童話『ゆきむすめ』

橋元ノソレ

前編

むかしむかし、さむい北の国に、子どものいないおじいさんとおばあさんが住んでいました。

おじいさんとおばあさんはおうちで、前後に揺らせる木のイスにこしかけ、だんろの火のパチパチするのを聞いています。すると、外の、すこし遠くのほうから子どもたちの声が聞こえてきました。

おばあさんはひざ掛けごしにヒザをすりすり、語りかけます。

「おじいさん、二人きりですと、さびしいですねぇ」

「そうだね。せめて。子どもがいればいいのに」

おじいさんはイスを前後にきぃきぃ、ならしながらこたえます。そして、ふと外を見ると子どもたちが大きな雪だるまをつくっていました。

「ほら、おばあさん、外を見てごらん。子どもたちが雪遊びをしているよ」

「あら、本当ですね。みんな、楽しそうに」

おじいさんとおばあさんはそのまま少し子どもたちを眺めます。

「そうだ、おばあさん。わたしたちも、雪だるまをつくろう」

「はい、そうですねぇ。それならボウシをかぶって、手ぶくろをはめて、長ぐつもはいている、かわいい女の子をつくってみましょうよ」

「うん、そうしよう」

 おじいさんとおばあさんは、外套と帽子、手袋、長靴をつぎつぎ身につけると、うれしそうに外へ出ていきます。


 さっそく庭中につもった、やわらかな雪をまん中にかき集めます。つくり始めると思いのほか楽しいもので、おじいさんもおばあさんも若返ったような気分です。

しばらくすると庭のまん中には、雪の、かわいい女の子の姿がありました。おじいさんは娘が生まれたような、ひときわうれしそうな声でたずねます。

「おばあさん、この子に何て名前を付けようか」

「そうですねぇ。女の子ですから、かわいい名前の…」

 おばあさんも娘に名前をつけるような気持ちで考えていると、

「わたしは、カーチャ」

と、とつぜんその雪の女の子が口をきいて、おじいさんとおばあさんにとびついてきたのです。

 白いほっぺたはみるみるピンク色になり、炭でつくった黒髪と大きな黒い目は本当の黒髪と目になりました。ほっぺたのピンク色の奥にはすき通るような透明感があり、黒髪と大きなまん丸の目は新雪のように光をキラキラと反射しています。

 おじいさんもおばあさんも大喜びで、

「カーチャ、今日からお前は家の子だよ」

と、繰り返します。

 それからカーチャは、それはそれは大切に育てられました。洋服を作ってやったり、新しい長ぐつを買ってやったり、一緒に料理をしたりと、娘がいたら、してやりたかったことを、冬の間に一通りやってしまうほどです。


冬が終わって雪がすっかりとけてしまうと、カーチャは次第に元気をなくしていきました。

「カーチャ、森へ遊びにいきましょう」

近所の子どもたちが呼びやってきましたが、カーチャは首を横に振ります。

「いやよ。外はあついんですもの」

「まあ、カーチャ。森へ行けば、とてもすずしいわよ」

子どもたちはそう言います。おじいさんとおばあさんは、

「そうだよ、カーチャ。たまには外で遊んでおいで」

と言うと、森の方が涼しいところもあるから一緒に行って見つけてくるといいと、付けくわえました。

「…うん」

そこでカーチャは、しぶしぶですが、みんなと森へ出かけました。


他の子どもたちは楽しそうに遊んでいるのに、カーチャはたった一人で一日中、小川で足を冷やしていました。そうやって過ごしているうちに陽ざしもやわらぎ、足も小川でかなり冷えました。土や水のにおい、葉のこすれる音、カーチャはここで初めて春を少し感じられました。

「カーチャったら、おかしな子ね」

 夕方になると、みんなは焚火をしました。

「ねえ、みんなでたき火の飛びっこしましょう」

 誰かがいうと、みんな はそれに賛成し、

「じゃあ、わたし一番よ」

「二番は、わたし」

と、次々にたき火を飛びこえていきます。最後に残ったのはカーチャです。

「あら、カーチャがまだね」

「どうしたのカーチャ。飛ばないの? 飛ベないの? こわいの?」

 みんなに言われて、たき火を横目で見たカーチャは背筋がひやりとしました。とてもいやな感じの寒さです。カーチャは一言だけ、

「あたし、飛びたくないの」

 するとみんなは、笑いながら言いました。

「わかったわ。カ一チャは、たき火がこわいのよ。弱虫(よわむし)なのよ」

「そうよ、そうよ。カーチャは弱虫よ」

また、いやな寒さを感じました。

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