第九話 終焉のはじまりと輪廻
世界の廻間。
ルキは今、転生していた世界から帰ってきたところだった。ただいまと言うために銀狼を探し、真っ暗な無限の世界が在る空間を見極めていた。
「何処にもいない?」
一通り探した世界には銀狼はいない。もっと細かく枝分かれしたパラレルワールドに行っているのだろうか。それとも見極めが終わった世界ですれ違っただろうか。
少しするとルキはまあいいかと銀狼がこの廻間に帰ってくるのを待つ事にした。仮の地を蹴り、宙に座る。
「あなたの銀狼なら、廻間の果てにいる。彼に会いたいなら急いだ方がいい」
突然に掛けられたの声。一瞬でルキの目の前に現れた、1人の女性。
何処かまるで、出逢ったばかりの銀狼を思わせる雰囲気を...否、この廻間の神のような存在である銀狼と同等の能力を彼女は持っている。
そして彼女は自分と同じ姿をしている。少し大人な、ルキと光希のどちらもの姿と性格、潜在能力を持ち合わせ...尚且つ基は今の
「どういう、こと?」
警戒を見せるルキに、目の前の彼女は笑った。
そして彼女もルキと同じように仮の地を蹴り、宙に座て答えた。
「私は姫野ルキであり光希。あなたの時間軸で言うのなら、こう成る可能性のある“未来の私”」
「だから、銀狼の居場所を知ってるんだ」
ルキは彼女の言う事を理解して、本当に銀狼がこの廻間の果てにいるのか確かめるため視線と意識を集中して遠くを見回した。
それに、この廻間で“未来の私”に出会うのは初めてだ。それどころか自分に会った事など今まで1度もない。
「後悔するくらいなら、ここで消えた方がいい。銀狼はもういなくなる」
目の前の彼女、未来の私が言っている意味を理解できない。それは、どういう意味か。
いつの間にか彼女の手には銀風刀が召喚され、静かに隙無く構えられていた。さすがは未来の私だ。今の自分の持つ銀風刀やその他の能力、銀風を使っても彼女には勝てる気がしない。
「この先の未来は、青龍を失ったときより孤独だよ。変えられない運命に耐えきれずに泣いても、銀狼は助けてくれない」
ーーー私が、消してあげる。
彼女の目も銀風刀の切っ先もそう言っている。このまま、消されるのが私の運命なのか。
それを受け入れようと思った瞬間、吹き飛ばされそうなほどの強い銀色の風が吹き荒れた。
2人のルキは、仮の壁につかまって飛ばされるのをこらえている。
「まさかこの俺をも越える存在になるとはな?」
強い風が少し弱まったかと思うと銀風の中、暗闇に一瞬にして現れた銀色のオオカミの姿…間違いなく銀狼だ。
その姿は暗闇に光り耀き、また悪でもあるような不思議な存在。その光景にルキは、初めて出逢った頃を思い出していた。
「廻間の神に成り代わる化物の私は、もう青龍にも銀狼にも必要とされない存在だから」
そう言う彼女は銀狼の存在を気にせずに何事も無かったかのように過去の自分、ルキに詰め寄っていく。彼女の持つ銀風刀の切っ先がルキの喉元へ突き立てられた。
赤い血が首筋を伝い、胸へと落ちていく。
ーーールキ、俺の声に応えろ
銀狼がルキを喚ぶ、彼が必要とするのは廻間の神もしくは悪と恐れられる彼をも越える存在の
「その声に応えれば、消滅するのは銀狼だ。すでに私はその運命を魂に刻んだ」
「え…?」
銀風刀を握る手に力が増していく…その切っ先が過去の自分の喉元の肉を貫こうとしている。
それに抵抗するのは銀狼の操る銀風のみである。今のルキの強さでは未来の自分には及ばない。
「そいつの言葉を信用するな。この廻間の権利者はこの俺だ!」
銀狼がルキを背に守り、未来のルキを敵と見なす。
跳ね上がる銀狼の銀風に負けないように、未来のルキも銀風の圧を上げた。同じ属性の能力がぶつかり合い、光り耀く火花が飛び散る。
「銀狼!?」
初めて見る、銀狼の本気。ルキは心配そうに彼の名を呼んだ。
それは彼の選んだ“神子”として。
その瞬間、光り耀く火花も強すぎる銀風も、時間の神に干渉されないこの廻間の時間が止まったような気がした。
「私は運命を変える能力を手にいれる…ここもまた、無限に枝分かれする世界の1つでしかないのだから」
最後まで立っていたのは未来のルキだ。
仮の地に倒れたまま動かない銀狼に、霊が抜けたように仮の地に座り込んでいるルキ。
勝敗は決した。未来のルキは目の前の過去を見詰めた後、その場から姿を消した。
どれくらいの時間が経っただろうか。いや、止まったままだろうか?
仮の地に座り込んだままのルキの視線の先には、仮の地に倒れてもう動く気配の無い銀狼の姿だけがある。
「銀狼…?」
もう返事をしてくれない事も、彼の声を聞くことはできないのだと頭では理解しているのに…どうしても心は、その事実を拒絶している。受け入れたくない。
「ねえ、銀狼…私の声には返事を返してくれないの?いつもみたいに唸り声でもいいから…」
少し遠い銀狼に手を伸ばすと、彼の傍に一瞬で近付いた。今までこんな事はできなかったはずなのに。
彼に触れてもその温もりは消えつつあった。また、自分は何も守れなかったのだろうか?認めたくない、銀狼をも失うなど認められない。
「青龍!助けてっ…!」
もういない、青龍にさえも助けを求めた。どうして私の大切な人達は、自分の前からいなくなるのだろう。
それが自分の生まれついたすべてで、運命だとでもいうのだろうか。
ーーーふざけるな、ふざけるな、ふざけるなッ…!
「っ……………!」
ルキの強い感情に任せて、この世界の廻間に嵐のように荒れ狂う銀風が吹いている。
銀風で舞い上がる黒い髪で隠れたルキの顔。その隙間から覗く頬に涙が伝い、黒髪と一緒に銀風に巻き上げられる。
「銀狼ーーーーーー!!」
これはいつかの再現だろうか。
これは、過去の輪廻だろうか。
私はまた、同じ結末を選んでしまったのだろうか。
終焉を、最期を、独りになることを。
「消えないで、いなくならないで…私を、独りに、しないでッ…」
もう誰もいない、もう誰もいない…自分1人だけ。
もう誰も、私を必要としてくれない。
またあの頃に逆戻り。
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