第63話 白斂
勝負は大爆発と共に幕を開けた。
地から天へと突き抜けるような凄まじい爆風。
その爆風が篠咲の立っていた台地を吹き飛ばした。
そんな災害クラスの威力でさえ、硬化の紋章者である彼には傷一つ与えられない。
しかし、その身は暴風によって空へと打ち上げられる。
暴風によって上空へ舞い上がったのは篠咲だけではない。
収束させた風を一気に解き放つことで発生させた暴風に乗って染谷は篠咲へと肉薄する。
「良いのかい? 空は俺の領域だと思うけど」
大気を硬化させた足場を踏みしめた篠咲は魔力放出を用いて加速した拳を叩き込む。
「足場の有無だけだろう? 誤差の範囲内だとも」
染谷はその一撃を刀の峰で受け流すと、彼と同様、魔力放出で勢いをつけた膝蹴りを叩き込む。
当然、その一撃は硬化によって防がれてしまうが、その衝撃までは無効化できない。
衝撃によって後退させられた篠咲との間には空間が生まれる。
染谷は、その空間に幾つもの大気を収束させた球体を構築する。
そして、莫大な大気を収束させた球体の一部分だけ収束を解除する。
解除された一点という逃げ道を得た大気の奔流はまるでレーザーのように篠咲を穿つ。
大気の奔流は凄まじい威力ではあるが、篠咲の硬化を貫くほどではない。
軽度の痣を作るものの、大したダメージとはいえない。
しかし、本命はここからだ。
「
篠咲の体内に収束点を構築する。
先の攻撃は、物質内の座標設定が困難であるため、その時間を稼ぐための一撃だったのだ。
体内を起点に収束される篠咲。
これには流石に危機感を覚える。
硬化しているため、内臓や骨が損傷することはない。
問題なのは、
(ヤバい! 身動きが取れない!!)
全ては、この一撃を叩き込む為の下準備。
自縛収斂が成功した時点で最早勝利は決まったも同然だ。
「
全くの同一座標に物質が重なった場合、その物質は互いに消失し、空間に穴を穿つ。
この技はその事象崩壊現象を人為的に引き起こすものだ。
全くの同一座標に並行世界から引き寄せた可能性を収束させる。
つまり、全くの同一座標を二つの斬撃が捉えるということだ。
身動きのできない篠咲は事象崩壊現象によって紋章の硬化も“超克”も無視した空間消失によって斬り伏せられる。
はずだった。
白斂は篠咲を捉えず、虚空を斬り裂いた。
「な……に……!?」
篠咲は咄嗟に収束点となっている脇腹を魔力放出によって消し飛ばしたのだ。
それによって拘束から逃れた彼は間一髪、必滅の刃を避けることに成功していた。
そして、白斂は一度っきりの諸刃の剣。
事象崩壊現象によって、それを引き起こした刀剣すらも消失してしまうのだ。
「悪いけど、これで終わりだ」
脇腹からの流血を硬化によって止めた篠咲は、勝負を決めるべく魔力放出によって加速した拳を叩き込む。
しかし、
「
白き一閃が篠咲の身体を逆袈裟に両断する。
「いや……、ふざけ……すぎ、でしょ」
彼が手に持つものは根本から消失した木の枝。
彼は、一刀目が失敗に終わることは想定していた。
故に、一刀目を隠れ蓑に二の太刀を用意していたのだ。
それこそが、坑道で拾った木の枝。
吹き抜けから落ちてきたのであろう一本の枝を見て、この策を閃いた。
事象崩壊によって斬り裂くのだから切れ味は必要ない。
一定以上の長ささえあれば得物としては十分だったのだ。
「でもさ、俺、諦めるのって、好きじゃ……ないんだよ」
逆袈裟に両断された彼は最早僅かな胴体と右腕、頭しか残っていない。
そんな状態にも関わらず、彼の眼から闘志は失われていなかった。
切断面を硬化させれば僅かながらに延命できるだろう。
しかし、それでは勝てない。
故に、彼は余力全てをこの一撃に注ぐ。
万力の如き握力が染谷を掴んで離さない。
そして、彼渾身のヘッドパッドが染谷の頭を砕く。
残る全ての魔力を頭部の硬化と魔力放出に回した最後にして最高の一撃。
それに対して、染谷も応える。
——
本来は自身の全魔力を収束させ、短時間に限り身体能力を飛躍的に高める技だ。
それを彼は、残る全魔力全てをこの一撃の為に注ぎ込む。
決定的な一撃を受けても尚、諦めない彼の闘志に応える為に、その全てを捧げる。
文字通り全身全霊。
全てをかけた両者のヘッドパッドが衝突し、大気を揺らす。
全てを出し切った両者の勝負の行く末は……。
『勝負有り! 二回戦第一試合! 勝者!! 染谷一輝!!!』
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