天才な俺が異世界転生したら世界最弱になった。
K
第1話終着駅
俺の名は島袋ユウキ、いわゆる天才だ。
ハーバード大学を12才で卒業。卒業後は、ありとあらゆる分野の会社を企業し、全ての企業を年商5000億を超える大企業し成長させた。世界一多種多様な会社を設立した経営者としてギネス記録を取ったのはまだ、16才の時だった。
若くして大金を手にした超人的に完璧な俺は、テレビ局を買収しアイドル、女優、グラビアアイドル、この世の美女という美女を抱いてきた。頭脳も明晰だが、身長180㎝で八頭身あり、まるでハリウッド俳優のような顔をしている。見た目もイケメンなのだ。
ライトノベルというジャンルの小説には異世界転生したらチート能力を持っていた、なんて小説が描かれていたが、俺はまさにチート能力を持っている主人公そのものだ。何の苦労もなく人類の頂点に立ち、全ての人間を見下しながら人生を謳歌していた。
そんな俺だが死は突然やってきた。
みなさんは『腹上死』という死因をご存知だろうか。別名、性交死とも言い、性交に伴う射精が原因で、心臓麻痺を起し死んでしまう恐ろしいものだ。分かりやすく言うと、ヤりすぎて死んじゃった!・・・という事だ。その日はアイドルの選抜メンバー48人を集め、一位を決める乱交総選挙を行ったのだが、48人目を抱き終えたと同時に18年にわたる人生の幕を下ろしたのだった。
「いや、『幕を下ろしたのだった』じゃねぇーよ!」
死後、俺はいつの間にか、どこまでも広がっている何もない空間に飛ばされていた。椅子に腰掛けた一人の女性が何処からともなく現れた。神々しい光に包まれながら現れた女性は、ブロンドの髪に青い瞳をしていて、純白のドレスに身を包んでいる。
その女性は自分を女神と名乗り、死んだ者を導いくのが使命らしく俺を導くために現れたのだが、俺の人生を知り、我ながら間抜けな死因を聞いた辺りで、急に怒り出し鬼神の様な形相で俺を怒鳴りつけていた。
「何カッコつけてんのよ!あんたはただのヤりすぎただけでしょ。このケダモノが!!」
「あれは、合意の下でやっていた事だ。まぁ交換条件として番組の出演をちらつかせたり、俺の会社のCMのオファをしたり、断った事務所には圧力かけただけだ。それの何が悪い!」
全く悪びれもなく、まるで自分がやって来た事が当たり前で常識的な事を言っているかの様な物言いだ。当然だ、俺は何も悪い事はしていないのだから、当然!セックスも合意の下で行っているわけでレイプしたわけでもないし、たくさんの女を抱きたいのは男の願望だろ!たまたま俺が権力を持っていただけな事だ、たまたまイケメンな金持ちなだけなのだ。自分の持っている武器を存分に使って何が悪いんだ。
「くそ野郎じゃねーか!お前マジで屑なんだけど。」
女神は、今にも吐きそうな表情をしている。俺を心の底から見下している様な刺すほどの視線を向けてきた。だが、このくらいの軽蔑をされているのは慣れている。生前俺は死にたくなるほどに夥しい数のそういう異常な殺意にも似た感情を毎日の様にぶつけられていたのだから。
「皆はやりたくても出来ないだけだろ!皆それが出来るとなると大抵の奴はやるんじゃねーの?」
「やらねーよ!私も長い事女神やって来たけど、こんな人間の屑初めて見たわ!」
「だーかーらー。俺が屑なんじゃなくて俺が権力や金を持っていたから実行出来ただけで、今までのその他大勢が俺と同じ権力や金を持っていたら絶対!絶対に同じ事やっているだろ。」
「ぐっむむむ!」
女神は悔しそうに俺を睨みつけながら、唇を前歯で血が出るほどに食いしばっている。
苦虫を噛んだ様なその表情に俺は非常に満足だ。相手が悪かったな女神よ。俺はこの手の言い争いでは生まれてこのかた負けたことがない。
まぁ相手は少女なわけだし、少し大人げない気もするが相手は女神だ。このくらいが丁度いいだろ。
「・・・・ではしょうがないですね。あなたの様な畜生をこのまま野放しにはできません。」
女神がポツリとそう言うと両腕を天に掲げ、瞳を閉じて唱える。
「主よ、この若くして命を落としてしまった哀れな人間に慈悲を与える事をお許しください。」
女神がそう唱えると天から輝かしい光が差し、俺の頭上に巨大な魔方陣が現れ身体が吸い込まれていく。だが、なんとも言えない心地よさに包まれている。この気持ち悪くない、まるで赤ん坊の時に母親に抱かれているかの様だ、こんな安らぎは久しぶりだ。
心地よさに浸っているのを後目に女神は続けた。
「島袋ユウキ、汝に再び生命を与えます。生きる喜びを噛みしめ、神に感謝し今度こそは真っ当に生きなさい。」
女神は瞳を開き、天に掲げていた腕を俺に向ける。
「さぁ旅立ちなさい!」
身体が完全に魔方陣に吸い込まれ、俺は眩い光に包まれ何も見えなくなり、意識を失った。
「・・・・ユウキ、あなたに慈悲を与えます。そして罰も。」
女神はそう呟き、ほくそ笑んでいた。
「おい、大丈夫かい。兄ちゃん?」
無骨な声が鼓膜を叩く。目の前には巨大な男が俺の顔を覗いている。男は上半身は裸で、筋骨隆々な体をしていてブカブカのズボンをつけていた。
ここはどこだ?倒れていた俺を大勢の人間が跨いでゆく。正確には人間だけじゃない、狼の様な頭をしている者や猫、様々な亜人がそこには生活していた。
あの女神が言っていたここが慈悲なのだろうか。だとしたらここは死後の世界ではなく、現世であると思う。だが、俺が知っている日本の物陰はまるでない。高い高層ビルやマンション、それどころか車やバイクも無く、コンビニすらも見当たらない。そのかわり、中世ファンタジーに出てくる様な建造物に馬車や馬が走り見たこともない道具に溢れている。
「どうした兄ちゃん。ボーっとして、記憶が無いわけじゃないだろう?」
「ああ、すいません。少し気が動転していて気が付きませんでした。少し訪ねたいのですが、ここはどこですか?」
見慣れない風景に呆気に取られていた俺は、目の前の男を完全に失念していた。おおっと危ない、ここで無視していたら難癖をつけて喧嘩を吹っかけてくるに違いない。どう見てもこの面は悪人のそれだ、間違いなく人を2、3人は殺している。顔に傷もあるし、ここは刺激しない方がいいだろう。幸いここは言葉は通じる様だし後でどうにでもなる。
「おいおい、兄ちゃん。本当にここがわからないのかよ?ここは首都エルサレムだ。大金が飛び交う商売の国、ユダヤの首都エルサレムだぜ。」
「ありがとうございます。では・・・」
「ちょっと、待てよ。どこにいくんだい。お前さん金はあるのかい?エルサレムでは何をしても金がかかるぜ。この町の外を出るにもな!」
「なに?まじかよ、金なんてないぞ。・・・・どうすればいいんですか?」
男は空を見上げ、腕を組み何か考えている。少しの時間が経ち、何か思いついたかの様にこちらに笑顔を向けた。
「よし!じゃあ俺が金を作れる場所に連れてってやるよ。ついてきな!!!」
こちらとしては願ってもない話だが、どう考えても怪しすぎる。しかし、他に手立てもないのも事実だし、逆説的に言えばチャンスでもある。この男がもし普通の善人で好意として言っているのだとしたら、ここで断ると生活できるまでのお金を調達するのにものすごい時間がかかるかもしれない。最悪ホームレスになり野垂れ死ぬ事になる。
そして気がかりなのは、あんだけ俺の事を嫌いな女神が俺をただ生き返らせるとは思えない。何か裏があるはずだ。それに、この世界は俺の知る世界ではないみたいだし、例えるならナルニア国物語の様な世界によく似ている。魔法が発達し中世ローマの様な雰囲気だ。未知の世界だとすると俺の今までの知識や常識は全くといって良いほど役にはたたないだろう。ここは一か八か賭けてみよう。
「わかりました。でも、どこに行くんですか?」
そう言いつつ、既に歩き出してもう見えなくなりそうな男の背中を人をかき分けながら男を追う。
「そんなの決まってるじゃないか!」
男は立ち止まり腕を広げ、声を大にして叫ぶ。
「ここだ。エルサレム最大のギルド『タナハ』だ!」
「ギルドってあのギルド?」
「ギルドって言ったらここしかねぇだろ?ここはいいぜ、仕事もあるし飯や寝床も登録さえすれば無料でつかえるんだぜ」
「なに!本当かよ!さっそく登録しに入ろう!」
「ああ、ちょいと待ってろよ。俺が口利きして特別待遇にしてやるからな!」
「ありがとう!めっちゃ助かる。」
なんていい人なんだ。俺は人生のなかでこんなに良い人間は初めてだ、この恩は忘れない。そんな事を思いながらギルドの大きな門をくぐった。
ギルドの中に入るとそこは活気に溢れている。周囲には香ばしい匂いが立ち込める。食べきれない程の料理が運ばれ、酒を飲み酔っぱらう人達。これが無料で楽しめる上に仕事まで斡旋してくれるなんて最高だ、天国かよ。
俺がギルドの雰囲気に夢中になってる頃、男は何やら受付のお姉さんと話している。登録の手続きをしているのだろう、ずっしりとした袋を男が受け取りこちらに手招きした。
「兄ちゃん、この機械に手を伸ばしてみろ。これで登録は終了だ。」
そこには不思議な光を放っている石板を置いてある。腕を差し出すと強い光を放ち、石板の中からカードが飛び出し、お姉さんが受け取った瞬間に目の色を変え、怒鳴りだした。
「何ですか!このステータスは!!!こんな人は見たことないわ!!」
「なんだよこれ!」
男がカードを横から覗き込み、お姉さんに続く。
「え?俺ってそんなに凄い?凄い?」
「はぁぁぁぁ!そんなんじゃねーよ!こんなに低いステータスは見た事ねーんだよ!!!!」
「本当よ!せっかく新しい人間を連れてくるって言ったから大金を支払ったのよ!!どうしてくれるのよ!!」
何やら喧嘩を始めた二人を余所に投げ捨てられたカードを見て俺は愕然と固まってしまった。
「なんだよこれ・・・・嘘だろ、低いなんてもんじゃない。知力以外すべて1じゃねーか!」
ガッシャン
ガッシャン?何の音だ。ふと首元を触るとなにやら金属の様な感触がある。まさか首輪か!?しかも取れないぞ。
「ああ、それ無理やり取ると爆発しますよ。ユウキさん」
「!?」
俺の名前は先ほどカードを見たとき知ったのだろう。それより聞き捨てならない言葉が聞いたぞ、首輪が爆発するだと・・・・・嘘だろ?
「じゃあな」
男はパニックになっている俺に見向きもせずそそくさと出ていった。その後、座り込んでいる俺に受付のお姉さんが手を差し伸べる。
「さぁ、お立ちになって。ステータス最低の勇者という名の奴隷さん。」
気が動転し頭が働かない。吐き気がしてくる。今まで沢山の修羅場をくぐり抜けて来たが、これは桁違いにヤバい。少なくても平和な日本では絶対に遭遇することはないだろう状況だ。ここが異世界である事を甘く考えていた事を思い知らされる。
放心状態の俺に追い打ちをかける様に耳元で囁く。
「クスッ。早くしないと爆破しますわよ。ク・ビ・ワ」
俺はすぐに飛び上がる。もはやこの時は思考してはいなかった。俺の身体は脳に考えが行く前に既に動いていた。
それはもう反射でしかない。今までの人生の中で味わった事がない恐怖を考えないように、直視しないように、何も考えられなかった。
これは生きていなければ味わえない恐怖。死んだからわかる。一度、失ったから実感する。恐怖とは生きていないと感じないことに。
そして俺は歓喜していた。なぜならこの恐怖こそが、この恐ろしい感情こそが今、現在、生きている証明なのだから。
ドカンッ
「ぐっァァゥゥッッッ!!!」
俺のみぞおちに受付をしていた女が履いているピンヒールが突き刺さる。今まで俺に向けられたどの視線よりも冷徹な目で俺を眺めているのを感じた。うずくまり呻き声を上げている俺の周りにはいつしかギャラリーが集まっていて、みぞおちを蹴られた俺を見て歓声を上げている。
女が右手を挙げた瞬間、歓声がピタリと止んだ。そして俺に話しかける。
「さぁ!歓迎するわ。ようこそ!この世の地獄。強制労働者収容所・魔物討伐隊ギルド『タナハ』へ!!!!!」
女は続ける。
「せいぜい長生きしてね!このギルド最弱、いいえ世界最弱の勇者、島袋ユウキ君。」
地面に這いつくばりながら失神していた俺の顔は、意外にも笑顔を浮かべていた。
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