67話
「くしゅん……風邪ひいたかな。いや、現実ならともかくゲーム内で風邪とかひかないか。現実で風邪ひいたらやばいし」
風邪というものは病弱ならある程度かかりなれている物だが、あれは風邪だけですまないのが質が悪い。併発するリスクや体の免疫が弱るのが問題なのだ。
とはいっても別にゲーム内で風邪とかいうバッドステータスがあるわけでもないので、この回想になんの意味もないのだが。
あの後レオさんと別れて僕も先に第二の街へ戻ってきた。第二の街に戻るなら別に別れないでもよかったのだけれど……知らないクランと一緒に行くのはちょっと気まずいし。
そういえば青熊を倒したことで解放されたスキルは。
うん、僕があまり使うようなスキルではなさそうか。そういえばスキル使ってこないよな最近の敵モンスター。第一の街から第二の街まではスキルを使ってくるモンスターが多かった印象だけど、第二の街から第三の街は身体能力に任せて殴ってくるイメージがある。
もしかしたら自己バフ系のスキルが開放されているし、パッシブで発動してるのかな、モンスターも。
逆に言えば僕が今欲しいようなアクティブタイプのスキルは第一の街から第二の街で探したほうがいいかもしれない。とりあえずいったん戻ってカラスさんに貰ったアイテムしまって、ドリさんいたら話して、シバさんの装備とか……あれ?MMOとは言えお使いみたいなクエスト多いな。僕がやってるのはVRMMOのはずだしなんならNPCとはほとんど話していないはずなのに。
しかも当初の目的では第三の街まで行くはずだったのになぜ僕は今第二の街まで戻っているのだろうか。冷静に考えたらレベリングもスキルとりも第三の街到達も素的なハウジング計画も何一つ進んでいない……。
まぁしいて言うならスキルは取得できてるか。でも現状に満足してないんだよな。そういえば攻撃のバリエーションを増やすっていうお題もあった。うーん……
考えながら歩いているといつの間にかクランハウスまで戻ってきていた。中へ入ると物音もしない……が、なんとなくわかる。こういう時はだいたいリビングのソファで……ああ、やっぱり寝てた。ドリさんだ。
と言っても僕の帰宅を告げる鈴の音で起きていたようだが。若干寝ぐせの付いた頭から先ほどまで寝ていたことがわかる。と言ってもササっと頭を手櫛か何かでかけば直るものだけど、この人そういうとこ無頓着だからな。
「起こさないでほしいのですよー」
「ドリさんは僕が足音もアラームも慣らさないレベルになることをお望みなんですか?」
「ミヅキはそろそろその域に到達しそうですねー」
マジかよ、やっぱりあの人暗殺者じゃん。リビングの共有倉庫からカラスさんに貰ったアイテムをしまう。
「そういえばリビングで寝てましたけど他のメンバーは?」
「さっきボタンさんがレベリングのたびに連れて行きましたよー、シバさんとか連れてー。後なんだかシバさんがこういうMMOとか慣れてないみたいなんでマナーとか教えに行きましたー」
「まぁ、初見で殴りかかってきてましたからねあの人」
ミヅキ先輩は初見で殴りかかるどころか暗殺しかけてきたけど。あの人なんで捕まらないんだ。比較対象があの人なのはダメだな。ほかにも初見では……譲宣さんも切りかかってきたし、暴風さんにも切りかかれたわ。あれ?もしかして僕このゲームで知り合った人半分くらい殴りかかられてる?
いやレオさんだ。レオさんは道を聞かれただけだ。そのあと故意ではないにせよ殴られそうだったけど。もうだめだこの世界。目の前にいる眠そうな人も良く考えたら最初パシリ扱いだったし。
「どうしたんですかー?」
「いや、何でもないです……ああそうだ。黒鳥会って知ってます?」
「急に話振りましたねー、それにしても黒鳥会ですかー」
そういうとドリさんはメニューを何やら操作し慌ただしくウィンドウを開いたり閉じたりしながら一つにまとめ始めた。あれ?あなたそういうインテリ機械系キャラでしたっけ。そういうのリーシャさんの仕事だったと思ったんですけど。
「黒鳥会はトップ三に入るとか言われてるPKクランの一つで、特徴はPKを仕掛けるときは礼節をもってというルールの元、宣言してから行われること。たまに守られないみたいですけどねー」
早速守られない事例を体験してきました。
「黒鳥会が大本の組織で、傘下に数個小規模中規模のクランを抱えてる実質大規模クランですよー。ただ黒鳥会にはその中でも上位のプレイヤーしか行けなくて、実力ごとに分けてパーティーを組みやすくしたり、進行度を合わせたりしてるみたいですねー」
譲宣さんもカラスさんも結構上位の実力者ってことか。それにしては譲宣さんは正直……うん。もしかしたら奥の手があったかもしれないけど僕でも対処できそうだった。それと比べてカラスさんは手の内がわからないし、何か余裕のある感じがあったから実力がありそうってのはわかるんだけど。
「文字通り五本の指と言われる実行部隊に、目と呼ばれる情報収集部隊、頭をクランリーダーにおい足と呼ばれる抱え込んだ独自の技術を持った生産職に、構成員を体に例えているみたいですよー、いいですねー。ファンタジーというか中二感ありありですねー」
僕らも干支モチーフとか、少数精鋭にやりたいことやるとかそこはかとなく中二感ありますけどね。僕は絶賛進行形でそういうお年頃なので好きでたまらないんですけど。
「黒目組、黒犬部、わー、下のクランだけでウチと同じくらいの規模ありそうですよー」
「でもレベル10とか20レベくらいのプレイヤーたちならミヅキ先輩とハナミさん突撃させれば全滅させれそうですよね」
「コマイヌ君もジャイアントキリングばっかりしてますけど、そういう役割得意なタイプですよー」
なんてことを言うんだ。広域爆破ガールとマップ兵器虎ビームレディと地味に剣を振るうしかない僕を一緒にしないでほしい。
「それにしてもなんで黒鳥会なんですかー?たぶんあのクラン的に第三の街付近で決闘挑んでると思いますけどー」
「それがですね……まぁかくかくしかじかで」
「かくかくしかじかですかー。コマイヌ君なら暇つぶしで歩いてたら遭遇したとかな気がするですけどー」
ドリさんならもしかしたらと思ったけどまさか本当にある程度意思をくみ取ってくれるとは。
それはともかく。かくかくしかじか。
◇
「なるほどー、まぁだいたい予想通りですねー。黒鳥会を撃退してるとは思わなかったですけどー」
「と言ってもよくわからなかったんですけどね。後から来た人の方が強そうでしたし」
「夢もあんまり内部事情は詳しくないのでー?黒鳥会でもさらに上と下があるんじゃないですかー?五本の指とか言っときながら利き腕と逆の手があるとかー」
「急になんかまぬけなかんじになりましたね」
僕は嫌だ。後で譲宣さんを倒したら『くくっ、やつは五本の指の中でも最弱。我ら裏五本、利き腕が勝負だ!』とかいう展開。そんな引き伸ばし漫画みたいな展開を中二感溢れるクランでやらないでほしい。
「彼らは似たようなことをしているけど黒鳥会とは別に無差別PKを生業としてる赤狼とは違って、悪質なPKを取り締まったり、PKをコンテンツとして楽しもうとする思想が多いので概ね受け入れられてるみたいですねー」
「ちなみにミヅキ先輩はランキング付けすると」
「あの子は正直気に食わないとやるタイプなのでわからないですけどー。ミヅキとハナミさんがいるだけでウチはたぶんトップ十とかに入るんじゃないですかー?」
あの人たち普段一緒に行動してないからわからないけれど、普段どれだけ野蛮なんだ。PKクラン相手だから容赦なかったとかじゃないんだ。
「ミヅキなんて一時期黒鳥会のことボーナスポイントって呼んでましたんですよー」
「あの人正面からの戦闘苦手なんじゃないですか?」
「勝負を受ける条件にお互い離れて時間をおいてからっていうのを付けてたんですよー。結果相手は動くたびにボカンですよ。しかもそれを越えてくる五本指とか頭とかの人相手には全力で逃げますしー、逃げながら隠れて反撃するミヅキは基本的に追い付けないのでー。今じゃミヅキは黒鳥会のブラックリスト入りですー」
話を聞いていて少し黒鳥会の人が可哀想になった。
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