53話
「オネーチャン!中止ってのはどういうことだァ!」
「ここにいる十二支の子が~、えっと~クエストの前提条件とか、話とか、今の会話とか図書館とか……とにかく先に止めをさしちゃうとまずいってことです~!」
先ほどからリーシュ君が不安そうにしていた理由がわかった。戦闘中のシステムメッセージで解明したならしょうがないけど、もう少し先に言ってほしかった。
既に亀裂は竜の身体全体を覆っており、竜が倒れるのは時間の問題だとみてわかる。
『其処にいたのか我が友よ……行こう、我らの使命を果たしに……』
そしてタンクたちが必死に止めていたはずの騎士が、包囲網を突き破り竜の身体へ向く。距離を取っていた戦士たちが止めようとするも、止めようとしたプレイヤーへ槍を振るうと、防御行動すら間に合わないほどに早く振るわれた槍は体力を吹き飛ばした。
え?ステ振りはわからないけど、防具とか含めての上位勢のHPが、全損?
そう思い突破されたタンクの体力を見るとスキルや装備、それらすべてで軽減しているであろうにHPの半分以上が減っていた。
先ほどの即死を見てしまったプレイヤーたちは止めることもできずに、騎士が突き進むのを見ている。しかしあれを止めなければいけないというのは明らかだ。
「止まれやレイドボスさんよォ!」
誰もが躊躇っている中、意気揚々と跳び出し槍に剣を合わせたのは暴風さんだった。その顔には微塵も怯えなどなく、強敵が出現したことへの喜びだけが伺えた。そして暴風さんが勇んで前へ出るとそれに釣られる様に動く数人がいた、暴風さんのクランメンバーたちだ。彼らは背後から剣を、弓を、魔法を放ち暴風さんと息もつかせない連撃を放つ。
「もう!ウチのリーダーはなんだってこんなんなんだ!」
「サブリーダーがこないと止める奴がいねぇんじゃ!」
「まったく、早くスクラさんも戻ってくれませんかね!」
思い思いに暴風さんへの文句を吐くクラン員さんたち。
そういえば最初の街で会った剣士のお兄さん、スクラさんって暴風さんのクランのサブリーダーなんだ!確かになんか苦労している雰囲気あったし、仲間に置いてかれてるとか言ってたけどサブリーダーだったのか。
いや、早く戻ってきてくれないかとか言ってるけどあなたたちも置いて行ってる側ですよね?スクラさんなんかソロで全部やる羽目になってて困ってましたよ。しかも第二の街で暴風さんに会いましたけどあなた煽りに行ってましたよね?
なんやかんや似たものが集まっているんだなと思って恐怖半分、面白さ半分で静観していたがそんな場面ではない。僕らが手を出せる場面ではないが危機であることには変わりないのだ。さて、攻撃をやめるよう言われたけど騎士をどうするか。
僕が触れたら(僕が)余裕で消し飛ぶバーサークモードなのには変わりないし、暴風さんとそのクラン員である人たちの高い連携で持っている状態なので入る余地もない。
今もほら、暴風さんが槍を切り上げてその下から現れるように剣が差し込まれ、突き刺すように撃たれた槍を盾が防ぎ、盾ごと穿たれる前に離脱してまた前へ出る。基本に忠実、かつ後衛もダメージを出し続けている。あそこに入ると邪魔になるかもしれないと思うと前へ進めない。
しかもなんだろうか。暴風さんがスキルをうつたびに剣がだんだんと変わっている、気がする。なんだろうか、スキルを撃つたびに風が吹いている……?
しかしそんなギリギリのところで保っていた均衡が崩れる。暴風さんのクラン員であるタンクのプレイヤーが盾で弾き損ない、肩に槍を突き立てられた。さすが上位勢のタンク、一撃では落とされやしないが体力を一気に失い、前線が崩れる。当然すかさず回復を行うが回復で妨害の手が止まり、ヘイトがヒーラーに集まり、それをかばう為にまたダメージを食らい……ついに暴風さんが後ろへステップを踏んだタイミングで、竜へと一直線の空間ができてしまう。
「止まれェ!」
それに気づいたのは僕と暴風さんだけだったか。前から僕が、後ろから暴風さんが挟むように全力で剣を振るうも、騎士は中段で構えた槍を前へ、一直線に竜へと突き進む。
そしてついに騎士が竜へとたどり着き……亀裂の入った竜の心臓へと槍を突き立てた。
亀裂は広がり、遂には結晶となり弾け飛ぶ。そしてその結晶は突き立てた槍へと集まり、槍を伝うように騎士へと集まった。
『聞こえているぞ友よ……行こう』
システムメッセージが流れる。静寂の中にどくんという音が響きわたった。
空間が脈打ち、騎士自身も苦しむのを抑えるように蹲りながら心臓を抑えている。静寂に耐えかねたのか、逆に今こそがチャンスだと思ったのか数人のプレイヤーが騎士へと攻撃を振るう。リーシュ君の静止の声が届く前に、騎士が動き出した。
自身へと振るわれる剣を
うなり声をあげながら、両腕で左右にいたプレイヤー掴み、頭部を握りつぶす。正面にいたプレイヤーの喉元に噛みつき、食いちぎる。当然そんな生々しい描写がされることはなく、HPが全損し、プレイヤーたちはポリゴンを散らすことになるだけだが、ほぼ一撃。
そう、そこにいたのは先ほどまでいた竜の特徴を持った人。いや、人のサイズにまで落とし込まれた竜と言うべきか。黒色の炎を口から漏らしながら、周りを睨みつける。
【哭竜騎士】
そしてモンスター名が表示される。なるほど、二体で一体のモンスターだったと。
これ、同時にHP削っていかなきゃいけないタイプだったかぁ。
僕が呑気に感想を思い浮かべていると翼を大きくはためかせ、人の姿をしながら飛び上がる。先ほどよりも俊敏に、しかも的が小さくなったことで遠距離班もうまく狙えずにいる。偶然か、腕がいいのか何人かが攻撃を届かせるも、攻撃を届かせたプレイヤーにヘイトが爆増。全タンクでかばわなければいけないほどに苛烈な槍撃が見舞われる。
さて、どうしようかこれ。たまに地上に降りてきた時に全員で殴りかかってるけどそれも短時間だし、このままじゃちくちくし合いだけどそれだとあちらに分がある。
「コマイヌ、ちょっといいか」
攻めあぐねている、そう思っていると暴風さんから声がかかる。どうかしたのだろうか。
「何とかあいつを数秒でいい、地面に縫い留めればでけぇのがある。お前とハナミつったか、行けないか」
「ウチはもう色々すっからかんやね。さっきのは一回こっきりやし。あーあ、こうなるんやったら撃ち損やったな」
残念そうに肩をすくめるハナミさんと、何かを期待するようにこちらを見る暴風さん。うーん、まぁ今回の戦闘だいぶ観察してきたし、頭もいい感じに集中してきている。たぶんもうそろそろ一番いい脳味噌具合になってくるだろう。
脳味噌具合ってのはいい感じに狂ってきていて、いい感じに脳内物質が出てきてる状態のことだ。たまになる。
「遊撃班らしいですしやってみますけど、ちょっと射撃止めてもらうかもしれないです」
「それくらいなら問題ない、つっても自衛はするけどな」
「たぶん大丈夫です……そんなに期待しないでくださいね?」
とりあえず最悪僕が犬死するだけだろうしやってみるか。コマイヌだけに、犬死ってね。
◇
「シュバさん、なんで攻撃止めるん?」
「坊主がでっかい花火打ち上げてくれるのを期待してんだ」
「コマイヌ君?と言っても彼軽装の前衛でしょ?何するつもりなんだろ」
「いくらVRとはいえMMOですよ、個人のプレイヤーが何とかできるわけ……」
「見てろって、俺ァ坊主がなんかやるのにかけてんだ」
集団の前で自分のプレイを見せるのは少し緊張する。ただ少しくらいの緊張なら、プレイに集中力を生んでくれるいいスパイスだ。後衛の攻撃が止まったことにより、竜騎士のヘイトは奪取してくれているタンクたちに集まる。そしてタンクさんたちへと竜騎士が向かうが、そこの背後に隠れてさせてもらっている僕の元まで向かうことになる。
カウンターをするように突撃してきた竜騎士目掛けて右腕を振るう。おそらくAIの処理的に剣を出していない僕は無視をされると読んでいた。その横っ面に刃を展開した右腕で、スキルを使い、殴る。扱い的には≪バッシュ≫だが、実態は右ストレートだ。そして少量のダメージが入ったことにより竜騎士のヘイトはこちらへ向かう。
遊ぼうよ竜騎士。
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