サンダイワ!

胆鼠海静

病・豆・境目

アキムのあの習慣はもはや病の類だろう。

最初のうちこそ嫌な顔をせずに要求を受けてきたが、あそこまでになるとさすがに気が滅入った。一体どういう動作をすれば、体にできる豆の数をあれだけ増やせるのか。そして増加のペースは日を追う毎に速まっていったのだ。仕事を替わってもらっていたのは大いに助かったのだが、もう少し別の見返りを要求してもよかったのではないだろうか。自分の手ではなく他人の手で潰してもらった方が痛みが増す、というのがアキムの信条だった。大いに助かるといったが、仮に助からないとしても、私は彼の要求を承けざるをえなかっただろう。彼の肉体の頑健さ、それが放つ威圧感は、後ろを向いていても分かるくらいで、それに彼の願いを断ったことによる不満感が加わるとなると、落ち着いた生活を送ることができないのは必至だ。豆を増やすためかどうか知らないが、私以外の人の仕事も替わってやっているようで、近所受けがよい分、なおさら、彼の気分を害する訳にはいかない。そういう次第で、私は夜な夜な寝転んだ彼の体に浮き出た豆を潰し、肉食獣の唸りにも似た彼の声に耳を傾けていた。

そんなアキムも今はいない。護送されたのが一週間前で、実際に執行されたのが二日前だと聞く。見上げるような巨漢であるにもかかわらず、笑顔の絶えない人物だったが、所を出た後、彼の罪状を聞いて、鳥肌が立った。それと同時に、同室していた頃のあの習慣についても不思議と得心が行った。

「痛みは自他の境目さ、兄弟。俺は今まで自分のしてきたことを、一度も後悔したことはない」

彼の罪状のリスト、そして所での日々は、自分と世界の境界を終生つかみあぐねていた彼が、社会や肉体という様々な拘束によって自分を試していった遍歴、そう今は思うわれるのだ。

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