05
戻って来るやシンシアとライはソファに座る。ライはテーブルに足を乗せ、シンシアは足を揃えて座っていた。
そんな中、アルフォンスは奥の扉を指し示す。
「左はバスルームとして、あそこは何ですか?」
「ああ、小さな部屋だが寝室に使っている。適当に下に敷いているだけだがな」
「ゼロさん、ここで寝てるんスか?」
「一応少し歩いた場所にモーテルはあるが、そちらは車庫まで先客だらけだ。しかも今の時代じゃロックも掛けられない」
住む場所を失った者達にとって、使えそうな場所は早い物勝ちだ。先客がいれば襲撃して獲る者もいる。しかも、ロックがない。
それに加えて、一室も広さはそれほどではなく、隣室と違い。つまり危険性は高いのだ。物資を持ち込んでも数分で奪われる可能性がある。バイクなんて片時も目が離せないだろう。
説明をすると、アルフォンスは腕を組んで思案する。
「確かに……ホテルとかモーテルとかはすぐに思いつく場所だから競争率高そうですよね。……って、違うんス。訊きたいのはそこじゃなくて」
進んでしまった話を、慌てて元の分岐点に戻す。ゼロは小首を傾げた。気遣わしげに、訊きたかった問いをアルフォンスは投げる。
「ゼロさんは、もう家はないんスか?」
「嗚呼……あるが、この町にはない」
「引っ越して来たって事ですか?」
「そんなところだ」
家はあると知り、胸を撫で下ろす半面で仲間を見付けたとばかりに声の調子が上がる。肯定ととれる返事をした。流すような返事が、それ以上の言及をしづらくさせる。さすがのアルフォンスも、追及はしなかった。
テーブルに置かれた機械をアルフォンスが持ち上げる。眉根を寄せて目を閉じ、思考を深めていた。先刻のリフレッシュルームの様子が頭を過る。拳を作った手をもみあげに宛てて、ライは見ていた。
「生の食材が手に入るわけでもねぇんだし、諦めろよ」
「……いや、諦めないっす! エネルギーと食材さえあればいいんで。互換性ありそうだから、今あるので使えそうですし。お湯を沸かせれば、色々使えますよ? いつかマカロニチーズとか作れるかも知れないっスよ」
「ジャンキープロテインと比べりゃ全然魅力感じねぇな。美味くて手軽で栄養豊富! あれで済んじまうんだからよ」
「意外とサプリメント系食べるわよねぇ、ライって」
何とか許可をもらおうとするが、ライは否定的だ。
現代におけるサプリメント系は見た目も味わいも普通の食べ物にまで迫っている。本物には劣りはするが、それなりに満腹感もあり、保存も利く。価格が高いのがネックではあるが、現在では関係ない。むしろ生の食べ物よりは流通している。現実的ではないのだ。
すかさず否定的な意見が飛び出るライに、次第にアルフォンスから 活力が失われていく。
「使用したいなら構わないが」
項垂れていくアルフォンスにゼロの声が降る。瞬間、勢いよく頭を上げた。
「その代わり、基本的にお前自身で手に入れた物での使用をする事だ」
「は、はい」
条件をつけての許可が下りた。リーダーであるゼロからの許しを得られたとはいえ、勢いは落ち込んでいる。実現には遠い。自身の力で獲る。至極真っ当な条件だが、少し前まで現在の物価も知らなかったくらいだ。自分だけの力で使えるようになるまでには
時間がかかるだろう。今すぐ可能とは言えない。
萎れた花のように元気が失われたアルフォンスに、「とは言っても」とゼロは続けた。
「私達も、これまでにもカミカゼに支援してもらっている身だ。自身で獲た物も多いが、私などは特にアルコール面を貰い受けている。調理に使えそうな物を手に入れた時は渡そう。こちらで手に入らない時や、それ以外は自分で探すというやり方が適していそうだが……それでいいな?」
アルフォンスは目を瞬かせる。リーダーからの言葉を呑み込んだアルフォンスは、深く肯いた。失せていた元気が復活し笑顔で両腕を上げる。
話は解決を見せ、ジェスチャーの大きい彼から顔を背けた。
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