第2話異世界転移

光がどんどん薄まっていき、ゆっくりと目を開けると驚きの光景があった。正面のちょっとした階段を上がったところに王座と思わしきところに座り明らかに王様だ、と言わんばかりの雰囲気を醸し出す60代と思わしき人と、左に細いけど高そうなメガネをかけて頭の賢そうな40代の人と、右に薄い茶色の髪を住野さんぐらいまで伸ばし、目の色が紅く、明らかに高そうなドレスを纏った住野さんや清水さんに匹敵する美女がいた。


何人かは美女を見て鼻を伸ばしていた。呑気な奴らだ…


軽く周りを見渡す。どうやら俺たち2年3組のみがこの世界に転移してしまったようだ。その中に住野さんが無事でいることを確認できて胸をなで下ろした。迷惑になったこともあったけれど、俺のクラスメイトの中で唯一関わりがあり、毎日話しかけてくれていたので、気にしていた。



そして俺たちの周りには全身に甲冑を被り剣を腰にたずさえた騎士に見せる人達と、真っ白の法衣を被り錫杖のようなものをもち、黒の烏帽子のようなものを被った人達が俺たちの周りを囲んでいた。


ざっと数えて30人は居そうだな…


床や壁は美しい光沢を出している。素材は大理石にも感じるが少し違う気がする。壁にはとても大きい山や街を描いた絵画や、人物を描いた絵画などが飾られていた。一つだけナポレオンのようにも見せる作品があった…


異世界だ!喜んでいたけれどもしかするとタイムリープでもしてしまったのだろうか?と不安になった。


「おい、ここはどこなんだよ!てめぇらは誰だ!?俺たちに何しやがった!!」


「翔、少し落ち着け。みんなも冷静になってくれ。すみません。いくつか質問に答えてもらっていいですか?」


いつも俺をいじめて楽しそうにしていた大垣翔が吠える。まるで猿だな…内心ほくそ笑んでいたら王角が大垣をなだめて、イケメンスマイルで頼んでいた。さすがだなっと少しだけ感心してしまった。


「もちろんです。しかしながら、疑問に思うことはとても多いと思います。なので、まずは経緯をご説明致します。それではメチルク宰相よろしくお願い致します。」


美女がそういうと、メチルクと呼ばれた人が説明してくれた。


「承りました、シャルロット第一皇女様。こちらにおわすのは我らがラクル帝国の王、ラフター王でございます。」


あの美女、皇女さまだったのか。道理で高級そうな服を着ているわけだ。王様の方は予想どうりだったが、メガネのほうは宰相なのかあんまりそういう風には見えないんだがな。それにしても王様はさっきから俺たちを観察するように見てくるんだよなぁ。少し不快だ。


「まずはここは御使い様方が元いた場所ではございません。ここはラクル帝国と申します。御使い様を召喚した理由は、シャルロット皇女の職業、預言者により近々魔王が復活するという預言を承ったことに起因しています。そこで身勝手とも思われるかもしれませんが、御使い様を召喚させて頂きました。」


テンプレ来たーーーーーー!!!


しかし、それにしても身勝手な理由だな。しかも御使い様というのは俺たちのことだと思う。だが、職業とはなんだ?預言者なんて職業があるなんて俺たちの知ってる職業とは少し違う意味があるように思えるな。


「質問をよろしいでしょうか?御使い様とは僕たちのことでしょうか?それと職業、というものはなんでしょうか?」


俺が疑問に思っていたことを王角が全て言ってくれた。さすがだな。


「御使い様とはあなたがたの事です。神の御使いということで、御使い様と呼ばせていただいています。職業に関しましては後ほど説明させていただきます。」


「どうやったら元のところに帰ることができるんだよ!?」


大垣がキレ気味に叫ぶが、それは俺も思っていたことなので正直ありがたかった。

俺が言うときっと後でなんか言われるだろうから。


すると宰相が重々しく口を開いた。


「それに関しましては…今のところ元の世界に戻ることは不可能です…」


「「「「はぁっ!?」」」」


クラス全員が叫んだ。俺は叫んでいない。俺が言うと舌打ちが飛んでくるからだ。泣きそう。


「しかし、魔王を倒せば元の世界に戻ることができるのでは、と考えられています。それに過去の勇者は皆この世界で残ることを選択されておることから、この世界は御使い様方にとってとても素晴らしい環境だと思います。」


過去に勇者いたのかよ。しかもそいつ戻らなかったのではなく、戻れなかったという可能性もあるんじゃねぇか。


「御使い様方よ、突然の事で驚いておる事だと思います。ただ、我らの世界を救うために御使い様の力をお貸し頂き、魔王討伐に協力してくれないだろうか?何卒よろしくたのむ」


急に王様が喋ったかと思えば、魔王討伐のお願いをしてきた。

そんなものするわけないだろ?俺たちに戦争に参加しろっていってるようなものだぞ?


「そ、それはつまり私の生徒に戦争に参加しろって言ってるんですよね?そんなお願いを聞き届けることはできません!まだこの子達は高校生で17歳なのですよ。そんなことを先生は許すことなどできません!あなたがたの行った行為は誘拐と一緒です!こちらに来ることが出来のなら元に戻れるはずです!」


リサちゃん先生がぷりっぷりと怒っているがその迫力は皆無である。今年で26になるまだまだ新人の若い歴史担当の先生だが、小柄であることに加えて、茶色のボブカットの髪を揺らしている姿を微笑ましく思う。


「向こうの世界に戻ることは不可能です!そもそも御使い様をこちらの世界に呼んだのは私たちではございません。我らが世界をお作りになった創世神"ゼヘム"様です!我々はただシャルロット皇女の預言の通りに行っただけで我々は何もしていません!これも全てはゼヘム様の素晴らしきご意思なのです!」


そんなことをヤバい顔をして語る宰相。それにうなづくように涙を流しながらヤバい顔する王を見てゾッとした。少し宗教が強すぎるような気がした。


「そ、そんなのってぇ…」


先生は脱力し膝を着いて絶望する。そんな中、


「嫌だよぉ、家に帰りたいよぉ」

「帰れないってなんだよ!そんなの知らねぇよ!」

「ふざけんな!!」

クラス内でも反対の声が上がっていた。当然だと思う。だが、それを何も止めず王様は先程と同じように俺たちを観察するような不快な目を向ける。


バンっ!!!と手の鳴る音がして一瞬静まる。そうして、王角が


「みんな、少し落ち着こう。ここで王様や宰相を攻めていたって何も始まらない。それに帰る方法なら魔王を倒すと見つかるかもしれない。…俺は、この世界で戦おうと思っている。帰る方法を見つける、という理由もあるけれどそれ以上にこの世界で生きている人たちを見捨てることなんて俺にはできない…それにみんなもそうだと思うがこの世界に来てからなんだか力がみなぎるような感じがするんだ。俺達には大きな力があるんですよね?」


「そうだな。異世界を渡る際に大きな力を得ることが出来る。それに魔王を倒してくれたならば、ゼヘム様も帰還方法を示してくれるだろう。」


えっ?俺なんも力がみなぎるような感じしないんだけど。転移する前となんも変わってないんだけど。俺だけじゃないよな?


「そうですか。ならきっと大丈夫!俺は戦おうと思う。俺たちが大きな力を手に入れてここに来たことには意味があると思う!だから共に頑張ってはくれないだろうか?」


「水くせぇじゃねぇか。俺はお前の頼みとあらば、協力するぜ。確かに体が軽く感じるしな!」

「そうだよ。そんな頭下げなくても、私たちは協力するよ、王角くん。」

「それしか方法がないなら仕方ないね〜。私も手伝うよ〜。」

「「「「おう、そうだな!もちろんだぜ!」」」」

「翔、桜、桃花、みんな…」


王角が真っ白な歯をだし今日一のイケメンスマイルを振りまく。女子は熱い目をおくっている。


「ありがとう…よろしく頼むよ」


えっ?何この茶番劇?それよりみんな体軽いだ〜?俺だけなんも変わってないなんて…気のせいに違いない!


「み、みんなぁ、ダメです。先生は認めません!」

そんな先生の抵抗は認められず、クラスはただ興奮して叫んでいた。


俺はそんななかこれは一種の現実逃避だと考える。いざ戦場にたったらみんなビビると思うし、今はまだ何も考えていないのだろう。崩れそうな脆い精神を仲間と守ろうとしているのだろう。



みんながいるからきっと大丈夫。きっと怖くない。「みんなで赤信号渡れば怖くない」の原理と同じである。


そんな中俺はようやく気づいた。王が俺に向けていた視線の意味を。あれは俺たちの中で誰が、リーダーなのかを見極め、さらにどの言葉にどんな対応をするかを。そして自分の思い通りになるように話を進めた。王角は正義感が強いので操りやすかったのであろう。


俺はそんな様子を見てラフター王を頭の中の要危険人物のリストに加えた。

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