13話

武器、防具、あと手持ちで使えそうな素材を全部出すように言われたので全部出した。初期衣装というか、防具まで外した状態の姿ってこういう時に使うんですね。


「よく考えたらゲームなのに防具脱ぐ必要ってありますか……?」


するとリーシュ君は首をこてんと曲げ当然のことのように言った。


「面白いじゃん」


面白さのために使われた。


一応必要だったのかわからない防具の採寸が終わった。リーシュ君が初期防具になんか金槌らしきものを叩きつけると、先程図案で見せられたのとは違う、普通の防具ができていた。


「うーん……どうしよっかなぁ」


「リーくんが悩むなんて珍しいね、どうしたの?いつもならさっき見せたのをバーッて作って、みんなからちょっとリテイクもらって〜って流れなのに」


「そうなんだよねー。作ろうと思ったんだけど……コマにぃのSTRが」


僕のSTRがどうかしたのだろうか。なんと珍しく2だけ振ってあるのだけど。


「いっぱい武器つけていっぱい防具つけてってすると、コマにぃのSTRじゃどう参照しても着けれなくなっちゃんだよねー」


極振り弊害、まさかの再来。でもたしかに問題だ。現状これといってSTRに振る理由も予定もないし。


「リーくんもう妥協して普通の武器とかは……」


「なんか面白い機能(ギミック)つけないなら僕じゃなくていいじゃん!」


図案に文字を書いていたペンを口に加え悩むリーシュ君。門外漢なのでアドバイスもできないけど……ああそうだ。


「武器防具のデザインアドバイスとかじゃないんだけど……これって使えない?」


そういってミヅキさんに渡されていた電気ウサギの角を渡す。一本持っていても使いみちはないし少し思い出深い素材なのでこれを使ってほしいな。

角を出すとリーシュ君は不思議そうな顔をし、ハナミさんを見た。


「いや、うちがあげたんちゃうで?それ一本折ったん見て、追いかけてったんやから」


そしてハナミさんが思い出したようにそういえばそれがあるんだったら……と僕が持つ電気ウサギの角によく似た、少し長めの角を取り出した。


【紫電纏いし至高の二槍】


おそらく名前からして僕が一本しか折ることができなかった角の二本目だろう。ハナミさんそれ貰っちゃっていいんですか。


リーシュ君は角を二本並べあーでもないこーでもないと指先で遊んでいた。しかしその顔は誰が見ても楽しそうなことはわかる。

しまいには角を二本持って何故かぶつけ合わせて遊んでいる。


と思ってみていると小さい角は光り輝き、何故か細くさらに鋭くなった。


「いやそうはならないでしょ」


「なるんよなぁ、意味わからんけど」


細くなった角をまた掲げ、図案を取り出した。先ほどの図案と角、そして僕のほうを見ながら書き加えていく。


一方の角を様々な鉱石素材と混ざるように、または分離するように叩き、そしてもう一方の角と僕が脱いだあと強化された防具を重ね、また叩き出す。


集中しているようで目を見開いたまま、叩く以外の行動を一切行わなかった。


そして最終的に出来上がったものがこちら。


「やっぱりそうはならないですよね」


「なるんだよね……」


何故か一本の角と防具を重ねると一つの防具になっていた。このゲームの生産システム端から見てると意味分からないな。


リーシュ君は防具を作り終えると汗を拭って……VRなので汗などの不快描写はでないはずだが……僕に防具を着るよう促した。


袖を通し防具を装備するとサイズが微調整され、僕にフィットした。防具というか……ベストだな。これ。


「それで今しがた作ったこの電気系モンスターの素材を使った、足と腕の防具にー、ベストを連結!」


見た目では違いがあまり感じられないけど何か繋がったらしい。何がどう繋がったんだ、着てる僕がわからないけど。


「それでー、この鉱石系モンスターの素材を剣にしてー」


先ほどと違い大雑把にどんどんと槌で叩き、数回叩くと剣になっていく。ファンタジーだなぁ。


「砕く!」


そして剣を槌で叩き、割っていった。もう僕にはわからないよ。


「そして連結!」


剣を装備していく。というのは表記上の問題で僕自身は何もしていない。リーシュ君が防具にはめ込むように剣を装備していく。なんだかどんどん体に重しを付けられてる気分だ。


この工程で最後だったらしく、最後に背中に重し……剣を乗せられ終わった。ステータスを開くと現在の自分の状態が俯瞰して確認できるが……見た目ではよくわからない。ところどころ機械のような姿が目立つが、想像から外れるほどでもない一般的なファンタジーの装備だ。


「ふー……じゃ!性能検査してきて!」


いやいやいや。何をすれば。というかどんな機能がついてるかもわからないし。

と、顔で伝えているとリーシュ君はめんどくさそうな顔をして大雑把に紙に纏めていく。


紙に纏められた機能を読んでも先ほど説明された時とはだいぶ変わっているため、今一理解できないので確かにチェックはしてみたいけど。

するとこちらを温かく見守っていたボタンさんが笑顔で話し出す。


「じゃあついでだし第二の街まで開放してきちゃえば?」


さらっと言われた。一回殺されてるんだけど……まぁレベルも上がった、武器も防具も新調された。とかここまでそろえばいけるかな





というわけで時間にしてはそうでもないけど久々に来た最初の街。まず裏路地から出てきたところにいたローステンさんに情報を勝手に売った腹いせに膝カックンを仕掛けてから街へ出る。背後から野太い声で「あ”あ”あ”あ”あ”」と聞こえたが何も問題ないだろう。


そもそも情報屋とかいうグレーなプレイヤーがなんで往来で堂々と肉を焼いているんだ。反省してほしい。ゲーム内とはいえ個人情報の流布してるぞ。


まぁこういう世界観でプレイヤーが各々楽しみを見出してるのは開発者の息子兼プレイヤーとしては面白くなるけどね。


そして見慣れた門から外へ出る。NPCの門番はなぜか僕の方をぎょっとした顔で見ているが気のせいだろう。先ほどハナミさんとミヅキさんが脅していた門番と僕は全くの無関係のはずなのだから。



そしてこれも久しぶりの気がするウサギ。こいつもそんな久しぶりでもないけど、さっきまでの時間が濃密すぎたせいで久しぶりに見た気分になる。


さて、とりあえず読み込んだ新機能を試してみよう。読み込んだけど理解不能のこの新機能を。


新機能 一


そこら辺のウサギにちょっかいをかける。具体的に言うと手ごろな石を拾って投げつけてみた。するとウサギはいつも通り角をこちらに向け突進してくる。これをいつも通り回避……せずに、何も持っていない手を向ける。


カシュッと射出されるような音とともに少量の電流エフェクトが発生する。そして突き出した右手についた籠手の先に剣が突き出されている。


そしてウサギは突き出された剣に無防備に当たる。そして袈裟切りの≪スラッシュ≫を発動するとウサギは体力を散らした。2発かぁ……。


新機能は今の通り全身から刃を出すハリネズミのような機能ではなくなりこちらにローカライズされた。つまり自分が出したいと思ったところに剣を出現させる機能だ。限りなく無手に近い状態から武器を出すことができるので、AGI振りの僕の利点を損なうことなく、反射的に剣で対処できる。


しかもこれ足とか膝にも出せる。頭やら二の腕辺りは出せないけどだいたい関節部分には展開できるらしい。


「それに武器の性能がえげつない……」


今展開したのは小刀というかサブ刃みたいなものらしいけれどそれでもスキルでほとんどワンパンだ。武器って大事だな。


じゃあこのままウサギの連続討伐を……したくなるけど、お世話になったクランに報いるために第二の街行きたいし、新機能二を試しに行くか。


ウサギ相手でも出せないことはないけれどサブ刃で死んでる奴に出すほどでもないな。もったいないし。


機能一で歩きながらウサギやスライムを倒す。この機能のいいところは歩いているところから武器を出すので、構えが必要ないところ。


つまり歩いて殴りつけるように切れるので走って転ぶことがないのである。転ばないゲームとか神ゲーじゃん。


スパスパと通り魔のようにモンスターを切りながら先へ進む。前回ここまで来たときは走っていたので周りの景色を見る余裕がなかったけど作り込みがすごい。


森の入り口では木々が風でそよぐ姿、地面では木漏れ日が差し込み、花が咲いている姿が見られる。

そして確かこの森を進んでいけば……


前回と同じで、木の密度が増していき、ジメジメとした空気に変わる。地面では花は咲かず、苔むした岩や土が広がっていた。


前回はスタミナが切れてここらへんで止まったんだっけ。懐かしいなぁ。手前でスクラさんに会ったりが懐かしく思える……


『CAUTION!ボスエリアに侵入しました!ボスが接近中!』

『第一エリアボス!【マザースパイダー】!』


さて、今の僕はこいつにどれだけ通じるのだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る