第十九話 1万キロメートル

 注)後半は性行為描写があります。苦手な方はご注意を。


 結局手伝ってくれるとことにはなったものの、漆原は明らかに不満そうだった。別に完全に全部を一人でやれというわけではなくサポートもするし、小型カメラを何処かに設置して後は基本放ったらかしでもいいし、やりたきゃ張り込みしてもいいし、気になる人がいたら尾行してもらっても良い。監視場所もあそこの真ん前の賃貸マンションの空き室も確保して恵まれてるし、ばれる心配もないから、好きにやってくれていいと。お金も十分ではないけど通情の探偵料金並みにお支払いもすると言ったんだけど……。


 しかし、「杏樹さんは来ないのか」の一点張り。いや、全然行かないとは言ってないのだけど、こっちも忙しくてつきっきりというわけにはいかない。そりゃね、漆原くんが私を気に入ったとか言われるのはそんなに嫌ではないのだけど、探偵っつーのは、チームこそ組むことはあっても、基本は何でも一人でやらなきゃならないんだよね。……って彼は素人だから、プロレベルの仕事は求められないのは分かってるのではあるけれど。


「そうなんだね。その漆原さんってば、よっぽど海来のことが好きなんだ」


 と、そのカメラを覗き込んでカンナが言った。向こうはどうやらちょうどお昼くらいらしい。何処の国なのか教えてくれないけど、こっちは夜九時を回ったところだ。


「そうみたいなんだけどさ、漆原は二千人もナンパしてきた男だし、あたしだってそんな女の一人としてしか見てないに決まってるよ。だいたいさぁ、あたしは男なんか興味ないわけだし」


 私は、iPadを持ったまま、キッチンに来て冷蔵庫からワインボトルを取り出した。でも、もう残り一杯分くらいしかなくって、ビールも切れていたのでちょっとがっかり。


「そうかなぁ。海来って結構男にモテそうな雰囲気あるじゃんか。見た目、ちょっと幼い感じでさぁ、妹っぽい感じあるじゃん。しょっちゅう告白とかされてきたんでしょう?」


 それはたしかに事実だ。大学生くらいまでに三回くらいは男子と付き合ったんだ。そのうちセックスしたのは一人しかいないけど、一応は男嫌いの私も頑張った。私から選ぶ必要ないくらいには男は寄ってきた。この年になっても漆原だけじゃなくて、男は言い寄ってくる。でもそれは、単に男という生き物の習性で、私が特別モテるからではない。


「でも流石にそこはカンナ様には負けるよ。そのお美しいお顔と肉体美だったら、何処の国に行ったってモテモテでしょう? あたし実はいつも心配してるんだよ? 日本人ならともかく、外国人男性ってさぁやっぱかっこいい人多いじゃん」

「そうそう、外国人男性はさぁ、ストレートに寄ってくる人多くてさぁ、しかも結構熱烈で困っちゃうんだよね。この今泊まってるホテルも、男にばれないようにするのって大変なんだ。知られるとすぐ来るからさ」


 カンナこそ、絶対男が放っておくはずがない。たまにモデル業をやってるのも知ってるし、何回かは女性ファッション誌の表紙にまでなってる。


「ねぇねぇ、カンナ。いつもの奴やって」

「えー。またするの? 今こっちちょうどお昼の十二時回ったとこなんだけど」

「いーから、やってよ。今見たいの、カンナのきれいな身体」

「ったくもう。しょうがないなぁ。……じゃぁちょっとやるね」


 そう言うとカンナは、そのホテルの部屋にあるテーブルの上に置いていたノートパソコンのカメラの付いた面を、くるっと部屋の広い方向に向けると、カメラの外で着ていた部屋着を脱いで、ショーツ一枚の下着姿で画面に登場した。そして、モデルのように色々なポーズを決めて、その見事なまでにバランスの取れた肢体を私に披露した。私はただただとろける視線を、それを映し出すiPadに馬鹿のように送るだけ――。


「ところで、海来が最初に言ってたその女の子の尾行って、今日はどうだったの?」と、長い髪をかきあげながら背中向けにこちらに向けてポーズを決めたカンナが言った。

「あー、今日は特に何も。普通に大学から自宅へ帰っただけだった」

「そうなんだ。でもさぁ、海外ならまだ分かるけど、海来が言ってたような酷いことを日本でする人っているのかなぁ? しかも、単なる性癖でしょう?」

「どうだろうね。実際にあるのかどうかは調べてないけど、空想上の変態趣味なら何でもありだからね」


 ていうか、あたしたちだって変態と言えば十分変態なのかもしれない。遠く離れた二人の女性が、一方がトップレスの下着姿でポーズ決めて、一方がそれをネット越しに愛でている……。あたしだってガウンを脱いでしまえば素っ裸。でも、あのカンナの身体はエロ過ぎるんだよなぁ……。


「でももし海来の想像通りなら、早くなんとかしてあげないと、ほんとに取り返しがつかなくっちゃう」

「うん、だから、三島と共同してでも出来るだけ毎日尾行するつもり。結構やばいけど、その男だけでもとりあえずなんとかしないと」

「海来も気をつけてね」

「ありがとう。……ねぇ、カンナ」

「何?」


 もうダメだ、あんなエロい身体見続けたら……。


「そのノートパソコンをさ、ベッドの上に持っていってくれない?」

「海来、まさか、今するの?」

「……しよ」

「だからさぁ、こっちは今昼の十二時なんだってば……って、あのねぇ、海来さん、またその顔?」


 そう、私はカンナにとっては子供。カンナがノッてこなきゃすぐ膨れっ面をする餓鬼なのだ。そして私も、カウンターテーブルからリビングのソファーへ、iPadを持って移動した。


「はい、ノートパソコン持って、ベッドに移動したわよ。で、海来はその部屋ちゃんと暖房入ってる?」

「うん、ガンガンに入ってる」

「ということは、お主、まさか最初からそのつもりだったわけ?」


 カンナのご明察。そうでもなきゃ、しぶちんの私が暖房をガンガン効かせるわけはない。しかも私はガウン一枚きり……。


「ったくもう、海来ったら。……いいわ、じゃぁ、今すぐそのガウンをお脱ぎなさい。そしたら、それ以降あなたの両手は私のものよ」


 私はカンナのその言葉に従い、ガウンを脱いで素っ裸になると、ソファーの前においてあるローテーブルの上に、角度よろしくiPadを据え置いた。


「カンナの身体、すっごくきれいだね。お昼の日光があたって、今日は一段と美しく見えるよ」

「ああ、そっか。だから海来、興奮しちゃったんだね」

「うん、ほんとに見惚れちゃう……。ねぇ、じゃぁ私からカンナの手を動かすね。右手でカンナの右側のおっぱいをゆっくり優しく触って」

「……うん。……こうかな? あっ……」


 はぁ……、あれは私の手。触ってもいないのに、あの柔らかい感覚を今、私の手に感じているような錯覚。


「そのままゆっくり触り続けて。……乳首も少しだけ触って」

「あっ……。海来も、……その左手の人差し指で、その可愛い唇をゆっくり舐めるように触って。……ああっ」


 自分で自分の唇なんか初めて……、ああっ、でも、これって……。


「唇に触ってると、なんだか……、あそこを……、触ってるみたいでしょ?」

「う、うん……。じゃぁ、カンナは左手もおっぱい触って。……まだ優しくね」


 少し乾いていたはずの唇がすぐに唾液で湿って……、ただ人差し指が唇を舐めているだけなのに、……エロい。自然と自分の舌も出てくる……、はぁ。


「あ……、み、海来、空いている方の右手で、海来も、おっぱい触ってご覧」


 言われてみたとおりに、自分で自分のおっぱいを触ったのに、カンナに触れられたように、身体がビクッと反応した。


「カンナ……、気持ちいい?」

「うん……、あん……、気持ちいい。もっと強くおっぱい揉んでいい?」

「いいよ。あたしも……、ああっ」


 唇に触れていた左手人差し指がいつの間にか中指と一緒に2本とも、第2関節くらいまで口に中に入って、私はそれをしゃぶるように舐め回していた。


「海来、……はぁっ、その唾で濡れた指で、……乳首に、……触れてご覧」


 言われたとおりに、濡れた指で左乳首に触れると、そのヌルヌルした感覚がまるで舌で舐められているようで、ますます興奮――。


「カンナって、いやらしい女ね」

「はぁ……、海来ってば、あなたがしようって。……でも、濡れてると気持ちいいでしょう?」

「うん……気持ちいい。……あっ、……カンナも指を濡らして、……乳首に触ってみて」

「……ああっ」


 少しの間、指が乾くと、すぐに唾液を指に補充しては乳首を触って、摘んだり、指の先で転がしたりして、ふたりとも快感を弄んでいた。


「海来、……濡れてる?」


 十分だよ。普通にセックスし合うより、離れてオナニーし合う状況って、興奮しすぎてしまう――。ほんとにあたしって変態だ。でも、たまにしか会えないし。


「もう触って、いいの?」

「まだダメ。海来の手はあたしのものよ。今度は、左手でおっぱい弄びながら、右手でお尻を触ってみて」

「お尻? まだ駄目なの?」

「だーめ。そのソファーの上に四つん這いになってみて」


 カンナに言われたとおりにソファーの上に四つん這いになって両膝を立て、自分のお尻を触った。


「海来のその姿、すごくエロいわよ。じゃぁ私はこうするね」


 といって、カンナはベッドの頭部分にあったクッション4つを、ベッドのヘッド部分に立てておいて、そこにもたれるような姿勢で、股を大きく開いた。まだショーツは着けたままだったけど、エロいっつーか淫らな女というか。


「カンナ、もう、パンツ脱いじゃってよ」

「えっ? この姿勢で?」

「うん、どうせいらないじゃん。汚れちゃうしさ」

「でも、流石にこの姿勢じゃ、放送禁止だよ、あはっ」

「いいからいいから」


 カンナは私の言う通りにしてくれた。カンナのそこは、結構茂みが深いのだけど、その部屋に差し込む陽光が、股間の陰陽をはっきり区別してくれて、そんなに解像度の高くないビデオチャット映像でも、ヌラヌラと濡れた様子がはっきりわかった。


「じゃぁさ、私はカンナの言うとおりに焦らされゲームをするけど、カンナはそのままあそこを触って」

「う、うん。右? 左?」

「どっちでもいいよ。好きな方で」


 するとカンナは、両手を使ってその茂みの奥を触りだした。私もそれを見て、四つん這いになった状態で、おしりの方を触り出す。……ああっ、カンナったら、あそこを開いたりして、なんていやらしい女。でも、あんなの見てたら……。


「カンナ……、気持ちいい?」

「ああっ、……すごく、……はぁああっ、いいっ!」

「はぁ、はぁ、……私も、触って、いい?」

「ああ、……まだ、……だ、駄目」


 でも、我慢できなくって。私は餓鬼だからしょうがない。

 それで、どっちが先にいったかというと、カンナは結局、認めなかった。今回は私が勝っていたと思うんだけどな。


 後で聞いたら、カンナのいた場所はスペインだった。1万キロも離れてビデオチャットセックスなんて、私達って変態過ぎるのかもしれない、と思った――。


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