52話
「あっっっ……ぶないなぁ……」
炎が下に放たれ、地を舐めるように広がっていく。盾を炎が広がる中心点に構えながら範囲防御スキルを放ってくれているタンクたちの後ろにアカリさんを抱えて下がる。
たぶんレイドバトル以前に、鎖とかを含めて改善できるスキルがないか探して新しいスキルを取得していなかったら抱えては走れなかっただろう。
【ライトウェイト】
まずパッシブ効果で自分の体重が半分になる、それだけのスキル。
ではなく、それに加えてアクティブ効果があり、持っている物にまで重量半減効果が及ぶのだ。鎖は軽い物にしてもらったがそれでも伸ばし切ったりすると重心がずれたり、変に動きづらくなってしまったのを改善するためのスキルだ。
ついでにこのスキルで体重が半分になることで、一応AGIが上昇したような効果が得られる。どちらかというと横方向の機動力は据え置きだけど、縦方向の機動力は重量と直結しているので本当に目に見えるほどに上がった。今の僕ならおそらく壁ジャンプできるしジャンプで木を超えられるだろう。
ただそれだけのスキルなのに割と必要スキルポイントが重かったけど。本来の使い方だと重戦士とかが少しの間だけ機敏に動くスキルとかなのかな。確かにそのコンセプトなら強そうに感じる。いや、僕だって強い使い方はできるんだけどね。
救出したアカリさんはフードを目深に被っているために表情が見えないが、ずっと拾われてきた子犬のようにプルプルと震えている。急に攻撃が来て、逃げ遅れて怯えてしまったのかな。可哀想になったのでそっと地面へ卸してあげるとそそくさと岩肌の陰に隠れ体育座りをし始めた。まぁそこならさすがに安全だと思いますけど、また攻撃来たらデスしますよそれ。
声をかけるけど返事もなく、たぶんひとしきり震えるみたいなのでそっとしておくことにした。
さて、新パターンの攻撃となって少し他クランの方々も慌てていらっしゃる。その点上位クランの長である暴風さんはさすがだね。今日の晩飯何にするかな見たいな顔してるもん。
オネーチャンさんが号令をかけて散り散りになった隊列を組みなおし、攻撃の反動か動かない竜に向けてまた一斉に攻撃が飛ぶ。二回目とはいえ圧巻だな。上空で炸裂する魔法はまるで花火みたいだ。花火全然見たことないけど。
『おお……我が敵は此処か……我の宿命は』
「第二フェーズ入りました~、皆さん、地上に薙ぎ払いが来るので防御か退避お願いします~」
ボスのセリフと思しきシステムメッセージが流れると、上空から巨大な槍を構えた竜騎士が単身落下してくる。槍を上段に構えると頭上で振り回し始める。
正直な感想を述べるとカッコいい。演武のように槍を振り回していたかと思うと風が騎士を中心に渦巻き始める。振るうたびに集まる風は、まるで大気その物を刃にした、超巨大な槍を振り回しているように錯覚するほどの迫力だった。
【Action Skill : 《刻槍・三ノ型》】
敵のスキルが発動した瞬間に思わず後方に飛び退く。元々タンクの後ろだったこともあり、そもそも攻撃範囲内には入っていなかったのだが、思わず避けてしまうほどの迫力。そして巨大な槍を止まり木にするように、ゆっくりと竜が地上へ降りてくる。カッコいい。僕も槍やろうかな。今さら無理だな。
えーっと、ここからは前衛も攻撃に参加、竜を殴りまくって先に竜を落とす作戦だったっけ。
おそらく前衛のリーダー格に当たるだろう暴風さんを探すとすでに敵へ向かって走りよっているところだった。ああ、あの人は我慢ができないタイプだった。
「暴風さん、前衛班に指示とかは」
「あァ!?死ぬ気で避けて殴り続けろォ!以上!」
いやシンプルだけど。しかし有名プレイヤーが先陣を切り、号令をかけたことに鼓舞されたのか我こそが主人公だと次々と戦士たちが突撃していく。剣に騎士ほどのサイズはないが槍、斧に槌。思い思いの武器を構えながら背後や背中から攻撃を通していく。自分に纏わりつく虫に苛立つように竜が翼や尾を振るうも、回避し、防ぎ、ダメージを蓄積させていく。
相棒を助けようと騎士も動くが、完全にタンク陣にシャットアウトされ、魔法班による妨害からほとんど釘付けとなってしまっている。
よし、僕も戦闘に参加するか。機動力を全面に使った戦闘をしたいので人の薄いところを探す……ないな。かろうじて密集していないというなら暴風さんやそのクランメンバーがいるところ、竜の眼前、つまり正面が開いている。あそこでいいか。
「来たなァコマイヌ!」
「コマイヌ君、だったっけ?あんたもこのバカ止めるの手伝って…よっと!」
「いやー、同じクランの人が止めるべきかと……」
竜の鼻っ面を切り裂くように腕を振るうと前足で持って叩き潰そうとしてくる。ドリさんと同じような魔法で手足の自由を奪ってくれているようなので、スキルを使わずとも回避が間に合う。
着地し一息つくと嬉しそうに剣を構えた暴風さんと、そのクランメンバーであろう女性プレイヤーが話しかけてくる。
「あたしたちが止めて止まるんなら介護なんかしてないっての……噛みつき来るよ!」
「コマイヌ!口ん中ずたずたにしてこれたりしねぇのか!」
「たぶんできないことはないですけど失敗した時が怖いんでやらないです」
鎖を使った遠隔スキル、あれを使えば行けると思うがあれ視線が通っているところにしか使えないみたいなんだよね。超長い柄みたいに考えると言ったけど、さしもの僕も視界外にある武器を使う感覚はわからなかった。つまり口を閉じられた瞬間に武器が一本無くなる。
事前に警告された攻撃を避けるのはたやすく、後ろへ飛び退くだけで回避できた。下がった先には、ああ、ハナミさん。どうも。
「ウチもなんかしたいんよな~」
「お前さんもコマイヌのとこのクランなんだし、なんかあんだろ」
「アハハー、ウチかて少しばかり名前が売れ撮るみたいやし、隠しときたいこととかあるんやけどな~。まぁさすがにレイドバトルやし、バレへんうちにやっとこか」
そう言うと銀色のロングコートを纏い、ポケットに手をしまう。あの、ドラゴンの前で両腕しまって何してるんですか。
【Action Skill : 《虎視眈々》】
【Action Skill-chain : 《召喚》】
【Action Skill-chain : 《虎穴虎子》】
【Action Skill-chain : 《虎に翼》】
あ、虎スキル。そんなことを思ったスキルログが流れていく前に、竜はまた一度宙へ浮かび上がろうと翼をはためかせる。そしてゴアァァと咆哮をあげたかと思うと、もう一つ『GAAAAA』と機械音のような咆哮が響く。その音は……隣から?
隣を見るとポケットから手を出したハナミさんがいた。その手は何かを握るように関節を曲げて……と視線を手から上へ向けると、ハナミさんの斜め上あたりへ咆哮の主がいた。それはぱっと見だと、機械でできた虎、だろうか。白色の炎を吐く、銀色の虎だ。
ハナミさんが握るように構えた手をあげると、虎も手をあげる。そして空へ浮かび上がろうとする竜めがけて、宙を引っ掻くように手を振るった。
『GAOOOOOOOOO』
先ほどよりも大きな、耳をつんざくような咆哮が響くと、ハナミさんの動きに追随するように虎も腕を振るった。すると五本の炎が、爪で空間を切り裂くようにまっすぐと竜めがけて飛んでいく。研ぎ澄まされた思考の中で、ゆっくりと飛ぶように見えた五本の線は竜の身体に触れ、硬い鱗に覆われたことが想像できる体を、簡単に押し、炸裂した。
炎を口から漏らしながら、今度は着陸するのではなく、撃墜される。空中で怯ませると相手を墜落させて隙を作ることができるらしく、落ちた竜へ戦士たちがここぞとばかりに群がる。
とんでもない威力出たけど、なんか見覚えあるぞあの五本の光。
「ハナミさんそれもしかして模擬戦で撃ったやつですか?」
「そんなことあったなぁ。どんな反応するか思て撃ったんやったわ」
この人竜が宙から落ちるほどのものを何初心者相手にぶっ放しているんだ。しかも少し代償があるのか、HPもだいぶ減っているし、走ってもいないのに肩で息をしている。そして虎はすでに姿を消していた。
『嗚呼我が友よ……声は其処か……安息は此処に……我らは共に……』
システムメッセージが流れ、騎士の声が響く。騎士は竜の元へ向かおうとするもタンクたちに阻まれ向かうことができず、竜は暴風さん含めた戦士たちに攻撃を叩きこまれ続けている。僕も混ざらなきゃ、なんもしてないし。
しかし出番を終えたはずのリーシュ君が何か不安げな表情でアカリさんとオネーチャンさんと会話をしている。何かあったのだろうか。
と思うと竜の身体に亀裂が入り始める。え、どういうエフェクト?そろそろ瀕死が近いのかな。
と思っていると唐突にオネーチャンさんから大きな声が響いた。
「竜への攻撃中止~!」
その声が響いた時には、おそらく最後の一撃となるであろう、大上段から振り下ろされた巨大な剣が突き刺さっていた。そして空白ができたように静かになった辺り一面に、亀裂の音が響いた。
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