66話

「何をぼさっとしている……すまん、俺が悪かった」


わかればいいんですけど。今鎧を脱いでいたらたぶん僕にシバかれてましたよ。

そういえばレオさんの戦闘力ってどんなもんなんだろうか。あそこで一人で寛げていたので別にあまり心配はしていないのだが、タンク……っぽいんだよね?VITとSTR振りって言ってたし。


幸い熊がいるこの場所は川辺かつ木も適度に生えている林のような場所だ。一応僕が得意としているマップではある。最悪一対一を三回繰り返させてくれれば熊三匹が相手だろうが倒せるのだが。その場合レオさんの負担が一時二倍になってしまうのだが。


「僕の戦い方って特殊なんですけど、どうします?」


「コマイヌの好きな戦闘方を指定してくれ……俺が合わせる」


「本当にいいんですか。じゃあ僕が一体さくっと片付けてくれるんで、ちょっとの間二体見ててもらっていいですか」


「それくらいなら平気だ……青と赤一匹ずつのヘイトを取る。あと一匹の赤をやっておいてくれ……」


え、たぶん上位種っぽい青を担当しようと思っていたのだけれど、赤と青を担当する気なのかこの人。ちょっと作戦を話し合おうと声をかけようとしたときには、赤と青が一匹ずつレオさんに攻撃をしかけ、もう一匹が僕の方へ襲い掛かってきていた。

ヘイト管理がばっちりな上に、まだ攻撃してない僕にちゃんとヘイトが向かってるんだけど……ま、まぁとりあえずさくっと一匹倒しちゃおう。


僕へ四足を持って突進してくる熊を正面から見据える。≪脱兎之勢≫を起動。≪ライトウェイト≫を起動。≪紫電一閃≫。

熊の真横に移動する。さすがにこの速さには反応ができないみたいなので追撃に≪スラッシュ≫≪ピアス≫≪バッシュ≫を連携させる。

ようやく横っ腹を殴られまくったことで僕が移動していることに気づいた熊が、その鋭い爪が生えた腕を振るう。剣と鎖を一つずつその場に残し後方へ飛び退く。≪脱兎之勢≫の効果により後方へ下がる時のみさらに加速する。


鎖を伸ばし続け、木と木の間を縫うように移動する。熊はこちらへ突進しようとするも、そもそものスピードに差がある上に木々の隙間に鎖が巻き付けられ、熊の巨体では思うように動けなくなっている。


鎖を伸ばし切ったときに、剣を楔として打ち込みそこで止める。そして木の上に飛び乗り、熊の頭上から≪空烈閃≫で不意打ちを当てる。


不意打ちに驚いた熊が反射的に振るう腕を避け、鎖の上に乗る。これぞ電気ウサギ戦で思いついた戦法。自分で足場を作ればいいじゃん戦法。漢字で言うと立体機動一撃離脱戦法。


こちらへの攻撃を狙う相手には上へ左へ右へ跳びまわり錯乱させ、カウンターを狙う相手には地上からの反応すらさせない直線移動による超速攻撃を。鎖による僕専用のフィールドだ。しかも元は【素兎しろうさぎ】に内蔵された鎖のため、僕が設置した扱いとなり鎖の判別も容易にできる。


正直電気ウサギ以上の速度か僕並みの反射神経がない奴相手には反撃すら許さない、設置に時間がかかる上に場所も限られるができたら最強の鎖の巣である。

というわけでおらおらおらー。



問題点があるとすると鎖の回収に時間がかかることと、鎖を全部巻き取ると一気に重く感じる点だな。それにしても林みたいな場所だからできたけど……うーん、これがどこでもできたら今度のPvP大会でも使えそうなんだけど。何個か構想はあるけどやっぱりMPがネックなんだよな。魔法、覚えようかなぁ。


一匹を宣言通りサクっと片付けたので急いでレオさんの元へ戻る。あれだけ啖呵を切ったのだしいいタイムだったと思ったけど……レオさんは。

レオさんの元へ戻ると二匹からの猛攻を華麗に巨大な盾でさばいているところだった。おお、ほとんどダメージも受けていない。青い熊を盾による叩きつけで大きく弾き飛ばしたかと思うと、赤い熊に近づき……思いっきり殴り飛ばした。


え?そういう戦法なの?とつい近づく足を止めてしまったが青い熊は気にせずレオさんに攻撃をし、全て叩き落とされている。そんなことをしているうちに殴られた際の衝撃から復活した赤熊が再度レオさんへ向かったかと思うと、また拳で殴り飛ばされ吹き飛ばされる。


暴風さんと言いレオさんといい、なぜ僕が知り合う男性は拳や脚で戦うんだ?と思ったけど僕もほとんど構えは徒手空拳なんだった。


もしかしたらこのゲーム拳とかが強い仕様なのかもしれない。VRだから元々拳とかの方が……いやないわ。


というか戦いに見入ってしまっていた。急いでレオさんの元へ駆けつけると赤い熊とレオさんの間に入る。


「すいません、ちょっと見てしまってってあぶな!」


急には止まれなかったのか、僕がレオさんの想定よりも早かったのか、赤熊に振るわれた拳が僕の顔の横を通過する。危ない、当たっていたら僕の頭があの熊よりも真っ赤な色に染まっていた。


「早いな……」


それは僕の移動速度がですか、それとも熊を倒したのがですか。それとも避けるのがですか。最後じゃないことだけを祈りますけど。


「どうする……俺は合わせるが」


「たぶんあれだけダメージ与えたなら赤熊はちゃちゃっとやれますかね?」


「わからん……」


この人ほとんどのことわかってないな。

まぁ高レベルプレイヤーということはわかったのでタンク的行動は任せてしまおう。正直フリーで殴れるなら今の僕は結構なDPS出せるし。


「じゃあとりあえず突っ込んできますね」


「頼んだ……」


と言っても別に今回は赤い熊を誘導する必要とかもない。ただまっすぐ突っ込んで。≪紫電一閃≫

正面はレオさんがヘイトを取るので邪魔しないように背中側へ。≪飛燕≫

あとはいつも通り、関節や目、心臓や首などの弱点になりそうなところをえぐるように。≪ピアス≫≪スラッシュ≫≪クロスカット≫


うん、サクッと落ちたな。最後に足に刃を展開し思いっきり蹴り飛ばし後退する。蹴って離れる際に≪脱兎之勢≫のバフが適用されるため、通常より遠くへ跳ね退くことができる。


そしてその速度が攻撃力に換算されたのか、ちょうど削りきれるHPだったのかはわからないけれど僕が着地をしたのと同じタイミングで、熊が崩れ落ちることが聞こえる。


殴り放題だとワンパターンになりがちだな。もう少し攻撃にバリエーションを増やしたいところだ。とはいっても≪紫電一閃≫が便利すぎて攻撃の起点がだいたいこれでまかなえてしまうのがなぁ。


「レオさん、こっちはオッケーです」


「そうか……ではこいつも片付けてしまおうか」


そう言うとレオさんは突進する青熊に向けて思いっきり盾を突き出す。今まで捌かれることに使われていた盾を攻撃に使われた青熊は困惑し、鼻っ柱をへし折られてしまった。鼻を殴られただけにね。


「鼻……?」


「ツッコミ入れないでください」


疑問を抱いたレオさんの言葉を遮る。危ない危ない。適当言ってるのがバレるところだった。

余り気にしていなそうなレオさんは盾をそのまま熊に向かって投げ捨てたかと思うと……なんで投げた?

そのまま熊の腰に当たる部分を両腕で掴み上げた。そして熊の巨大な図体を持ち上げたかと思うと、そのまま地面へ向かって投げ飛ばす。


金太郎かこの人。


そして腹を見せてうずくまる熊を上から盾で押さえつける。金太郎ならここで仲良くなるところだけど……


「すまんが止めは任せた……」


まぁテイムできるわけでもないですしそうなりますよね。押さえつけている熊は面食らって混乱しているようだが、もう少ししたら暴れだすだろう。そうなる前に攻撃を加える。


なんか二人とも変な戦い方だったけど、ごちそうさまです。




「奇妙な戦い方をするな君は……」


「あなたには言われたくないですね」


最終的に攻撃手段のほとんどが肉弾戦のタンクに言われたくはない。僕は戦い方に関してはちょっと早くてちょっとスキルを繋ぐのが得意なだけの一般プレイヤーだ。たぶん暴風さんとかならステータス振ればできるでしょ。できないかなぁ。やってくれないかな。


「しかし俺一人だったら夜までかかっていた……助かった」


「たぶんレオさん一人だったら夜までここに辿り着けてないんで大丈夫ですよ」


アイテム分配は基本均等に分けられるが、今回は僕が多めに殴ったこともあり多く受け取っていたので、トレードでレオさんに渡しておいた。レオさんはあまり頓着していなかったようだが僕としてはクラン員の人以外と組むときはここら辺しっかりしておきたい。ミヅキ先輩とは違うのだ。


「それにしてもその戦い方……どこかで……」


「ああ!レオさんこんなところにいた!探したんですよ!」


甲高い声が響き、そちらに視線をやるとメガネをかけた如何にも魔法職といった出で立ちの女性が杖をぶんぶんと振りながら近づいてきていた。そして僕とレオさんのことを見比べて、小首を傾げる。


「ああ、もしかして道案内してくれてたんですか!すいません!うちの団長がポンコツで!」


「いや、見て見ぬ振りもできなかったので」


「すいません本当に!ほら、レオさんも謝って!」


「俺はもう何回もお礼を言ったのだが……ありがとう」


いやいいんですけどね。たぶん見捨てていたら第三の街通り越して第四の街の方か、大陸の端っこまで行ってそうでしたし。


メガネの女性は思い出したように杖を上へ向けると、魔法を三発放つ。それは昼間の中でも鮮やかな色を空中へ咲かせ、大きな音を鳴らした。え?信号弾?この人捜索隊組まれてるの?


信号弾を放って数分すると、辺りからわらわらとプレイヤーが集まってくる。捜索隊いた。


「じゃあ、自分はこの辺で失礼しますね」


「本当にありがとうございました!またいつかお会いしましたらしっかりとしたお礼しますね!」


「助かった……また会おう、コマイヌ」


別れの挨拶をし僕は集団から離れる。最後のレオさんの挨拶だけ、何故かまた会うことを確信していたような口ぶりだったけど。気のせいだろうか。



「もう、レオさん。今度から一人で……ってどうしたんですか?」


「いや……楽しみができたと思っただけだ」


そういうとレーベリオは普段あまり作らない笑みを作り、コマイヌが去っていた方を見て笑った。周りの団員たちはどうしたのだろうかと疑問に思っていると、レーベリオから疑問の答えを出した。


「今度のイベント……注意が必要としていたが資料不足だったプレイヤーがいただろう」


「ああ、あのレイドイベントに参加したり、レオさんと同時期に出た【暴風】相手に勝ったりしたあのプレイヤーですか」


「先ほどの少年……コマイヌのことだろう」


周囲が驚く中、レーベリオだけが薄く笑っていた。自分たちβテストで二つ名がついたプレイヤーたちだけでなく、新しい風が舞い込んでいることがわかったことに感謝しながら。


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