第十六話 運命を変える力~すでに変えられた運命~

 辺りが暗い。雲は渦巻き、分厚く光を遮る。

 遠くで、すぐ近くで、雷が駆け回る。大地は大きく揺れ、音を立ててひび割れて山々も崩れている。


「どうした?ルキ」


 ルキを現実に引き戻したのは青龍であり、もう何処にも生命など存在しないかのような光景がルキ達の足元に広がっていた。

 あの日見た闇が、崩壊が、この世界を呑み込み始めていた。


「風姫ではないですか。ふむ、今のあなたは私達と同格以上の存在のようですね」


 話し掛けてきたのはあたたかい炎を纏う朱雀であり、彼の神の頭の上には緋音と緋奈乃が横たわっている。

地上から浮き上がってきた玄武の姿もルキの視界に入ってきていた。


「俺達が勝手に未来へ繋いだはずの希望のはずが、お前だけには呪いのように縛り付けてしまったようだな…廻間の神の能力ちからを奪いし者よ」


 後ろから話し掛けてきたのはこの世界の神様の中で1番もふもふしていてさわり心地がいい白虎。彼の神の背には2人の巫女である汰牙たいがと白音が無造作に乗せられている。

 いつの間にかルキの周りにこの世界の神達が集まり、すでに息絶えている彼らの巫女達をそれぞれが大事に大事に扱っている。


「すまないな、風姫。私達のごうの子よ…」


 ルキに申し訳なさそうに詫びるのは亀と蛇の姿を持っている玄武だった。

 亀の方の背に乗せられている巫女の2人…何だかルキは先代の玄武の巫女である雨深うみと目があったような気がした。


「わたしの神力ではもうどうにもできない。風姫よ、この不甲斐ないわたし達の願いを叶えてはくれまいか?」


 四神よりも1回り大きいこの世界の頂点に君臨する応龍が、落ちこぼれの青龍の巫女だったこんな私に頭を下げている。


「ルキ、お前の悪い癖だ」


 青龍の青い風がルキの頭を撫でていた。どうやら、何を考えているのか心を読まれたらしい。

 今の自分でも、青龍に隠し事はできないみたいで少し悔しくて嬉しいと思う。


「わかりました龍神様。自分以外の皆を別の世界に転生させます」


 世界の廻間の権利者の能力を使い、遥か昔のルキの頃に一緒にいた友を別の世界に転生させる。

 次の人生は、こんな世界じゃないように、もっと平和で楽しくて、嬉しいがいっぱいある世界で…幸せに生きて。


「ありがとう」


 青龍以外の神達は、先に世界と共に消滅していった。残ったのは、今の自分と先代の青龍の巫女だっだ自分…それに消滅しかけている青龍だけ。


「本当にいいのか?ルキ」


 今さら、青龍は何を聞いているんだろう?

 そんなこと、青龍はとっくに私の考えていることなんて分かっているはずなのに。


「もう決めた。青龍だって分かってて、あの時私を最期の巫女だと言って銀狼に託すなんて言ったんでしょ?」


 もう一度、私にその言葉を言って欲しい。

 銀狼と契約して無限の世界に転移して転生して、心にキズを刻み続けても…私はこの未来を取るから。

 次も次も次も次も次も…全部。


「さあ、運命を変えたいと絶望する強い魂を世界の廻間へ誘おう」


 ルキはいつものように世界に亀裂を入れて、過去の自分を世界の廻間へと誘った。

 それは運命を変える力を自分に集めるため。因果、特異点、必然…全部自分の物にする。


「お前がその道を選んだのなら、我が口を出すことではない」


「うん…もう、青龍には会えなくなるね」


「お前なら会おうと思えばいつでも消滅前のこの世界に来て会えるだろう」


 それじゃ意味がないのは、青龍だって分かってるくせに…本当は青龍とも銀狼とも、ずっとずっと一緒にいたい。


「泣くな、ルキ。お前は既にその道を選んでいる」


 分かっている。何度も何度も自分はきっと繰り返している。

 いつかの自分がこのやり取りを何処かから見ている可能性だってある。


「私は何度も後悔する。だけど、どれだけ魂に無限のキズを刻んで泣きわめいても…皆が笑っていられる世界のためならどんな悪にでも落ちるし、どれだけこの手を赤く染めて、どれだけ心をどす黒く染めても・・・・・」


 ーーー私は…

















◆◆◆

世界の廻間、Heart Doll本店。

自分の定位置であるガラスケースから出てきたリオネは少し笑っていた。

それを見て椅子に座っていたゆなが、気になってリオネに話し掛ける。


「緋音、何を笑っているの?」


「ちょっとした思い出し笑いだよ、理央」


「いつのこと?気になるんだけど…」


「ルキが守護の陣を鏡みたいに反対で書いて、刃を召喚してたやつがあったでしょ?」


「あれは、危険な陣だったわ。それに、あれを汰牙がカッコいいなんて言い始めて…」


リオネとゆなが楽しく笑いあっていると、お店の扉が開いて幼い子供の姿をしたHeart Dollが2人入ってきた。


「何?昔のオレの名前が聞こえた気がしたけど?」


「またルキがいないからって昔の話してたの?」


自分達もまぜてと、華恋かれんと純はリオネ達のところまでその外見を裏切らない可愛らしさでかけてくる。




何の因果か、Heart Doll本店には別々の世界に転生したはずの先代の巫女達が全員揃っていた。

店主が不在の間に昔の話をしているHeart Dollの巫女会は、ルキには内緒である。

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銀風の物語 姫野光希 @HimenoKouki

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