神様列車
楠ジゼル
第1話 無人駅
冬の終わり。
気づけば私はぼんやりと寂れた無人駅のホームに立っていた。
ネイビーのダッフルコートを着て、紺の靴下を履いている模範的な学生が「私」だ。
擦れた駅名標の横に、黄ばんだ時刻表。
どちらも薄汚れて文字は読めない。
すうっと伸びた灰色の地面に、木造建ての簡単な上屋と、椅子が備え付けられただけ。
実に質素なこじんまりとした待機所。
僅かに光る電灯の下、その横で「私」は電車を待っていた。
従業員もいなければ自分以外の乗客もいない。
雪がそろそろちらつきそうな灰色にくすんだ空の下。
辺りはひたすら静寂に包まれている。
向こう遠くには民家の明かりひとつも見えない。
頼りになる明かりは待機所内だけだった。
ここ一帯の景色は、ただ不気味だ。
私はなんとなく、ひょいとホームの下を覗く。
うっすらと見える線路上を包むのは、底知れぬ闇。
このコンクリートの足場から少しでも足を踏み外せば、途端に吸い込まれて戻れなくなるような気がする。
それもいいかもしれない。
そんな気がしてくるから、夜というのは不思議である。
しばらくして鉄と鉄がひしめき合う音が聞こえ、線路の先に小さな明かりが見える。
蛍ほどの光であったそれは徐々に大きさを増し、少しずつ速度を落としてこちらに近づいてくる。
ごとん、ごとん。
まばゆい光が駅に差し掛かり、おもむろにそれは姿を露わにした。
ところどころ錆びついたのは、古い紅茶色の車体だ。
小さな金切り声を暗闇に響かせて、焦らすようにゆっくりと停車した。
車両がゆっくりと私の前にとまり、静かにドアが開いた。
青白い光が、私の足元を照らした。
最後に周囲を見渡すが、私以外乗客はいない。
車両は多く、末端が見えない。
暗闇のせいか気のせいだろうか、延々と果てしなく、長くも見える。
あまり待ってくれなそうなので、私は乗車することにした。
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