Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

NotWay

1話 キャラクターエディット

『クラン十二支、5人全員敵を視界内に捉えました!このままいけば数秒後に接敵するようですね!』


『ブレイブヒーローズは気づいていないようですが、コマイヌ選手を警戒して固まっていますね。これは5対5の派手な戦闘が見られそうです』


「待てだぞイヌ、待てだ、よーし……」


指令から待てがかかる。言われなければ一人で突撃しようと思っていたので足がじりじりと擦れた。

完全に相手の視界外、ほぼ自陣からターゲット指定スキルが発動される。優先度は右、右後ろ、左後ろ、左で最後に先頭……よし。


「あんたコマイヌ君に向かってなんてことを……と思ったけどしっかり待ってる。本当に犬みたいね」


「どっちでもいいけど、もうそろそろエンゲージしていいー?」


「オッケーだよ。ドリちゃん、お願いしまーす」


ワンダードリーム先輩、通称ドリさんが地面に潜る。あまり魔法スキルは詳しくないのだが、攻撃スキルが乏しい変わりに地面の上にいる相手への高い拘束力を持つスキルだ。


『おっと【泥沼マッドプール】からの【泥団子マッドボール】が綺麗に決まったー!』


『範囲指定スキルは昔のMMOではポピュラーですがVRMMOでは目測が難しいと言われているのに綺麗に決めますねワンダードリーム選手……えっ』


『私の見間違いでなければ……コマイヌ選手、一瞬で後衛二人を溶かし切って!?あーっ!そのまま離脱、その瞬間にAoEが決まった!』


『これはコマイヌ選手来ますかね、来ました!3人目!4人目!最後にフルタンクを……溶かし切った!集団戦勝利したのは十二支!』


深く息をつく。肺にしみこむ空気の冷たさが心地いい。これが仮想であるとわかっているが、現実よりも体の中が生きているのを感じられた。





――――――――


今日も学校で体調を崩してしまった。最近は調子がよかったので久しぶりに登校してみたけど咳が出始めたころから無理な気はしていた。


定期的にネットで受ける試験では不正なしに点数はとれているし、両親が言うように自宅学習も一種の手かな。でも健全な15歳としては学園に通わないというのも……


悩みながら学校から今日も早退してきた僕に、最近家にいなかった父から謎の言葉が告げられた。


「砕葉、父さんな。VRMMO作ってみたんだ」


何をいっているんだろうこの人。まさか父さん、頭の病気で会社を。


「こいつまた信用してない顔を……」


「だって父さん前も巨大ロボットを作ったとかいって、すぐ壊してたし」


ちなみに巨大ロボットまでは本当に作っていた。


父、狛犬(こまい)・猟雅(りょうが)は自称天才発明家の天才技術者だ。

家の本棚にある雑誌の見出しにも、世界の技術を数年進めたとか、さる国の大統領の娘を救ったとか色々逸話がある。


そんな父がまたなにか遊びで作り出したのだろうか……


実際VRMMOというゲーム事態は少しずつ世に出てきていた。しかしいまいちパッとしないクオリティで話題に上がりづらかったのだ。


「βテストは終了したがまだまだゲーム序盤も序盤だ。砕葉ならトップも目指せるぞ~」


「親バカ乙。……でもありがとね、また僕のためでしょ」


「ぐあああ、息子のツンデレ微笑みが尊すぎるううう」


巨大ロボットも大統領の娘を救った医療機器も僕のため作ったものだ。これもそうなんだろう。

なにか叫びながらVRMMOの機械を僕の部屋に設置していく。VRの機材の裏に貼り付けられたメモには父さんの文字で「よい旅路を」と書かれていた。


ゲーム名は


「Bless for Travelers (旅人に祝福を)?」


「父さん自慢の世界ならお前は自由に走れるぞ。いっぱい旅してこい」


少し乱暴だが優しげに寝かされた機材付きベッドで目を閉じた。意識が飲み込まれていく。



―――――――――


『Bless for Travelersへようこそ!チュートリアルをスキップしますか?』


目を閉じ開けると水色のグリッド表示で作られたような地面。一目でゲーム世界ですよー、と主張する世界に入り込こむ。辺りを不思議そうに見回していると空から降りてきた妖精らしき存在が話しかけてきた。


「チュートリアルを受けるか聞くんじゃなくて、スキップするか聞くんだ……」


『正式サービス開始直後の段階でプレイする方はほとんどスキップしていきますので』


「まぁそりゃそうか。でも僕は初心者だから……って、え?」


今会話が成立しなかっただろうか?


「ふふっ、初めての方はだいたい驚かれますが、会話や表情パターンから違和感のないような返答を選ばせていただいております。私はチュートリアル用ですがゲーム内NPCは会話パターンも多く設定されています」


「へー、すごいなぁ。あ、チュートリアルは受けます」


「かしこまりました。ここでは世界観や基本的UI、スキルの使用を解説いたします」


世界観はまぁ、よくある剣と魔法のファンタジーだ。モンスターが出てそれを倒して生計を得る冒険者がいて、みたいな。プレイヤーは冒険者となり、世界の謎を解明したり生計をたてたり最強を目指して強くなる、みたいな。


正直聞き流しちゃった。


戦闘はかなり気合いが入っている。表情パターンと言われた会話から察していたけど、感覚に頼ったかなり直感的操作がしやすい。ざっくり言うと適当にやっても戦闘できる。


そりゃ現代人なんて戦闘なんてしたことない人が大半だし、魔法なんて使えないんだからうまくできてると思う。


そして父さんがこれを作って僕に勧めてきた理由がわかった。

全力で動いても息切れしない、体に異変も起きないし現実の体を観測してる父さんからも特に連絡がない。


意味もなくチュートリアル空間をひとしきり走り回って、とんだりはねたり、武器を振り回した。


『チュートリアルはここまでとなります。ではキャラクターを作成します』


「選べるパターン多いな……」


全体的に現実の体に合わせたキャラクターが3D表示され、そこから各種パーツごとに細かく調整できる。


でも僕は別に……現実よりも少し肉つけないと不健康そうに見えるな。現実の僕ほっそ。


「キャラクターエディット終了っと……」


『キャラクターエディットを終了します。ゲーム内サーバーに転送中……完了。ようこそ冒険者。貴方の旅路に幸多からんことを』



こうして僕の長い旅路は始まった。

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