第55話訓練
次の日もまだ心臓は痛かった。やはり2年という代償はデカすぎたか…。これはしばらく続きそうだ。
今日から訓練を受けてもらう訳だが…。
その前に亜人と俺たちで少し話し合いを行った。基本は俺たちが考えていたことを提案しただけだが…。それを亜人たちが頷いたり、時々質問したり…。
そこで決まったことは2つ
1 ギルドについて。まず簡単に3つの部門に分けた。商業部門、開発部門、戦闘部門。開発部門は商品の開発、商業部門はそれを売ってもらう。戦闘部門はそのままだな。一応全員に戦闘は教える。戦闘部門はさらに強くなってもらうけど…。
2 戦闘は基本4人1組になってもらう。回復魔法の使い手がちょうど4人に1人の割合だったのだ。回復魔法は貴重なので必ず1組に1人はいてもらわないと困る。ちなみにレイ、ミラ、レオン、シファがチームになっていた。シファが回復魔法を使えるのだ。戦いにおいて大事なのは生き残ることだ。なので回復魔法は必要になる。
武器や体さばきは俺が、魔法はルアが教える。ちなみにエマは別メニュー。エマは身体能力強化を使ってひたすら走るという訓練をしてもらっている。「わかったわ。」と直ぐに返事をしたら走り始めた。「そんなことして意味あるの?」とかって聞いてくると思ったんだけどな。
ムカつくが帝国での訓練を参考にするのが1番いいと判断した。腹立たしいが。
「というわけでまずは俺からだ。よっと!ここから好きなものを選べ。」
俺は亜空間収納から事前にガルのじいさんから貰っていた大量の武器を取り出す。素材はそんなにいいものじゃない。あくまで訓練用。帝国の時と同じく自分に合う武器を選んばせる。
亜人は人間と違い戦闘能力は高い。なので今の状態でも武器を持たせたらくにの国の兵士並みには強くなれるかもしれない。だから俺がそれ以上に強くすることで"数"にも対応出来るようにするつもりだ。
それに俺もここでちんたらするつもりは無い。そもそも俺が王国に来た目的はダンジョン攻略でのルアの記憶回復だ。
「さっき組んだチームで10組ずつまとめてこい。俺が相手をしてやる。アドバイスは戦いながらしてやる。」
つまり40人を同時に相手するということ。もちろん俺は魔法を使うつもりは無い。使ったら相手にすらならない。
「い、いやいくらあんたでもそれは…!!」
「そ、そんな…!タイチ様を攻撃するなんて…!」
「そう思うなら一撃ぐらい俺に喰らわせてみろ。ミラも遠慮するな。遠慮されたら俺の訓練にもならんからな。」
ミラ姉弟や亜人たちが戸惑う中、ただ一人レイだけは俺に剣を向けて構えていた。
昨日とは違い、顔はスッキリしている。もう悩んでいる様子もない。顔には少しの緊張と楽しさが混ざっているようにも感じる。…少しは期待できそうだな。
ミラは拳、レオンは槍、レイは剣を使うことになった。シファは魔法で支援に専念するようだ。
「分かりました!では全力で参ります。」「後悔しても知らないぜ?」
ミラ姉弟もやる気になったところで訓練が始まった。俺を円状に囲んで一斉に飛び込んでくるが、その白刃の中を俺はスルスルと歩き回る。
「レオン!レイ!武器を振る方向が素直すぎる!」「ミラ!一撃で終わるな!次の攻撃を考えろ!」
一人一人の攻撃を避けながらアドバイスをしていく。
「ウォォォ!!」
レイが俺に向かって走り込んで後ろから剣を振り下ろそうとしている。しかし俺はそれをヒョイと避ける。避けた先にいるのは…。
「レイ!?」「レオン!?」
2人はそのまま衝突して倒れ込んでしまう。それを両手に掴んで魔法で援護しているシファの元まで投げた。
前から大人の亜人2人が剣を持ってクロス字に俺を倒そうとするがそれを後ろに飛ぶことで回避した。
しかし、そこに居たのは…。
「ハァァァァ!!」
拳を構えていたミラだった。ミラの右の大振りを俺は上へ飛ぶことで回避した。今の俺なら身体能力強化をしなくてもジャンプするだけで何メートルも飛べる。
空ぶったことで体勢が崩れたミラをシファ達の元に投げ込んだ。
「クソっ!」
レイはもう一度突撃をしようとするが…。
「待って!レイ!私に作戦があるわ!」
「作戦?ミラ姉何だよ?アイツの反射神経はとんでもないぞ?」
「それはね、………ということよ。」
「タイチ様に4人で一撃与えるわよ。」
「「おう!」」「はい!」
亜人たちはほぼ全員回復魔法の使い手のところに投げ返して、そろそろ次のグループに移ろうと思ったら…。
「フラッシュ!」
シファが光魔法で俺の視界を光で遮ってきた。眩しっ!これは確かダンジョンでクソ勇者が使ってた技か!これなら避けるのは難しい。
「ハァ!」
その瞬間にレイは俺に斬りかかってきた。俺はそれを後ろに下がることで回避するがレイはそのまま剣を持って突撃してくる。俺の後ろからもレオンが突撃してくる。
また直前で避けて衝突させようと思ったが2人とも俺に武器が届く間合いで踏みとどまり突きを仕掛けてきた。横に避けても余裕で避けることはできるが服にすら武器を当てたせたくなかったので上に飛んだ。
それを狙っていたのか予め詠唱していた水の初級魔法ウォーターボールを詠唱していたシファが空中の俺に向かって放った。
なるほど。空中なら避場はないと思ったのか…。だが残念。俺は身をよじって半回転して回避した。
「えっ!?」
これにはシファも驚いた様子だった。まぁ、普通なら当たっていたな。今のは惜しかった。
「レイ!」「ミラ!来い!」
地上ではミラがレイに向かって走り込み、そしてレイがミラのジャンプを手助けして俺と同じ高さまでミラが跳んできた。なるほど。シファのさっきの攻撃の予備に別の作戦を立てていたのか。
「ハァ!」
ミラは空中で俺に拳の連撃を放つ。しかしこれも避ける。
「オラ!」
すると後ろからレオンが槍を投げてきた。ミラの連撃を避けながら槍を交わすのは難しい。そう判断した俺は左手で槍をつかみ、右手でミラの連撃を捌いた。
「ここまでだ。」
地面に着地した俺は訓練の終了を宣言した。
「クッ!」「一撃も入れれなかった…。」「クッソ!」「うぅ…!」
ミラ、レオン、レイ、シファも悔しがっているようだった。最後の作戦は完璧にハマっていたと思う。しかしそれでも通用しなかったのだ。
だが俺がガードしたのはあれが初めてだ。本当はガードするつもりなんてなかった。全部避けるつもりだったんだけどな。
「悪くなかったぞ。レオン!槍を投げるのはあくまで最終手段と思え。武器は使い捨てじゃないんだ。」
そこからはエンドレスにこれを繰り返した。この後はガードすることなく、一撃も喰らわずに終わらせることが出来た。
ご飯を食べたらそこからはルアが魔法を教えることになった。俺はこの間にエマを教えることになる。が…既にエマはヘトヘトだった。まぁ、ずっと走ってたからな。
「俺がエマに教えるのは体の使い方なんだが、俺の世界での武術を教える。」
その名もヤナム流武術。じいちゃんから教わった武術だ。
「え、えぇ。わかったわ。」
「…と言いたいが、今日は違うことを教える。」
「えぇ!?」
さすがにこんな状態ではキツイだろう。俺にもやりたいことがあるのでな。
「教えるのは魔力操作だ。」
「…魔力…操作…。」
エマには一度見せているから覚えているんだろう。そのせいで魔力が暴走して苦しめられたわけだけど。
「そうだ。やり方は教えるから練習しろ。」
ルアに教えてもらった時と同じように教える。これは一度やり方を教えたらあとはひたすら練習することで手に入る。
俺はやり方を教えたらゲートである場所に飛んだ。
「なんじゃい。また大量の武器か…?」
「違う。今日は少し相談と頼みがあってな。」
俺はゲートで王都まで向かってガルのじいさんのところを訪れていた。
「…今度はどんな武器を作ればいいんじゃ?」
「話が早くて助かる。作って欲しいのはこれなんだが…。」
俺は懐から決闘騒ぎの時にファーレン公爵から頂戴した銃をじいさんにみせた。
「見たことない武器じゃのぉ。これを作るのは難しいぞ?」
「構造は細かく俺が知っているから紙にでも書く。それを2つ作って欲しい。できるか?」
俺はエマの武器は銃にしようと思っていた。エマにはこの事は言ってある。
「職人を舐めるでない。できる。」
「そうか。……一つ質問なんだがじいさんならこの武器の情報を貰っただけで作りあげるのにどれぐらいの時間がかかる?」
「ふむ。恐らく2年以上はかかるじゃろう。この武器は見たことないだけじゃなく構造も複雑じゃ。そう簡単には作ることは出来ん。何度も繰り返してやっと作れるじゃろうな。」
「……そうか。」
王国で1番の造り手が銃を作るのに2年。それをたった1ヶ月で御使いの頭の中で想像しただけの武器を再現したのか…。少しは帝国を警戒した方がいいかもしれないな。
「それで?相談とはなんじゃ?」
「あぁ。じいさん…、亜人ギルドに入らないか?」
亜人ギルド…ビーストギルドは王国で既に噂になっていた。もし、じいさんが亜人ギルドに入ってくれるなら武器に困ることはなくなる。少し考えた後にじいさんは答えを出した。
「ふむ。なるほどのぉ。……すまぬが断らせてもらおう。」
「…そうか。」
「わしは武器職人じゃ。作った武器を一人でも多くの必要な者に届けることが仕事じゃからな。」
「じいさんならそういうんじゃないかって思ったよ。」
俺はこの後は銃の構造を細かく教えた。そのあとは冒険者ギルドに向かった。
「お久しぶりです。タイチさん。ルアさんはいないんですね。」
「久しぶりだな。ルアは留守番だ。」
俺はカウンターに座ってエフィーと向かい合った。
「エフィーは亜人ギルドのことを知ってるか?」
「え、えぇ。街で噂になってますし。」
「それを作ったのは俺なんだ。」
「えっ?エェェェェ!!!?!?」
大声で驚かれてしまった。爺さんは何も驚かなかったと言うのに。反応の差すごいな。
「それでエフィーに相談があるんだけど…、単刀直入に言って俺たちのギルドに来ないか?」
「えっ?ええ???」
今度は控えめに驚いている様子だった。どちらかと言うと頭が混乱して理解が追いついていない様子。
「経営に関してまだいい人材があんまり見つかってなくてな。1から育てることになりそうなんだけど…、既に少しでも知っているやつが居れば心強いからな。」
「えぇ?でも私はここでは受付をしているだけであまり経営はできませんよ?」
「計算ができるならそれでいい。それに前言ってただろう?ここで亜人扱いされていい思いしてないって。なら、こっちに来るのもアリだと思うんだけど?安全と食事は保証する。ちなみにエルフ族も何人かいだぞ。」
ちなみにエフィーを亜人ギルドに欲しいって言ったのはルアなのだ。それの交渉として俺が来た。俺としても少しでもノウハウを知っている人を亜人ギルドに入れたかったのでちょうどいい。
「本当ですか!?エルフがいるというのは!!」
「あ、あぁ。一応な。」
「そうですか…。分かりました。亜人ギルドに入ります!」
ということでエフィーの亜人ギルド入りが確定した。
よし!これで運営も何とかなりそうだ!これでダンジョンに集中することが出来る…!
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