第42話『そうなんですか!』


乙女と栞と小姫山・42

『そうなんですか!』       







 そうなんですか!


 三宅プロディユーサーの言葉に五期生のみんなが湧いた。


 栞一人が赤くなった。


「そうなんですか!」は、連休のレッスンで、栞が思わず発した言葉で、MNBの五期生の中で、ギャグとして定着し、昨日は選抜メンバーがテレビの生放送でウケて、すぐに変化球の「うそなんですか!」

が、生まれ、MNB二発目のギャグとして、これまた定着の兆しである。


 で、三宅プロディユーサーの「そうなんですか!」は、急遽決まった五期生のテレビ初出演を伝えたところ、みんなが「嬉しいです!」と、大感激したので、三宅がかましたギャグなのである。むろん、大いにウケた。


 統括プロディユサー杉本の肝いりで、こどもの日の特番生番組に、ガヤではあるが五期生の出演が急遽決まったのである。

 開場は、舞洲アリーナだった。ここは、高校の部活の王者に位したケイオンでも、予選を通過し、本選グランプリでなければ出られないところである。それが、ついこないだまで廃部寸前だった青春高校の演劇部だった栞とさくやが出ているのである。校外清掃で謎の一億円を見つけたことといい、まだ知らぬことではあるが、乙女先生に美玲という娘ができたことといい、青春高校の、この一週間は、まことに目まぐるしい。

 この生番組は、こどもの日にちなんで、ちびっ子そっくりMNBが出たり、東京、名古屋、博多の系列グループの結成当初の、いわばグループにとっての「子供の時代」にあたる曲が次々に披露された。


 そして、番組途中のトークショーでは「そうなんですか!」の連発になった。

「このMNBグル-プを作ろうとなさった、動機はなんなんですか杉本さん」

 MCの芹奈が振る。

「いや、ほんの出来心で……」

「そうなんですか!」

 と、芹奈が応える。会場は大爆笑になってしまう。というようなアンバイで、最後には杉本プロディユーサーが困じ果てて叫んだ。

「だれだよ、こんなの流行らせたの!? 話が、ちっとも前に進まないよ」

「そうなんですか!」

 もう、観客席も含めて大合唱の大爆笑になった。

「ほんと、だれ? 怒らないから手をあげて!」

 栞は、怖くて手もあげられなかったが、みんなの視線が、自然に集まってくる。そして、イタズラなスポットライトが栞にあたり、栞は、しかたなく手をあげた。

「おまえか、手島栞!?」

「いや……そんな悪意はないんです」

「あって、たまるか。栞、ちょっと『二本の桜』の頭歌ってみ」

「え、あ、はい……」

 直ぐにイントロが流れ、栞は最初のフレーズを歌った。




《二本の桜》

 

 春色の空の下 ぼくたちが植えた桜 二本の桜

 ぼく達の卒業記念

 ぼく達は 涙こらえて植えたんだ その日が最後の日だったから 

 ぼく達の そして思い出が丘の学校の





「うん、研究生としては上手いな」

「ありがとうございます」

「ばかだなあ」

「は?」

「こういう時に『そうなんですか』をかまさなきゃダメだろうが!」

「え、そうなんですか!」

 ひとしきり会場の爆笑。

「こうなったら、栞には責任とってもらいます」

「え、ええ……!」

「今月中に『そうなんですか!』を新曲としてリリースします。むろんセンターなんか張らせないけど、この曲に限って選抜に入れます」

「え、ほんとですか!?」

「杉本寛に二言はありません!」

 会場や、メンバーから歓声があがった。栞は、ただオロオロとしていた。進行妨害事件以来縁のある芹奈アナウンサーが声をかけた。

「栞ちゃん、今のお気持ちは。ひょっとしたら、あなたのデビュー作になるかもしれませんね」

「え、そうなんですか! あ、あわわ」

 また、笑いになった。

「もういい、自分の席に戻れ」

「はい」




 なんだか分からないうちに事が運び、栞は席に戻った。



 そして、すぐに、次のゲストに呼び戻された。

 栞との対談以来、栞のファンになった梅沢忠興先生である。ただ栞は研究生の身であるので、リーダーの榊原聖子のオマケとして、後ろに控える形ではあった。



「榊原さんにとって、MNB24ってのは、どんなものなんですか」

「わたしも二年前までは高校生だったんですけど。なんだか、いい意味で、このMNBがもう一つの学校だったような気がします」

「飛躍した聞き方するけど、学校って何?」

「う~ん、生きる目的を教えてくれて、いえ、気づかせてくれて、仲間がいっぱいできるところですね」

「うん、言い方はちがうけど、そこの『そうなんだ』と、基本的には同じ事だね。どう、榊原さんにとって、こういう後輩の存在は」

「いやあ、栞ちゃんとは、先生と彼女が対談したときにいっしょしたじゃないですか。まさか、それが、後輩になって入ってくるとは思いませんでしたね。栞ちゃん」

「はい!」

「あなた、ほんとうに高校二年なの?」

「あ、ハイ!」

「ハハ、今日は手島さんの方がカチンコチンだな」

「ハハハ、だって仕方ないですよ。いきなり杉本先生にあんなこと言われて。ねえ」

「は、はい!」

 栞は、もう冷や汗タラタラである。

「栞ちゃん。汗拭いた方がいいわよ」

「は、はい、でも……」

 ハンカチ一枚持っていない栞であった。

「スタッフさん。タオルお願いします」

 聖子が気を利かした。しかし投げられたタオルは、少し方向がズレて、栞は思わずジャンプしてひっくり返ってしまった。ミセパンとは言え丸見えになってしまい。栞はあわてて立ち上がりアップにしたカメラに困った顔をした。

「君たちに、一つ言葉をあげよう」

 梅沢先生は、一枚の色紙を聖子に渡した。

「声に出して呼んでみて」

「騒(そう)……なんですか」


 この意図せぬ梅沢の一字が、しだいに現実になっていく栞、そして小姫山高校であった……。



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