第49話
Sideエマ・ファン・レルス
太一とルアは部屋を出ていってしまい、騎士たちもこの部屋にはいない。いるのは私とお父様との2人になってしまった。
「え、えっと…。」
私はお父様ともあまり喋ったことは無かったから何を言っていいのか全く分からない。太一が気をきかせてくれたのはわかるんだけど、せめて一緒にいて欲しかったわ!
「すまなかった。エマには悪いことをしたと思っとる。」
「えっ?お父様…?」
急にお父様が謝ってくるがどうしたらいいの?そもそも何を謝っているのかも分からないわ。
「お前を守ってやれなかったことを父として謝りたい。」
「い、いえ!謝らないでください!あそこでオークに襲われるなんて私も思いませんでした!」
「そうじゃない。」
?他に何が謝るようなことがあるのかしら?そもそもお父様から謝られたのは初めてだからどうしていいか分からないわ。
「エマを王族という身分のせいで苦しめてきたことだ。」
「!そ、それは…。」
「出来損ない」。そう呼ばれたせいで苦しめられてきた。けど、もし私が平民だったらそんなことを言われることもなかった。苦しむこともなかったかもしれない。
「エマを守る方法などいくらでもあった。だが私は親である前にこの国の王だ。娘といえど情にほだされる訳にはいかなかった。許して欲して貰えるとは思っていない。ただ謝っておきたかった。これで最後かもしれぬからな。」
「お父様…。」
タイチは多分分かっていたのだ。お父様がこう思っていたことを。
「許すもなにもありません。私はお父様を恨んではいませんよ。確かに「出来損ない」…そう呼ばれて苦しんだことがありました。しかし、お父様には王としての立場があることは私もわかっていますから。」
「…王としては正しいかもしれぬが父親としては失格じゃ。」
「そんなことありませんよ。私の婚約を認めてくださったではありませんか。」
「……それぐらいしかしてやれることはなかったからのぉ。」
「充分です。子供はいつか旅立つものです。その時に笑顔で私を応援してくださるのなら私はそれで充分ですよ。」
「…。」
「それに大事なのは過去ではありません。今、私はタイチと出会えて幸せです。タイチと出会うために「出来損ない」と呼ばれた過去があったと思えるほどには。」
「…アイシャに似てきたのぉ。」
「…!お母様に?」
私の既に死んでしまった母親の名前はアイシャだ。ただ私が幼い頃になくなってしまい、誰もお母様について教えてくれなかった。
「あぁ。アイシャは私が王だと言うのに叱ってくることもあった。私に文句を言いに来ることもあった。…そんな変わってはいるが強い人じゃったよ。」
「……お父様はお母様を愛しておられたのですか?」
「あぁ。愛しておった。」
「そうですか。それを聞けただけで十分です。」
するとお父様は自分がつけているネックレスを外して私に渡してくれた。このネックレスはお父様がいつもつけているものだ。真ん中に赤色の…私とお母様と同じ目の色をした宝石が飾られている。
「…お父様、これは?」
「昔、わしがアイシャに贈ったものだ。今はわしが預かっとる。アイシャにいつかエマに渡して欲しいと頼まれての。」
「ッ!?そ、そんな貴重なもの!お母様の形見ならお父様が持っていた方がお母様も喜ぶでしょうし!」
王である父が贈ったものという時点で高価なものなはずだわ!そんなもの私には受け取れないっ!
「そういう言うな。アイシャがエマのために何か残したいと言って私に預けたんじゃ。エマが持っておらねばアイシャも悲しむじゃろう。…ワシとアイシャからの最初で最後の贈り物じゃ。」
「…お父様…。ありがとうございます。」
私はお父様からネックレスを貰い、それをつけてもらった。
「さて、そろそろ行くかの。それとタイチ殿に伝えておけ。王国での後始末は義父としてできるだけしてやろう。ただワシらの娘を泣かしたら容赦しないとの。」
「…はい!」
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Side司馬太一
決闘騒ぎが終わり、これでエマは公式に俺の嫁ということになった。結婚式とかはしないけどそのうちしようかとは思っている。
ということで俺は王族の仲間入りをする事になった。まぁ、王様からも自由にしていいと言われているので意味はないが。多分もう会いに来ることも無い。
しかし、形として宣誓をしなくてはならなくなった。『我が剣は〜〜』とかっていうやつ。
そのためにもう一度謁見の間に行くことになった。これが終わったら今日は本当にお終い。既に亜人の罪人の移送は終わった。前もって王国がくれたギルドに送られているらしい。
「タイチはエマちゃんにどうしてあんなことしたの?」
あんなこと…。王と2人きりにしたことか。
「…さぁな。」
……人はいつ強さを求めるだろうか?その答えはいくつもあるが最も多いのは後悔した時、誰かに復讐したいと願った時…という答えが多いと思う。実際に俺がそうだ。…復讐したいと力を欲した。ドン底に落とされ後悔したからそうならないように力を欲した。
…強さとは地獄を経験して初めて得られるもの…と言い換えてもいいかもしれない。これは戦闘においての強さだ。俺は燃えそうなぐらいの地獄を経験した。ただこの強さを求めればそれ以外の全てを切り捨てることになる。修羅になるということだ。
だから見たかったのかもしれない。そうならずとも強くなれるのかを。ほかにどのような「強さ」があるのかを。それはどれぐらい強いのかを。
ただ単にルアと共に修羅となりそうな俺を止めて欲しかっただけかもしれないけどな。多分こっちの理由が大きいだろう。今思えばルアに俺の過去を話したのも無意識のうちにブレーキ役になって欲しいと思っていたんだろうな。
ただ言えることは…、
「俺みたいにはなって欲しくなかった。」
「そっか…♪いいと思うよ。」
「よし!行くぞ!」
「うん!」
ということでまたまた謁見の間に入った。さっきの決闘を見た人が多いのか俺の事をちょっと恐れている人が多い。騎士団、魔法師団も似たようなものだ。
少しは効果があったようだな。ただ耳を集中させるとヒソヒソと話している声は聞こえる。
「出来損ない王女とあやつが結ばれれば有益なのでは?」「私達もやつから護衛を頼めば安全だ。所詮出来損ないと平民だ。アイツらを手玉に取るなど簡単ではないか!」「王国に忠誠を誓うのだ。そのために我らを守ってもらうか。」
こいつら馬鹿だろ。王様が怖くないのか?
「我、バハルト・ファン・レルスは我が娘エマ・ファン・レルスと汝タイチ・シバ殿との婚約を認める!」
ここで宣誓をしなくてはいけない。さて、このままこいつらの思惑通り進むのは面白くないな。何より未だにエマを馬鹿にしているのも少々ムカつくし。気に入らないものは潰すって決めるからなぁ。
俺はクサナギを立てて宣誓を行う。
「我が剣は、ルアのため、エマのため、そして俺が守るべきもののために振るわれる!!」
ザワっ!っと周りが急激にざわめく。まぁ、それはそうだろう。本来は王に、王国に忠誠を誓うのだ。それをしていないのだから。
「俺はエマ王女の騎士だ。俺の主を馬鹿にすることは許さんぞ?」
「な、何してるの!?そんなことしたら国家反逆罪になるわよ!?」
今回は目的もないし、エマに言われた約束を破ることになったがまぁ、いいだろう。このまま貴族の言いなりになる方が嫌だ。
「知るかよ。それはこの国の話だろ?俺はこの国なんか正直なところどうでもいい。それにムカつくんだよ。」
「な、何に?」
「努力してるやつが笑われてるこの現状だよ。それをわかっていながら笑われるのがムカつくんだよ。俺はムカつくものはぶっ潰すって決めてるからな。」
「で、でも!」
「それに問題は無いはずだろ?この国のトップは王様だ。エマはその娘。父親の王様がエマに命令して、エマが俺に命令すればいいだけの話なんだから。」
俺の言葉にエマも他の貴族も黙り込むがこれは詭弁だ。
王様に関しては呆れているような少し楽しんでいるような顔だった。
騎士たちはすぐにでも抜剣できるように準備をしているな。
「や、やつを捕らえろぉ!!」
ん?誰だ?って思ったらまさかのファーレン公爵親子だった。復活早いなぁ。公爵は若干怯え気味だけど。子供に関してはめっちゃ怒ってる。
傷は回復しているようだけど前歯はないままだった(笑)。さて、めんどくさいことになる前に退散するか。後始末は王様に任せるとしよう!
公爵の声に合わせて騎士が抜剣して俺に襲いかかろうとする。
俺は王様に目を合わせてから…、
「わっ!」「キャッ!」
ルアとエマを両手で抱えて…、
「口閉じてろ。舌を噛まないようにしろよ?」
俺は窓に向かって走り出した。
「に、逃がすなぁ!!」
「ファーレン公爵!少し…話がある。」
「へ、陛下…。」
さて、この間に!
「え?嘘よね?」
エマはちょっと怯え気味。ルアは少し楽しそうだ。
「ゲート!」
俺はゲートを作って飛び込んだ。そして飛び込んだ先は…、
「キャァァァァ!!!」
「アハハハハハハ!!!」
窓のすぐ外である。つまり上空約200メートルからの紐なしバンジージャンプだ。
「タ、タイチっ!!」
エマは怖いのか目をつぶって俺にしがみついてくる。
地面まで残り10メートルってところで
「ゲート+ゾーン。」
もう一度ゲートを開き、ゾーンで減速して安全に着地した。
エマに関しては目が回っている様子。
ルアはと言うと。
「タイチ!あれすっごく楽しかった!もう1回やりたい!」
「もう1回っ!?」
「それはまた今度な。今度はもっと高いところからやってやるよ。」
「やったー!!!じゃあ、その時はもっとギリギリまで魔法使わないでね!そっちの方が楽しいから!」
どうやらルアはジェットコースターが大好きなタイプらしい。逆にエマはそういう系ダメっぽい。わかりやすいな。
「あれでも結構ギリギリだと思ったんだけどな。まぁ、次はもっとギリギリまでやってやるよ。」
「わ…私は遠慮するわ!」
「えー??楽しいよ?」
「怖いだけよ!タイチが守ってくれるとわかっていてもか怖いものは怖いわ!!」
楽しそうで何よりだ。さて、もう1つの宣誓でもしに行きますか。
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