73話

素材はとりあえずもともとこいつが目的だったミヅキ先輩に回収してもらっている。僕はあまり欲しがるわけでもないし、なんならいらない部位でも共有倉庫に入れておいてもらえればもしかしたら使うってくらい。


ドリさんが欲しいのはパジャマや布団、ベッドなどに使う素材で会って、魚の素材ではないらしい。いるかどうかミヅキ先輩が聞くと、生臭いので嫌ですよーと答えていた。

僕が言うのもなんだけどドリさんよくついてきてくれたな。半分くらい寝ていただけとはいえただ働きだ。しかも釣りもしてない。


ミヅキ先輩が設置型アイテムの焚火を設置するとその上に結晶からアイテムに変換された、魚肉を出す。部位ごとにドロップしたのか肉質も何種類かあり、底の浅い鍋にそれらを並べる。焚火の上へ鍋を置いてそのまんま焼き始めた。

あれミヅキ先輩料理できましたっけ。


「料理はできない、スキルも持ってないし。でも焼くくらいならどのプレイヤーでもできる」


「最悪焦がしますけどねー」


「……最悪ブルーレアくらいで問題ない。たぶん魚だし生でも行ける」


いやどうなんでしょう。ここ一応湖っていうか、たぶん川魚とかの部類なんで寄生虫とか……ああ、でもここ全然虫も他の生き物もいないし、なんならファンタジー世界だった。

ていうか食べるんだ。


「お腹壊したりってデバフあるんですか?」


「たぶんないんじゃないですかー?ああ見えてもハナミさんが料理上手なんでー、お腹壊すようなもの食べたことないだけかもしれないですけどー」


「あったとしてもたぶん倦怠感、スタミナの減少くらいのデバフだから帰りには問題ない」


いや、デバフを食らうことは問題だとは思いますけど……まぁいいや。確かにこの後はクランハウスに戻って、リーシュ君に装備を修理してもらうくらいしか用事はないし。


魚に絡まっていた鎖を回収していく、なんならこの鎖の耐久値も結構減っているな。

うーん、鎖にも種類欲しいな。巻き付ける用、移動用、スキルの射程を伸ばす用とか。……案が思いつかないし、いったん保留しておこう。リーシュ君に一応相談するけど、今忙しそうだし今度でもいいや。


「焼き加減完璧……!」


「おおー、ミヅキが料理できたのですよー」


「……なんかインスタント麺作って褒められた現実リアルを思い出した。納得いかない」


まぁミヅキ先輩ってなんというか、プレイヤーをキルする以外何でも器用にこなすイメージとかないですし。現実世界とかキルすらできないから……


「失礼な気配を感じた。現実では勉強もできるし、運動もそこそこできる」


「話に聞く感じ学年で一桁とかくらいできるみたいですねー」


まさか、ミヅキ先輩が?

PK以外にも才能があるだなんて……


「失礼な気配がまだ漂ってくる」


「まぁ夢もそう思うのですけどーとりあえず掲示板で噂に聞く巨大魚、食べてみるのですよー」


噂になるくらいなんだこの魚。とりあえず見た目で違いのわかる三種類のうち一種類を全員で持ち上げ、食べる。


「うん、案外美味しい」


「白身魚っぽいですかねー?なるほどー、焼いて塩だけだとちょっと味が薄いかもですけどーしっかり味付けすれば美味しそうなのですよー」


食レポが始まった。僕は……うん、美味しいです。美味しいですね。あの、いい感じにあっさりしてて。いいですよね。すごい。美味しいです。


「次はここですねー」


「そういえばこれどこの肉なんですか」


「さっきのはお腹、今持ち上げたのが頬肉」


へぇ、結構しっかり分類わけされてるんだな。それに全部味が違うのか。今食べた頬肉もさっき食べたお腹の肉よりやわらかく、油の乗ったねっとりとした味わいが先ほど食べた部位よりも……ってドリさんが隣で語っている。僕は……うん、美味しいっすね。なんか、柔らかくて、ぷにぷにしてて?


さて、この最後に残った部位はどこの肉なのだろうか。お腹、頬と来たら……尻尾とかだろうか。と言ってもあの尻尾は結構硬かったし、あまり肉付きがよい類のものではなかった気がするけど。


「おお、美味しい」


あまり食べたことがない触感だけどなんだろう、魚っぽくなく、どちらかというと牛や豚に近い脂身の味がする。焼いて塩を振った程度の味付けでもステーキとして十分美味しい、ご飯が食べたくなる味だ。


でもこれはどこの……


「一番美味しいのが足の部分とは……皮肉」


やっぱり魚として微妙だよこいつ。




「えー、魚取るんになんで連れっててくれへんかったん?」


「ハナミいなかったし」


「呼んでくれれば行ったんになー」


「来てくれたら夢は寝ていられたのですけどねー」


ギルドハウスに戻り冷蔵庫、ではなく共有倉庫の中に食材や連れた魚をぶち込んでいくとハナミさんが帰ってきてさっそく物色していく。巨大魚、小魚、そして自分で取ってきたのだろうか海藻のようなものを取り出し調理室へもっていった。


「ちなみに足の肉が一番美味しかった」


「ああ、料理せんとそんな感じかもな。魚の部分もちゃんと料理すれば美味しいねん」


そう言ってミヅキ先輩の時よりも鮮やかな手際で、捌き、下味をつけ、フライパンに並べる。同時に鍋にも火をつけ取り出した海藻類を煮だしていく。


「ハナミさんが料理してるのなんか違和感ありますよね」


「わかりますよー、なんでですかねー」


「……普段が女子力とかと無縁そうだから?」


「言いたい放題やけど聞こえとるで」


ああ、なるほど。確かに普段部屋の中でお酒飲んで散らかしてボタンさんに怒られている姿からは、このてきぱきと料理を作る姿が結びつかないのかもしれない。


「付け合わせとかじゃんくさいから作ってへんけどとりあえずちょっと食べ?」


「る」


ミヅキ先輩がフライパンから取り出され、さらに置かれた魚の前に素早く移動する。目をキラキラさせながら取り出した箸……じゃないなあれ。針だ。ちゃんと箸で食べていただきたいけどまぁゲームだしいいか。


もきゅもきゅと小さい口に何度も魚を運び食べていく姿にほっこりとしながら、ドリさんと共にハナミさんが盛り付けてくれた魚を食べる。淡白だった魚の身にバターや醤油っぽい味が加わり……ていうか醤油あるんだ。


「現実の調味料はβんころからすぐ作られとるで。第一の街に畑あるし、運営はあんまり料理重視しとらんからレシピ楽なんかもな」


「まぁ生産ってわりにはバフとかも控えめですし、趣味って感じですよね」


「でも食べるとしっかり美味しいですしー、現実気にしなくていいのでー」


「アルコールあるんが一番えぐいんよ、食いすぎ飲みすぎでデバフ入るけど」


二日酔いとか食べすぎ、胃もたれみたいな微妙なデバフがちゃんとあるらしい。それにかかると実際に頭痛、よりは軽いが頭が緩く締め付けられるような違和感、胃が重くなったような感覚が来るらしい。それがなかったβ初期は重複しないバフ料理食いまくっていたらしい。味気ないっすね。


「甘い物もっと食べたい」


「あんまりウチ甘いもんで酒飲めへんのよな。検討しとくわ」


結局お酒が飲めるかどうかなのか。確かに今食べてるものもなんというか、味付けが濃い気がする。もう少し薄味でもいい気がするけど、そこら辺家庭の違いなのかなって思っていたけどもしかしてお酒のあてにするための味付けか。

いや、僕が普段病院食みたいなのばかり食べてるからって説もあった。


「というわけでおつまみ二品目や」


「煮込み料理っぽいのに魚がでーん、とはー」


「野菜とか一緒に煮込んでもええんやけど、めんどかった。今度仕込んでおくわ」


恐らく頬肉の部分を使った煮込み料理だ。元々柔らかかった頬の肉がさらに柔らかく煮付けられ、さらに味がしみ込んで……ご飯が。


「お酒ならあるで」


「未成年」「隣に同じですね」「夢もまだギリギリですねー、成人しても飲むかわからないですけどー」


「カーッ、ゲームの中なんやから平気なんになぁ!というか若者ばっかりか!」


ゲームの中だからこんな味付け濃いものを気道とか気にせずガツガツ食べれてるんですけどね。十分楽しんでますよ。お酒は……まぁ、気が向いたら?ボタンさんとかリーシュ君に頼んでください。というか有名なお酒職人なら飲み友とか作ればいいのに、と思わないでもないけど。


「おるにはおるけどβ上がりの前線のやつらなことが多いから予定合わないんよな、もうほとんど第四らへんなんちゃうかな」


そういうとまた料理に戻っていった。腹、頬と来たら最後は……あれか。





やっぱりシンプルな味付けとはいえ、足の肉が一番美味しい気がする。この魚ダメだ。

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