわけでえ! 笹ぴょんも俺ちゃんと一緒に楽しい合コンパーティーに参加けってーい! うぇーい!」
「いや、だから行くとは一言も……」
「いやそこをほらなんとか頼むぜマジで? ってか、ここだけの話……」
と、薄気味悪くも、森畑が男同士だというのに頬がくっ付くぐらいに顔を近づけ、囁きかけてくる。クラスのどこかで、お腐りになったどこかの誰かが、「きゃあっ、な、な、ナマモノッ、貴重なナマ絡み! ほ、保存しなきゃ……ハァハァ……」黄色い悲鳴を上げながら変態じみた吐息を漏らす。……だからナマモノの取り扱いには注意がさあ……。
げんなり指数がそろそろ120%を突破しそうな俺の耳に、森畑の声がとどめを刺した。
「……人助けだと思って、来るだけ来てくれよ~。な? 実は笹原の名前出したら泉ヶ丘女子のきれいどころ揃えられてさ、だから笹原ちんが来てくんないとこの合コンも全部なかったことに……」
「……ええ、なんで勝手に俺の名前使ってんだよ……」
「なーんか、界隈じゃちょっと有名らしくてさ、お前の名前。ほら、駒中の笹原大樹って言えば、当時の野球部を全国まで導き
左様か。
まあ、それなら仕方ない。うん、人助けだもんな。人助けなら合コンにぐらい出るのも致し方ない。
というわけで、俺は今日、人助けのためにここへ来ている。決して……
そんな風に俺が、心の中で誰に向けてのものか分からない言い訳を連ねていると、駅の方から華やかな一団が現れた。女子の三人組。いずれも整った容姿をしているが、真ん中の一人はその中でも際立って目立つ女の子だった。
俺の周りの女子だと、系統として近いのは睦月だろうか。だが、睦月が方向性としては美人だとした場合、俺が今眺めている少女は『かわいい』の方向に突き抜けているといった印象だ。セミロングの髪の毛は染めた様子もなく艶やかな黒髪で、隣り合う友人と言葉を交わし合いながら微笑みを浮かべればえくぼがなんとも愛らしい。
こんな一団を目の当たりにすると、『世の中には、樹里や睦月以外にも、美少女ってやつがいるもんなんだなァ』なんてことを思う。相当の幸運がなければ、きっと俺なんかじゃお近づきになれないタイプの女の子だ。正直、今日の合コンだって、そんなに期待はしていない。だって森畑が集めた女の子だろう? 失礼な話だとは思うが、あいつがかわいい女の子を集められるわけが……。
「あっ、いたいた! えーっと、笹原大樹さん、ですよね?」
「……ふへ?」
「あはっ。ふへ、だって。かわいー!」
不意に声をかけられて顔を上げると、そこにいたのは、睦月をかわいいの方向に突き抜けさせた感じの美少女が一人。
彼女は、特徴的なえくぼを笑顔と共に浮かべてみせると、やたら溌溂としたノリで言ってきた。
「初めまして! 椎川
「はぁ……笹原ッス。……え? 合コン?」
「はい。合コンです。え、しますよね、今日? 笹原さんも来るんですよね、合コン?」
「行くけど……あ、うん。そうだけど、そうなんだけど……」
おい森畑。
こんなかわいい子が来るなら先に言え。心の準備が追いつかない。
え? え?
……えー。
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