第32話『合格発表』


乙女と栞と小姫山・32  


『合格発表』       






 今日は合格発表の日だ。


 MNB24第五期生オーディションの合格発表だ!



 さくやも栞も三時までは津久茂屋で働いた。今日はオーディション二日目で、それが終わると三十分で選考されて、その場で発表になる。


 当然朝から気が気ではなかったが、バイトの仕事に打ち込むことで忘れることにした。


 もう四月も半ば過ぎだというのに、今日の日曜日は、朝から肌寒い。


「こりゃ、お茶引きかなあ」


 恭子さんの予想に反して、お客さんは多かった。それも大半がシルバー世代で、これから、池田の五月山や、中には六甲の山を目指すという老人クラブの団体さんもいた。  


 そして、三時でバイトが終わると、栞とさくやは、オーディションを受けた難波の越本興業のビルに急いだ。


「えー、それではMNB24第五期生オーディションの合格発表をいたします。受験番号を呼ばれた人は前に……受験番号、1番 3番 6番……47番」


――やったー!――  


 自分の受験番号を呼ばれたとき、心ではそう叫んだが、56人の落ちた子達のために、あえてその喜びは封印した――喜ぶのは、いつでもできる。今は冷静に噛み締めよう。これが礼儀だ――



 そのイマシメは『事後の説明』のあとに行われた記者会見で、もろくも崩れた。



「あなた、小姫山の手島栞さんですよね!?」


 週刊日々の記者が皮切りだった。マスコミでは下火になりかけているとはいえ、手島栞の名前と顔は、記者やレポーターたちの記憶には十分新しい。3分ほどではあるが、栞にカメラと質問が集中した。


「こないだの事件から、なんだか180度の転身に見えるんだけど、なにか、きっかけとか、葛藤とかあったんですか?」


「いいえ、ごく普通にこうなりました。やりたいことがやれる場所ってことで考えると、自然にMNBになりました」


「栞ちゃんは、落ち着いて、とても自信たっぷりに見えるんだけど、その自信はどこからくるのかなあ?」


 栞は、ここにいたるまでの、いろいろな事が頭に浮かんだが、四捨五入して、こう言った。


「はい、根拠のない自信です!」



 プロディユーサーの杉本寛が大笑いした……。


  

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