私の勝ちね!!

 私の許嫁である朱雀の加護を受けて剣を振るう彼、陽介は今日もまた私に負けて地面に這いつくばっている。

 最近はあまり私とも勝負をしらがらないのは、何故だろうか。毎回毎回、この風神の加護を受ける私に負けるからだろうか…それはそれで、少しだけ“寂しい”と思ってしまう自分がいるのは陽介には絶対に内緒なのだから。


「陽介〜いつまで寝てるの?負けたんだから早く私に謝罪を込めてキス!」


 風のようにサッと移動して、まだ起き上がらない陽介に近付いてそう言えば、彼の顔はいつも悔しそうでかわいいと思う。

 陽介が私以外の他の人に負けるところなんて見たことないのに…だから、私だけが一番最初に見られる、私の特権。

 あなたのそんな表情が、私は好きでしょうがない。他にも私と闘って、あなたの綺麗でカッコいい顔に傷を作るのは、私だけがいい。

 なんて、そんなことを言えば私は陽介に嫌われてしまうだろうか…友達にはよく分からないと言われてしまっているのだから、きっと言ったらダメだと思う。


「くそっ、分かってるよ!」


 こんな私に、キスをする時の陽介の顔はいつも少し赤くて…すごく、大好き。

 だから私は、今日も、次のケンカもその次も…ずっと陽介に勝ち続けるから!

 そう思いながら私は目をつむって、陽介が“謝罪のキス”をしてくれるのを待つ。


「オレが悪かった、ルキ…」


 いつもの、触れるだけのキス…だと、そう思ってた。


 ーーーえ?な、なんで…!?これは、何!?

 

 こんなを、私は知らない。

 いつもより乱暴に頭を掴まれたと思った、次の瞬間にはもう一つの手でほっぺを掴まえられていた。陽介のくせに生意気って、謝罪の態度じゃないって文句を言おうと口を開いた…ただそれだけのはずなのに。


「っ…よう、すけ!?」


 私が抵抗すれば、何故だか私の頭を固定する手の力も、いつの間にか私を逃さないように抱き締めている腕の力も強くなっていく。

 これじゃ逃げられないし、抵抗して暴れるほどもっと息ができなくなる…から、息ができなくて苦しい。

 こんな息のできないキスをするのは初めてで、本当にこれはキスなの!?

 いつもの陽介じゃないみたいで、知らない男性ひとみたいで少し怖い。


「オレもいつまでもガキじゃねーからなぁ。子供みたいなキスは卒業し…」


「っ、風神かぜかみの鎌鼬!!」


 私の方が陽介より強いに決まってる!

 嫌じゃないのに何だか恥ずかしくて、私はそれを隠すように勢い余って技を繰り出していた。気付いた時には、まるで勝ち誇ったように笑っていた陽介に容赦なく攻撃していて風で巻き上げたその辺の石や砂で陽介は切り刻まれているけど、この攻撃は返り血を浴びない仕様になっている。


「ルキ、てめぇ…!」


 あ、ちょっと攻撃力が強めの技だったのは悪かったと思うけど…でも、悪いのは陽介だから!

 私は悪くないんだから!


「私が勝ったのに謝らない陽介が悪い!」


 生きてるようだから回復なんてしてあげなくていい。

 せっかく3日ぶりに仲直りをするための勝負をしたのにこれじゃあ意味がないし、陽介はまた私を怒らせたんだから、ケンカはこのまま継続するしかない。


「今年の夏祭りは陽介と一緒になんて絶対に行かないから!」


 私はそう怒鳴ると、いつまでも地面に這いつくばっている陽介を置いて風の様にその場から逃げた。

 どうせ陽介のスピードじゃ風神の加護を受ける私に追い付くなんて不可能だから…って私、陽介としたの!?

 思い出したら顔が熱くなってしかたない。


「陽介の、バカ…!」


 それを思い出してはルキは風の様なスピードで国の内外を走り回っていた。

 今回のケンカは今までよりも長引いていて、勝負の時間よりもルキが陽介から逃げ回る時間の方が遥かに長かった、らしい。

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