秘密のクロエちゃん
千 楓
第1話 世界を救う魔法少女がログインしました
少し丸っこい癖字で、黒板に名前が書かれる。
ルーム長をしている
単に容姿が優れているだけではない。
夏の海のようにきらきらと輝く瞳。形の良いくちびるは、にこやかに弧を描いている。少し緊張しているのか、頬は薄らと紅潮していた。
黒いセーラー服は襟のラインが白く、クールな印象だ。
人形かモデルのように均整の取れた身体は、どこか儚さを感じさせる。華奢な印象だが、胸元の白いリボンを押し上げるふくらみはなかなか挑発的なラインを描く。あどけなさの残る童顔が、ギャップを感じさせた。
普段は口うるさい女子グループでさえ、声も出ないらしい。まして、男どもは当然のこと。生唾を飲み込むのも躊躇われるような緊張感に、教室全体が包まれている。
するとクロエは、胸元で細く長い指を祈るように組み合わせ、その桜色した魅惑のくちびるを開いた。
「私は、この世界を救うために遣わされた
酷すぎる自己紹介が来たものだ。
教室にいる、全三十二人の生徒が泣いた。
だが、クロエは空気を読むことなく、クラスター爆弾を投下し続ける。
「皆さんを困らせる“悪”は何ですか? どうか希望を捨てず、私に教えてください」
「黙れ、中二病」
その瞬間、生徒たちが教室の後ろを振り返る。
一番後ろの席で頬杖を突いていた友介は、何食わぬ顔をして、他の生徒と同じように後ろを振り返る。勿論、ロッカーしかない。
思わず心に浮かんだ言葉が、口を突いて出てしまっていたようだ。
(やば。これは村八分コース一直線か?)
慌てて取りなそうにも、頭に浮かぶ言葉はどれもこれも嘘くさい。仕方なく、友介はツッコミ役という名の憎まれ役を買って出てやることにした。
「困ってるものなんて、一つしかないだろ」
「はいっ なんでしょう、是非教えてください」
「“おまえの発言”だよ。おまえの魔法は氷魔法か? 空気が凍ったわ」
「いえ、魔法属性は特になくて、いわゆる万能型――」
頭が痛くなるような返答に、友介は深くため息を吐いた。
「頼む、空気を読め。そんでもって、絶望的に滑りまくってると気づいてくれ」
「あ、この世界は、
「テレパシーでもテレポートでも何でもいい。今すぐその口を閉じろ、転校生」
「
クロエを見つめるクラスメイト達の表情は、唖然から困惑へ変わりつつある。
これ以上、長引かせれば、高校生にもなって中二病真っ盛りなこの転校生の学園生活は、完全に終わってしまう。今の時点でも、既に手遅れな感は否めないが。
友介は椅子に座ったまま、人差し指を突きつけるようなポーズをした。
「分かった。分かったから、口を閉じろ、転校生」
「!?」
「後で
その言葉に、クロエの表情は青ざめた。
辺りを窺うように、その大きな瞳を彷徨わせ、胸の前で組んだ手をぎゅっと握りしめている。
かと思えば、一転して愛くるしい微笑みを浮かべてみせた。
「初めまして、雪森クロエです。得意教科は、国語と音楽です。早くこのクラスに馴染めるようにがんばりますので、どうぞよろしくお願いします」
(このクラスに馴染むとか、絶望的に無理めな目標キター!)
疎らな拍手が贈られるのを確認した担任は、いつものように点呼を始めた。
勤続二十年目ともなると、ちょっとやそっとの中二病では動じないのだろうか。
「あー、転校生の雪森は、さっき運び込んでおいた机が教室の後ろにあるから。適当に好きな場所に移動して使ってくれ」
「はい、先生」
「何か分からないことがあったら、ルーム長の海野に聞いてくれ」
(待て、俺に丸投げするんじゃない!)
制止しようとする友介の言葉より早く、日直が号令をかける。軽く頭を下げながら、厄介な奴にかかわってしまった、と友介は軽く首を振っていた。
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