第14話司馬太一の過去

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「イテッ!」


「これ!太一!油断するでない!」


「とか言ってもよ、おじいちゃん、剣の修行の途中で石を投げられたら避けれねぇだろ!」


「いいや、本当に集中していたのならば今の不意打ちぐらいなら防げたはずじゃ。集中していなかった太一が悪い!」




めちゃくちゃだ…。集中したら剣を振ることで頭がいっぱいになるから防げねぇだろ。というか俺今5歳なんだけど、石を投げていいの??




そんな無茶苦茶な人が俺のおじいちゃん。名前はヤナムというらしい。らしいというのはおじいちゃんの職業と生まれに関係している。おじいちゃんは当時戦争がある国のスラムで生まれた。親も物心着いた時からいなかったので、名前も知らない。




そんなおじいちゃんは、生きるために人を殺すための術を身につけた。戦争が終わった時にはある組織に拾われ、暗殺者として育てられた。いつしか裏の世界では伝説の暗殺者として呼ばれた。そんなおじいちゃんがよく使っていた偽名がヤナムだ。




60を超えたおじいちゃんは、目的もないが組織を抜けて暗殺者をやめようとしていた。そんなある日、日本での仕事を終えた時捨てられた赤ん坊を見つけた。それが俺だ。




組織も辞めたい、と思っていたのでこれも縁だと感じ育てることにした。




これは、俺がおじいちゃんから何回も聞かされた話だ。




でもおじいちゃんは俺に暗殺を教えていない。教えてくれるのは


勉強と、平和な国での真っ当な生き方と、万が一俺に何かが起こってもいいように格闘術や剣術は教えてくれた。でも、それで人の命を奪うことだけは禁じられた。破ったら俺を殺す、と脅してきた。あの時の殺気は忘れられない。本物だった。でも、その理由までは教えてくれなかった。俺に普通の生活を送って欲しいのだと幼い俺は思った。




それから、10年の月日が経った。


今でも、剣の修行や勉強を教えて貰っていた。学校には行ったことがなかったけれど大学レベルの知識があったし、戦闘に関しては世界最強の暗殺者と言われるおじいちゃんより強くなっていた。




「はぁ!はぁぁ!」


「うむ、いいぞ!」


カン、コン、カン!と木のぶつかる音が山の中で響いていた。俺はおじいちゃんと模擬戦をしていた。




「はぁ、はぁ、ふぅ!」


少し距離を取ってから低姿勢で全力で走り、おじいちゃんの剣を吹き飛ばす。その瞬間にパンチが来るが、剣を右手で持ち左腕でそれを止めて剣をおじいちゃんに突きつけた。勝負ありだ。




「ふっふっ!負けたよ!太一」


「そんな事言われても全っ然勝った気しねぇわ。だってじいちゃん今年で76歳だろ?」


「いや、今年で78じゃな。まぁ正確に生まれた年は知らんがの。」


78のじいさんに15のおれがギリギリ勝つ。勝った気がするだろうか?




「心配せんでも太一は強い。まだ若いから伸びしろもあるわ。…もう、わしが居なくても太一ならこの世界で行けて行けるじゃろう…」


「何言ってんだ?じいちゃん。俺はまだじいちゃんに教えて欲しいこといっぱいあるけど?それにまだ、親孝行ならぬ祖父孝行してないしな。だから、そんな事言うなよ。」




「ほほっ!そんなことを考えていたのか?心配せんでもいい。太一は既に祖父孝行しておるよ。わしは太一と暮らしたこの時間が、この人生の中で一番の宝物じゃからな!」




「…そうかよ。」


俺は照れくさくて頭をかいた。




「ほれ、そんなことよりさっさと修行の続きをするぞ。」


「あぁ!」




それから1ヶ月ぐらいしたある日、俺はじいちゃんに買い物を頼まれたので出かけていた。家に着いたのは夜だった。その日は、新月で暗い夜だった…




「ただいま〜、じいちゃん帰ってきたぜー」


いつもならある返事がなかった。




「…じいちゃん?」


靴を脱いで家に上がると鉄の匂いがした。俺は言いようもない不安に襲われ、家の中を走った。




「…じ、じ…いちゃ…ん……?」


じいちゃんは胸にナイフを刺されて静かに死んでいた。




いつかこんな日が来るとわかっていた。じいちゃんの職を知っていたから。覚悟も決めていた。でも、いざその現状を前にすると心が壊れそうになった。




「うっ…うっ…じいちゃ…ん…うぐっ…うわぁぁーーん!!!」




年甲斐もなく泣いてしまった。厳しい修行でも泣くことなんてなかったのに。じいちゃんはいつも修行していた山に埋めて墓を作った。




家を整理していたら、手紙が見つかった。






「親愛なる我が孫、太一へ


わしはもうすぐ、組織の報復で暗殺者に殺されることになるじゃろう。わしが死ぬことは、必然じゃ。こんな職業をやっとる。死ぬ覚悟は出来とるし、わしも死ぬべきだと思っとる。だからわしの死は気にするな。だが組織を恨み、誰かを殺めることは許さん。わしが死んだら三界高校に通え。わしの仕事で使ったコネで入学できる。金の心配はいらん。修行は続けておけ。いつか役に立つ。




わしはこの世界は弱肉強食だと思い、暗殺者として生きとった。しかし、太一と出会い、共に過ごしてからは考えが変わった。強い者の役割は弱い者を淘汰し、支配することではない。強い者の役割は弱い者を守ることじゃ。親が子を守るように、な。そうでなければ今、この世界には誰も生きておらんよ。動物は生まれた時が最も弱い。弱肉強食だとしたならそこで死んでおる。だが、世界はそうでない。なぜなら強い者が弱い者を守るからじゃ!そんなことをお前との暮らしで初めて気付かされた。わしは愚か者じゃな。胸を張れ!太一!太一はわしの自慢の弟子で、孫じゃ!わしのようになってはならぬ!教えた力をいたづらに、狂気で使ってはならぬ。それは弱い者を守り、助けるためにそして、己を守るために使え!わしの人生に価値があったかどうかはこれからの太一の行動が決める!価値があったと思わせてくれよ?それを地獄からではあるが見ておる。愛しておるぞ、我が孫よ!




太一の祖父 ヤナムより 」




それを読み終わったあともう一度だけ泣いた。その日は何回も読み返し、何回も泣いた。一生分の涙が出たとさえ思った。




次の日には切り替えて三界高校に向かった。理事長と知り合いらしく便宜を図ってもらい、入学した。




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後書き





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