第2話
『Dioterre Fantasy Online』の世界とは。
遥か昔、神々は光と闇の陣営に別れ壮絶な戦いを繰り広げていた。
永きに渡って続いた戦いは、辛くも光の陣営の勝利に終わる。
だが――
闇の陣営にあった『混沌の女神カース』は肉体が滅びる直前、一つの呪い残していった。
――我が肉体より出は、永久に続く悪夢なり。
――永劫の世を混沌に帰し、世界は光と闇の狭間で抗うがいい。
そして女神カースは倒れ、彼女の肉体からは無数の魔物――モンスターが誕生する。
神々の大地と称される『デュオテーラ』
この世界でプレイヤーは冒険者となり、自由気ままな暮らしを満喫してください。
もちろん、この世界には混沌の女神カースの残した、凶暴なモンスターたちが蠢いています。
モンスターと戦い名声を得るのもよし。
英雄たちを影から支える匠となるのもよし。
ただただのんびりと暮らすのもよし。
全てはあなたの自由。
現実では不可能も可能にするVRMMO『Dioterre Fantasy Online』の世界へようこそ。
さぁ、冒険の旅へ!
《ようこそ『Dioterre Fantasy Online』の世界へ。ただいまの期間は、キャラクター作成のみが行える状態です。キャラクターを作成いたしますか?》
どこまでも広がっていそうな草原に、機械音的な女の人の声が響く。でも姿はどこにも見えない。
「は、はい! 身長を五センチ高くしてください!」
どこにいるかも解らない相手に、ボクは大きな声でお願いをした。
やや間があって、突然ボクの視界に異変が生じる。
なんとなく……なんとなくなんだけど、視界が高くなった気がする。足元を見ると、いつもより高い位置から見下ろしているような気がした。
いや、気のせいなんかじゃない!
これは……これが五センチの賜物!?
嬉しくてつい跳ね回ってしまう。
《身長をということで、ご本人に与える視覚の変化を体験して頂きました。問題が無いようでしたらアバターへの変更を行います》
「アバター?」
《はい。貴方様をモデリング化した、ゲーム内でのもう一人の貴方様です》
声がそう言うと、突然目の前にアニメキャラが現れた。よく見るとボクにそっくりだ。
へぇ、現実のボクの姿そのものでゲームをするのかと思ったけど、そうじゃないんだなぁ。
アニメーターの人がボクを見ながら、ボクそっくりなアニメキャラを描いた――そんな感じだ。
《その他、変更点はございますか? そのままですと、容姿で身元が判明する恐れもありますので、多少のカスタマイズをお勧めします》
「うわっ。そういうのもあるのか……あの、ボクVRはおろか、MMOですら初心者なんですが、お勧めのカスタマイズとかってありますか?」
《オンラインゲーム初参加の方ですね。承知いたしました。こちらでサポートいたします。まず――》
声は親切に、髪や目の色の変更、その他髪型を少し変えるだけでも本人の特定が困難になると教えてくれた。
更に、種族によっても多少外見が補正されるらしい。
なので先に種族を決める事にする。
選択可能な種族は『ヒューマン』と『エルフ』『ハーフエルフ』『ドワーフ』『獣人』だ。
ヒューマンは人間の事なので、種族補正はまったく無い。
「試しに全種族の姿を見せて貰ってもいいかな?」
《はい。では『エルフ』から表示いたします》
はい。ファンタジー王道の妖精族だね。耳が長くて、アニメーション化されたボクの美化率がアップしてるよ。
中性的な顔立ちが際立ってしまってるよ!
却下。
じゃあ『ドワーフ』は……身長が更に縮んだ!
これはダメだっ。ボクにとって死活問題だ!!
しかも身長は縮んで体型は横に広がって髭まで生えてるし。何この微妙な髭童顔……。
却下。
次は『獣人』か。犬や猫、兎に羊にリスや猿。いろんなタイプがあるんだなぁ。
見た目も動物寄りから、ヒューマンに動物の耳と尻尾を付けただけみたいなのもある。
あ、この垂れ耳と尻尾……うちで飼ってる柴犬のマロンに似てるなぁ。
まだ生後二ヵ月半で、耳も立ってない可愛い奴。
よし。マロン擬人化大作戦!
うーん、この耳だと髪の毛の色は薄茶色のほうがいいかなぁ。ちょっと変えてみよう。
「うん。やっぱり茶色の方が似合うな。くるんと巻いた尻尾ともお揃いだし」
へへへ。マロンみたいだな。
マロンの目は真っ黒だけど、そこは別の色で……。
うーん、赤か紫――いや、薄紫にしよう。
《――は名前を決定して「あ、マロンって言うんです」い。重複登録はございません。マロンでよろしいですか?》
「はい? え?」
《ではマロンで決定いたします。キャラクター作成が完了いたしました。次に職業と技能の選択を行い、ステータスの割り振りも行って頂きます》
はい?
何がどうなってるの?
今のでキャラクター作成が完了しちゃったの?
え……ボク、犬耳尻尾獣人になっちゃった? しかも名前はマロン……。
「ま、まぁいいか……」
《そのような職業はデータにありません。以下から選択してください》
……まぁいいかなんて職業があったら、それはそれで興味が無くも無いけど。
職業については坂本君のアドバイス通り、公式サイトやWIKIで調べておいた。
職業は『剣士』『闘士』『盗賊』『弓手』『魔術師』『神官』から選ぶ事になっている。これらの職業を『一次職』と呼んで、レベル30になると『二次職』というそれまでの職業の上位種に転職できるようになる。
『二次職』とは別の職業にも転職できるらしいけど、その辺りの情報はまだ未公開になっていた。
坂本君が帰ってから公式サイトを眺め、ご飯を食べながら、お風呂に入りながら考えた。
男らしい職業とは何か――と。
かっこよく剣を振り回し戦う姿はまさに男らしい!
と思ったんだけど、可愛い女の子キャラが剣を振り回す動画が公式サイトには多くて萎えた。
その点、闘士の女の子動画はなかったから、男専用職業なのかもしれない。
だからボクは決めた。
「『闘士』でお願いします」
《一度設定しますと変更はできませんが、よろしいですか?》
「はい」
自分の肉体を極限まで鍛え、武器とする職業。
こんなに男らしい職業はないよね。
《では技能をお選びください。初期の技能スロットは五つです。サブウィンドウに表示される一覧から五つ、お選び下さい》
これも公式サイトやWIKIに情報が載っていた。というか、公式サイトに書かれたものが、まるまるWIKIに転載されてただけだけどね。
技能の数は五十位あったかな。戦闘に役立ちそうなものから、物を作る為の技能、その素材を集める技能。いろいろあって、どれを取ったら良いのか悩むけど……。
ここはやっぱり闘士にマッチしたものをチョイスだね。
同じようにステータスもポイント60を闘士用に振り分けてっと……
----------------------------------------------------
名前:マロン 種族:獣人
職業:闘士LV1 / ---
HP:
450/450 MP:50/50
STR:25 VIT:15 AGI:17
DEX:1 INT:1 LUK:1
スキルポイント:0
ステータスポイント:0
【技能】
『筋力強化:LV1』『肉体強化:LV1』『速度強化:LV1』
『拳強化:LV1』『格闘術:LV1』
----------------------------------------------------
これでよし。
STRは攻撃力になるってあったし、高いほうが良い。
VITが大きいとHPが高くなるってあったし、HP低いと死に安いだろうからこのぐらい。
AGIは攻撃速度が早くなるとあったし、遅いのはかっこ悪いからひとまずこれぐらい。
あとは実際に戦ってみて、足りないなと思ったステータスを上げていけばいいかな。
《では最後に、メインウェポンとサブウェポンをお決めください》
メインとサブ。二種類の武器を決めるって不思議な感じだ。
これも公式サイトにあったんだけど、詳細は後日報告とかになってて意味不明。
ただ、武器はゲーム中に職業制限内であれば変更可能だってことだから、今は気にしなくてもいいのかな。
wikiのコメントとか見てみると、剣士ならメインに剣、サブに盾ってのが王道スタイルになりそうだって書いてあった。
メイン=利き手。サブ=その逆と考えれば、なんとなく納得できるかな。
さてボクは闘士だ。
拳で語る職業だ。
きっと、たぶん。
だから――
「メインは素手でしょう!」
《ではサブウェポンをお決めください》
「素手でしょう!」
《設定完了いたしました。これでよろしいですか?》
目の前のアニメーション化なボクが幾つかの動作を行う。
ちょっと癖っ毛な薄茶色の髪に同色の垂れ耳が覗き、ファイティングポーズに合わせてそれが動く。
きりりとした太い眉と、薄紫色の瞳――うーん、キリっとしているなぁ。
ただ日本犬特有のくるっと巻いた尻尾が、なんとも緊張感の無さを演出しちゃってる。
まぁいいか。
何より注目なのは――身長!
よぉし、あとは明日を待つだけだ!
身長155センチになったボクよ、待っててね!
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