第15話
復讐が終わったとき、セシルさんのHPも赤く染まっていた。
「うっうっ。私の可愛い楽器ちゃん」
折れた竪琴に頬ずりしながらしくしく泣く彼。
確かに全然楽器はドロップしないなぁ。
「ま、まぁとりあえずHP回復したらどうですか? 真っ赤ですよ」
HPが赤いのは、マックスの九割が削られてから。次に殴られたら確実に死にそうだ。
「回復か……初心者ポーションも残り五本だな」
「結構飲んでますね。ボクはまだ三十本以上残ってますが」
「VITも1だからな。食らうとダメージがでかい」
「一度町に戻りますか? 鞄の空きも少なくなって、そろそろやばそうなんですけど」
いろんなモンスターと戦ったから、ドロップするアイテムの種類も必然と多くなる。
アイテムは四十種類までしか持てないから、数種類のモンスターと連続して渡り歩くと鞄の空きが無くなってしまう。
「私は今ので空きがゼロになった。ほれ」
「え?」
ほれっと言って彼が地面を指差すので見てみると、木の根のようなアイテムと木の実のようなアイテムが落ちていた。
「これって、鞄に空きが無くなると地面に落ちてしまう仕様なんですかね」
「大抵のMMOやVRではそういう仕様だ。君、ちょっとアイテムを持ってくれないか?」
「はぁ。あと五枠しか空きがないですが」
「んむ。そうか。被って持ってるアイテムを預かって貰おう」
セシルさんが腕時計を押し、空をなぞる様な仕草をする。
へぇ、他の人がシステム画面を出してても、こっちから見えない仕様なんだ。
やがて《セシルさんから取引要請が送られました》というメッセージが表示される。
はい――のボタンを押すと、左右に分割されたウィンドウとボクのアイテム一覧が出てきた。
分割されたウィンドウの右側に、次々とアイテムが表示されていく。
「このぐらいか」
「ボクのアイテムと混ざりそうなんで、数を覚えておきますね」
「混ざっても構わないだろう。町に戻ったら清算して、お金を分配するから」
「あ、そういう風にするんですね」
「まぁその辺りはゲームによっても違うし、プレイヤーによっても違う。自分のインベントリに入った物は自分の物。そういうスタイルのほうが多いよ。ただ他人にレアが行くと文句言うのもいるがね」
まぁ気持ちは解らなくも無いけど……。
「では戻るとしよう。『スピードアップ』」
移動速度が早くなる魔法を貰い、ボクたちは町に向かって走り出す。
走りながらふと気づいてしまった。
「そういえばセシルさんって、神官ですよね?」
「んむ」
「だったら回復はアイテム使わなくて、魔法を使えばいいんじゃないですか? それともこのゲームじゃ、回復魔法はレベルが高くないと覚えられないとか?」
「いや、寧ろレベル1からデフォで修得していたが?」
「ならどうして魔法を使わないんですか!?」
ボクが大声を出すと、前を走っていたセシルさんがピタリと止まった。
「ヒールか……無意味なのだよ」
「無意味って、どうして?」
つられて止まったボク。
取引の時のように空を操作していたセシルさんは、しばらく作業をした後魔法を唱えた。
「『癒しの御手 ヒール』」
言葉と同時に彼の指先から緑色の光が発せられ、ポロロンという音と共にボクを包む。
回復エフェクトが現れ、回復量を示す数字が出てくる。
その数字は――
「10……」
「ちなみに消費MPも10だ。CTもあるってのに、回復量10の為に魔法を使うなんて馬鹿げているだろう?」
なんてことだ……。この人……ヒーラーなんかじゃないっ!
「初心者ポーションなんて80も回復するんだぞ。アイテムのほうが優秀だろう!」
「あなたがゴミ過ぎるんですよ!」
「はっはっは。正論だ。さぁ、回復アイテムの補充もしなきゃならないのだから、帰るぞ! 急げばまだ間に合うかもしれないし」
「何がですか?」
「ふははははははは。戻れば解る」
そう言ってさっさと走り出してしまった。
この人……ヒール量があんなんでどうやって神官やっていく気なんだろう。
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