第30話

 歩いて海を渡って陸へと上がった。


「正式サービスまでに海流の調整は難しそうだなぁ」

「なら岩山を封鎖するしかないだろう」

「そうだねぇ。まぁ範囲は広くないし、ポールでも立てて進入禁止にしておこう」

「ポールですか?」

「そう、ポール」


 そう言ってGMさん、工事現場や道路工事の時によく見る赤い三角コーンと、黄色と黒のテープが巻かれた棒を突然持ち出した。

 どこから出したのだろう。

 棒の先端にわっかがあって、それを三角コーンに通して……


「それで進入禁止にできるんですか?」

「できるよ。試してごらん」


 三角コーンを三つ、棒も三本。これを繋げて三角形を作るGMさん。

 試してごらんと言われたので遠慮なく棒を跨ごうとすると――

 バチッという音と共に弾かれた!?


「凄い。見えないバリアがあるみたいだ」

「うん。見えないバリアなんだよ。これで囲うか通せんぼすれば、進入禁止にはできるから」


 なるほど。それで岩山の前に三角コーンを立てまくって、中に入れないようにするのか。

 面白いな。


「よし。面白そうだから見に行くぞっ」

「はい!」

「あはは」


 ボクたち三人は岩山のところまで行き、ついでに三角コーンと棒を繋げる作業を手伝った。


 ファンタジーな世界に赤い三角コーンと、黄色と黒の棒……。どう見ても道路工事現場だよ。変な光景だ。


「面白い景色が見れただろう?」

「え? え?」


 ドヤ顔のセシルさんの言葉に、ボクは驚かずにはいられなかった。

 まさかこの人、こうなる事を知っていたってこと?


「いやぁ、最初は海に落ちて沈みでもすれば、何か変なものでも見えやしないだろうかと期待していたのだが。まぁこれはこれでいいかな?」


 うん。そんな事はなかったね。

 しかも行き当たりバッタリだったね。


「ご期待に副えられてよかったよ。本当はもっとファンタジーらしくしたかったんだけどねぇ。でもファンタジーらしい進入禁止を告げる方法ってのが解らなくって。ならいっそこの方が目立っていいかなってなったんだ」

「はぁ。確かに目立ちますね。それに解りやすいかもしれません」

「私だったら、こんなのがあったらなんとしてでも入りたくなるがな」

「それはあなただけですってば!」


 黄色と黒のテープが巻かれた棒を跨ごうとして、見えないバリアに弾かれているセシルさん。懲りずに何度もトライしているけど、結果は同じだ。


「あははは。修正が終われば撤去されるから、その時にまた飛び込んで確認してくれると助かるよ」

「え……またあの上から飛び降りないといけないんですか?」

「気が向いたらでいいから」

「何時でも飛び込む準備は出来ているぞっ」

「頼もしいなぁ。それじゃ、仕事に戻るのでこれにて」


 警官のように敬礼をしてすぅーっと姿を消していくGMさんに、ボクは慌ててお礼と、もう一度謝罪をしておいた。隣のセシルさんも頭を下げてお礼をしたようだ。


 面白い景色……かは解らないけど、貴重な体験は出来たように思える。

 だからといって、毎度毎度飛び降りるのはちょっとアレなんだけど。


「よし。では戻るか」

「えぇ……今度はレベル上げしましょうよ」

「うむ。それもいいだろう」

「新しい技能取ってたのすっかり忘れてたし、蹴り攻撃もやってみたいんですよね」

「あぁ、アレを取ったのか。そういえば私も技能スロットが増えたんだっけな。何を取ろうか」

「今の技能ってなんなんですか?」


 移動速度を早くする魔法を貰って、ひとまず町の方に向って走り出した。

 技能がまだなら、それを先に貰いに行ってからレベリングでもいいかな。ついでに回復アイテムも買っておこう。できれば芋以外を。


「私の技能かね? んーと、『クリティカル率上昇』と『クリティカルダメージ上昇』と『運気上昇』――」


 あぁ、やっぱりそういう方面なのか。確かにクリティカルが出れば、武器の威力が低くても結構いいダメージ出てるもんなぁ。


「あとは『落下ダメージ減少』と――」


 ら、落下ダメージ減少?


「『二刀流』だ」

「二刀流……刃物系装備持ってないじゃないですか!?」

「二刀流といってもだね、二種類の片手武器を振るう為の技能というだけで、二本の剣を振り回すという意味ではないのだよ!」

「鈍器と楽器を振り回すのに必要な技能って……何か違う」

「気にしたら負けだぞ。ふはーっはっはっは」


 この人と出会った事が、そもそも負けな気がする。

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