椿が綺麗ですね(坂本一族シリーズ)

紬木楓奏

第1話 再会

 二度目の結婚式を挙げるために、わたしは日本に帰ってきた。日本語の流暢なアメリカのフリーランス医師と婚約し、実家一族の参加である高級ホテルで挙式を上げてからの帰国だ。

 わたしの一族は医師家系であり、大きな派閥であり、様々な分野で権力を持っている旧家である。その習わしで、必ず立派な日本家屋が連ねる本家で式を挙げることになっており、海外生活が長いわたしも渋々それに従った。

 季節は冬。本家の立派な日本庭園には、今年も綺麗な椿が咲いていた。


時雨しぐれ、お久しぶり」

千笑ちえ!」

 坂本千笑。最近、海外デビューを果たした親戚で、わたしの幼馴染の親友である。

「アメリカでもすごい評判だよ、千笑のバンド! 聴いたよ、すごくよかった」

「時雨は誰にでもほめるからなあ」

「本当だよ。すごくよかった」

「ありがとう」

 千笑の笑顔を見てホッとする。誰よりも音楽を愛している彼女は、引きこもり経験があり、当時、寄り添うしかできなかった過去の自分が本当に悔しかった。

「時雨こそ、外交官なんてエリートじゃない。お医者様の旦那さんまで見つけちゃって、夏央李かおりさんも笑顔が絶えないよ」

「お母さん? お母さんはいつでも笑顔でしょ」

桔梗ききょうさんも、初氷はつひちゃんも笑顔。冬の美人三姉妹がそろって笑顔なんだよ? 夏央李さん、本当にいい笑顔してるよ」

 姉で専業主婦の坂本桔梗、妹で医学生の坂本初氷。それにわたし、坂本時雨。名前がみんな冬の季語だから、私たちは一族から“冬の三姉妹”と言われている。

「千笑……ああ、時雨」

「ああ、じゃないでしょ。お兄ちゃん」

 あ。

「怒るなよ、千笑。時雨、おめでとう。アメリカの式は行けずに申し訳なかったな。綺麗になって、まあ」

「お久しぶりです……万颯かずさくん」


 桔梗ちゃんがお嫁に行った日。わたしはまだ十四歳だった。

 杏太きょうたさんに、大好きな桔梗ちゃんを取られるのが嫌で、桔梗ちゃんの幼馴染である万颯くんを振り回して、桔梗ちゃんと杏太さんを破談に追い込もうとした。子どもの悪あがきだ。

 あの時も、この季節だった。本家の周りの椿がきれいに咲いて。

 静かにわたしを諭し、祝ってやれと笑顔で導いた彼に――


 わたしは静かに恋をしたのだ。


「今日も、椿が綺麗ですね」

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椿が綺麗ですね(坂本一族シリーズ) 紬木楓奏 @kotoha_KNBF

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