Spooky Halloween①
深い深い森の中、少女は一人行く当てもなく彷徨っていた。 前へと足を進めるが、出口なんてものは一向に見えてこない。
まだ夕方のはずなのに、周りにたくさんの木が生えているせいか太陽の光は全く届いてこなかった。
―――リオン、一体どこへ行ったの・・・?
今日はリオンという少年と一緒に、出掛ける予定だった。 だけど突然この森へと迷い込んでしまい、彼とは離れ離れになっている状態である。
そんな彼を捜すのと同時に、この深い森から出ようとしているのだが、どこを走り回っても同じ場所を何度も往復しているような気がしてならなかった。
走り疲れた少女は、身体を休めようといったん足を止める。 まるで天然の迷路だ。
―――私、これからどうしよう・・・。
全てを諦めるかのように、力なくしゃがみ込もうとした――――その時。
“こっちだよ”
“こっちにおいで”
“私たちが案内してあげる”
―――・・・え、何?
驚きのあまり咄嗟にキョロキョロと周囲を見渡したが、声の持ち主の姿はどこにもない。 それでも囁きは消えず、少女に話しかけ続けてきた。
今のままではどうすることもできないと感じた少女は、藁にも縋るよう声の方へと足を進めていく。 心の奥に、不審を抱いたまま。
―――あ・・・。
その時、少女の目に大きな湖が輝かしく映った。 もうすぐ沈みそうな艶めかしい夕日が、透き通った水に映し出され壮大な絵を描いている。
“ようやく森から抜けられた”という安心感と共に、少女は湖の近くへと足を進めた。 水を覗き込むなり、小さく笑みを浮かべてみせる。
―――・・・うん、大丈夫。
―――リオンがいなくても、私ならまだやれる。
本当は不安な気持ちでいっぱいなのだが、無理にでも笑顔を作り心を取り繕った。 このまま先程の声の主を探そうと、横を見たその瞬間――――湖のほとりに、一人の少年が立っていた。
背が高く、17歳である少女よりも少し年上といったところだろうか。
「あっ・・・」
ずっと凝視していたせいか、視線に気付いた少年はゆっくりとこちらへ顔を向けてきた。 目が合い少々驚くも、道を尋ねるため彼のもとへ歩み寄ろうとする。
少年はぼんやりと夕日を眺めていたのだが、少女の姿を見るなり大きく目を見開いた。
「あの、私迷子になってしまったんですけど、どこへ行ったら・・・」
「・・・ッ! どうして貴女のような娘がこのような場所にいる!」
「え?」
怒鳴られるとは思ってもいなかったため、反射的に進む足を止めてしまう。 言葉を失い黙り込んでいると、少年はもう一度夕日の方へ視線を移し険しい表情を浮かべた。
「夕日がもう沈んでしまう。 今すぐに来た道を戻るんだ! 貴女のような娘が、ここへ来てはいけない!」
「え、でも・・・。 帰り道が、分からなくて・・・」
慣れない怒声に怖気付き、おどおどとした口調になりながらも今困っていることを素直に伝えた。 すると彼はすぐさま左方向を指差し、ハッキリと告げる。
「あそこに細い一本道があるだろ。 そこを進めばここから出られる」
「あ、あの・・・。 ありが」
「いいから早く行け! もうこのような場所へ、来てはならないぞ!」
「ッ・・・。 は、はい!」
あまりの迫力に気圧された少女は、慌てて頭を下げ少年のもとから去っていった。 教えてもらった一本道へ入り、出口を目指してひたすら走っていく。
―――何なの、私が何かをしたの・・・?
尖っている謎の少年と出会いモヤモヤとした複雑な気持ちに支配されながらも、森から抜け出すために、リオンと会うために、足だけは前へと動かし続けた。
そしてようやく一本道が途切れているところを発見し、心は自然と軽くなる。
―――よかった、やっと出られる・・・!
安心から、少女の頬が綻んだ――――その時。
―――・・・え?
思いもよらぬ光景を目にし、足をその場にピタリと止めた。
―――嘘、でしょ・・・。
先に道はなく、天まで届くような壁が立ちはだかっていたのだ。 もっと言うならば、自分の顔が何故か目の前に映っている。 まるで大きな鏡に映った自分を、虚しく見ているかのように――――
咄嗟に我に返って辺りを見渡すも、夕日は既に沈んでしまいほとんど何も見えなかった。 映った姿も、ぼんやりとしか見えない。 それでも少女は恐る恐る、鏡に触れようとした。
―――・・・私、この森に閉じ込められた?
刹那――――少女は絶望の闇に、陥ったと確信したのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます