2章レルス王国編
第32話外
俺とルアが魔法陣に乗って転移した先は、何も無い森林地帯だった。空を見ると、太陽が上がってる。雲もある。空気もとても美味い。つまり─
「出てこれたんだな、俺たち」
ラギルダンジョンから脱出することが出来たということだ。
長かった。この世界に来て、裏切られてから本当に長い道のりだった。諦めらかけたことも1度や2度ではなかった。死にかけたことも沢山あった。
それでも生き残ることが出来た。ルアとも出会うことが出来た。ここからだ。俺たちの物語はここから始める。
「出たはいいけどここからどうするの?タイチ。」
「とりあえず王国に向かう。帝国はすぐに出たい。」
復讐するつもりが無いとはいえ、ここに居たくはない。すぐにここから出たい。帝国の隣国はレルス王国だ。そこに行く。そこで研究するんだ。
「でも……王国ってどこにあるの?」
「……」
それなんだよなぁ。カンで進むにしても間違えると魔人領に行っちゃうんだよなぁ。いずれは行くつもりではある。けど、今は遠慮したい。
それに俺たちが今どこにいるかもわかっていない。帝国なのか?そうじゃないのか?こればっかりは分からない。
周りに人がいる感じが全くしないしなぁ。
「とりあえずあっちの方に進もう。そこから川の音がする。水浴びでもしてから、考えようぜ。分からなければ適当に進めばいい。それも旅の醍醐味だ。」
俺は空間感知で感じた川の方を指し、ルアにそう言う。それっぽいこと言っとけば納得するだろう。
「分かった!」
うん、納得してくれたようだ。風呂って訳ではないが、水浴びはしたい。ダンジョンに入ってから体を拭くだけで洗ってないから、かゆい。だから川が近くにあったのは不幸中の幸いだ。
川の方に歩きながら思うが、帰ってきたという実感がすごく湧く。いちばんそう感じるのは動物と出会った時だな。ダンジョンって魔物だけだから、俺たちを見つけるとすぐ襲ってくる。
そんなことをせずに俺たちを眺めたり、逃げたり、ルアの元に駆け寄ったりする動物を見て実感が湧くな。
なんかルアに兎とか鹿とか寄ってきたら女神にしか見えないな。いや、天使族なんだけどさ。神々しい雰囲気がすごい。
そんな動物達も俺の姿を見るとすぐに逃げ出す。俺は至って普通に前向いて歩いてるだけなのに…。ちょっとショック。山でじいちゃんと修行してた時は、よく寄ってきたのにな。
そんな姿を見てルアは笑ってくる。それはもう楽しそうに。
「アハハっ。動物たちも怖がってるよ〜。タイチ見て。すごいねぇ!」
これ絶対に馬鹿にしてるよな?まぁ、別にそんなに気にすることではない。ショックだが、仕方ないことだ。俺が変わったのは事実なのだから。
「俺が怖いんだろうな。俺が見るとすぐに逃げてる。動物は本能で感じてるんだろう。俺が怖いって。」
「大丈夫だよ。きっと1匹ぐらいいるよ。それに居なくても私は逃げないよ?私はタイチが怖いって思ってないから。」
急にそんなことを言うのは良くない。心臓に悪い。なんて言い返せばいいか分からないから何も言わずに黙って川の方に向かう。
そうこうしているうちに川に着いた。水が透き通っていて、底が見える。とても綺麗だ。
「それじゃあ、ルア。先に入ってろ。俺はこの先に何があるのか見てくるから。」
「一緒に入らないの?」
入るかぁ!そんなことしたら理性が飛んでしまう!出て早々にそんなことしたくない!いつかはしたいと思っているが…。でも、今回は無し!初めてが外って嫌だわ!
「入らん。」
「別にタイチなら私の裸ぐらい見られてもいいけど?指輪交換したし。」
「ダメだ。理性が持つ気がしない。」
自分の顔の美しさと身体の素晴らしさを1度見直して欲しい。
「むぅ。ヘタレ。理性なんか壊れればいいのに。」
「そんなこと言われても一緒に入らんからな?それはまた今度だ。俺はもう行くから。」
それだけ言ったら川を飛び越えて、走り出した。
あっっっっぶねぇ。本当にヤバかった。理性が本当に崩壊仕掛けた。後3秒あそこにいたら、理性が完璧に潰れてたぞ。
ルア、恐ろしい子!
さて、と…周りを見渡すがさっきと何ら変わらないな。けど、少しだけ違和感を感じる。
進むにつれて徐々に違和感が増す。かなり走ってようやく分かった。魔素がどんどん濃くなっているんだ。なら、俺が進んでいる方向は魔人領の可能性が高い。
魔人のほうが魔法をよく使うって話だし、魔物も魔素が濃い場所を好む。なら間違いないだろう。
確信したら引き返した。これ以上進む理由もないし、ルアもそろそろ上がってる頃だろう。魔人領と分かればここはやっぱり帝国内だ。なら魔人領と反対方向にひたすら進めば王国に着く可能性が高い。
行き先が決まった。
川の方に戻って見ると、ルアは既に服を着ていて半身浴していた。とても気持ちよさそうだ。
「おかえり〜タイチ!何かわかった?」
「あぁ。行く先の方角がわかった。」
「おお〜!」
かなりルアに近づいてわかったが、ルアの後ろから暖かい風が吹いている。魔法か?
「ルア、その後ろから流れてる温風、魔法か?」
「そうだよ。火と風の複合魔法!これで髪と羽を乾かすの!」
ドライヤーの代用に魔法を使っているのか。ルアの発想はおもしろいな。複合魔法という珍しいスキルが無いと出来ないけれどな。
「面白い魔法だな。次は俺が入るから森の中で軽く遊んでいてくれ。」
「ここにいたらダメなの?」
上目遣いでそんなことを言うルア。可愛すぎるな。
「別にいてもいいが、すぐ終わるとはいえ何もないぞ?上がったらすぐに移動するから動物と最後に遊ばなくていいのか?」
「別にいいよ。さっき兎と川に入って楽しんだし。」
マジでか。めっちゃそのうさぎ羨ましい!!俺が必死に耐えたのに!兎はそれを叶えたのか!
心の中は落ち着かないが、俺は平静を装って、何事もなかったかのようにルアと目を合わせる。
「好きにしろ。」
「うん!好きにする!」
俺は川で水浴びを、ルアは半身浴を、2人で太陽の光を浴びながら行った。
とても心が落ち着く一時だった。
後書き
本日から2章です!
少しでも面白い、続きが読みたいと思った方は★とレビューをください!
「君を好きになるなん絶対にありえない!」もよろしくお願いします!
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