第1197話「三枚の扉」
新生BBBBが白熱の模様を見せるなか、時を同じくして遊戯区画にも大きな変革が現れていた。遊戯区画の中でも特別なカジノのVIPエリアに、歴戦のギャンブラーたちが集結したのだ。
彼らの目的はただ一つ。告知された第二遊戯区画への入場だ。
遊戯区画で荒稼ぎできるほどの高い〈賭博〉スキルレベルを有したギャンブラーたちは牙を研ぎながら虎視眈々とその日を待っていた。サカオがどれほど確率を絞ろうと、彼らは細い運命の糸を手繰り寄せて勝利を掴む。第二遊戯区画はVIPでなければ立ち入りも許されない戦場だが、それは彼らにとってより効率的な狩場であることを意味していた。
『クククッ! 勇猛なる愚者、蒙昧なる賢者たちよ、よくぞ集まった』
「なんだ?」
「誰だ?」
「ぐっ、何故か精神的な古傷が!」
広間に集められた賭博師達に、突然威厳に満ちた声が降りかかる。周囲を見渡しても声の主は見つからないが、調査開拓員の一部が悶える。
その時、室内の照明が落ち暗闇が満ちる。人々がざわつくなか、数秒後には再び光が戻り、彼らは異変に気がついた。
「お、お前は!」
『クハハハッ! 我が名は〈
ステージの上に現れた黒髪の少女。黒衣を纏い、腕に包帯を巻き、眼帯で片目を隠している。ひとつ言葉を放つごとに大きく体を動かし、ビシバシとポーズを決める。
彼女の背後にはカジノで不埒な客たちを強制的に排除する黒服NPCたちがずらりと並んでいた。
「どうしてブラックダークちゃんがこんなところに?」
「第二エリアはどうなったんだよ!」
御託はいいから早く新エリアへ案内しろと拳が突き上がる。ブラックダークはそんなギャンブラーたちにむっと眉間に皺を寄せ、やれやれと首を振る。
『これだから
かっと目を見開くブラックダーク。いよいよ第二エリアが開放される気配に、ギャンブラー達のテンションも上がる。
ブラックダークがおもむろに手を挙げる。
『では、まずは
「なんて?」
前触れのない唐突な展開に、さしもの勝負師たちも困惑を隠せないなか、ブラックダークは動き続ける。
『天地開闢の時より定められし第一の神より始めたる、抗い難き変転の闘志。繰り出したるは己が信ずる唯一にして絶対の一手。その全てに我らが命運の一切を賭す』
「なんて?」
最初は拳である。
そして、手の形は変わる。
『いでよ! 全て破断せし絶対破壊の断罪者――チョキ!』
「なんて!?」
訳も分からぬまま、ジャンケンが始まった。ギャンブラーたちはそれぞれに手を繰り出す。グー、チョキ、パーの3種類が突き上げられる。ブラックダークが出したのはチョキだった。
『運命の関門に許されし者達よ、大いなる暗黒の神殿へと誘おう』
ふっとブラックダークが冷笑する。次の瞬間、グーを出した調査開拓員達の足元がパカリと開き、彼らは一斉に真下へと落ちていった。
「うわーーーーっ!?」
何もかもが予想できない展開のまま、取り残された負けとあいこの調査開拓員達は、黒服によってカジノの外へと放り出される。第二遊戯区画へと入れないことに憤る声も多かったが、ブラックダークは有無を言わせなかった。
運にすら勝てぬ者に第二遊戯区画を訪れる資格はない。彼女は言外にそう伝えるのだ。
「うわーーーーーーっ!? うべらっ!?」
一方、見事ブラックダークとのじゃんけんに勝利したギャンブラーたちは、床から繋がる巨大な管を滑り落ちていく。そして、緩やかに弧を描くラインから飛び出した彼らが辿り着いたのは、おどろおどろしい石像で彩られた巨大なアスレチックだった。
『第二関門は深き虚淵へと続く試練の道だ』
一箇所に集められた挑戦者達に、どこからかブラックダークの声が響く。それと同時に、巨大なアスレチックが動き出す。ぐるぐると回転する円筒状の橋や、その場にとどまると落ちていく床。そして背後から迫る無数の棘がついた壁。
「うわああっ!?」
「これはギャンブルじゃなくないか!?」
阿鼻叫喚の様相を呈しながらも、ギャンブラーたちは動き出す。彼らも元々は調査開拓員として多くの激戦を潜り抜けてきた猛者達だ。賭博漬けで多少鈍ったとはいえ、すぐに勘を取り戻す。
振り子のように揺れる足場を跳び、シーソーのように上下する板でお互いに罵詈雑言を浴びせながら進む。彼らの視界の隅には、0/30という文字列が表示されている。アスレチックに挑戦しているのはおよそ50人程度。この状況から、それが何を表すのかは直感的に理解した。
「落ちろ!」
「ぐわー!」
「落ちたな。なっ、ぐわーーー!?」
「てめぇ、卑怯だぞ!」
「なんとでも言え!」
ある者は丸太橋で前を渡る者を蹴落とした。かと思えば落ちながらも足首を掴んだために道連れにされる。またある者は隣の調査開拓員を羽交締めにして足止めをする。お互いがお互いを蹴落とす泥沼の争いが展開されていた。
やがてアスレチックの最奥に、ゴールが見える。そこに調査開拓員がひとり辿り着くたびに、0/30の表記が一つずつカウントアップしていく。
「うおおおおっ!」
「俺が第二区画に行くんだ!」
30人の枠に駆け込もうと邁進する調査開拓員達。次々と飛び込み、やがて30/30となる。31人目の調査開拓員の眼前でゴール前に障壁が展開され、彼らの進行は阻まれた。
「そんなー」
次々と奈落へ落ちていく調査開拓員達。その様子を見下ろして、無事にゴールできた者達は胸を撫で下ろす。だが、彼らが一息つく間もなく、ゴールそのものが大きく揺れて動き出す。
『最後の関門は叡智を問う。貴様らの博識が確かなものであれば、道は続くだろう』
「なにぃ!?」
ゴールが巨大なトロッコであると分かったのは、直後のことである。それはガタガタと揺れながら長いトンネルの中を猛烈な勢いで突き進む。やがて、彼らの視界に文章が表示された。
『Q1.
「知るかボケーーーー!」
総勢30人の調査開拓員たちの意見が揃う。
しかし、彼らの前には解答の選択肢として二つのものが用意されていた。
『A.
『B.
「分かるかぁ!』
再び30人の意見が揃う。
しかしトロッコの進路が前方で二つに分岐している。解答によって正しい道を選ばなければならないことは、彼らも理解した。
「悪魔文字だろ! ブラックダークちゃんはそっちの方が好きそうだ」
「いや、天使文字の方がそれっぽい」
「神聖かつ邪悪ってどういうことだよ!?」
「邪悪かつ神聖な」
「そこどうでもよくない!?」
30人が意見を出し合う間にも刻一刻と分岐の時間は近づいてくる。
「ええい、こっちだ!」
彼らはほとんど自暴自棄になりながら、選択肢を一つに定める。トロッコが左へ大きく傾き、悲鳴が上がる。そして全員が祈りながら推し黙るなか――。
――ピンポーン♪
気の抜けるようなサウンドエフェクトが鳴り響き、彼らは一斉に崩れ落ちた。
『Q2.闇の帷が包みし漆黒の水底にて艶美なる揺蕩う雷神竜が深き眠りについている場所は?』
「は?」
『A.
『B.
「は?」
二問目にして問題文から選択肢まで全てが不明なものがやってきた。もはや憤りもなく唖然とする彼らに時間が迫る。
「運ゲーじゃん……」
誰かがぽつりと呟いた。その言葉に、トロッコに搭乗した全員が首肯するのだった。
━━━━━
Tips
◇大いなる三柱の神の意志に運命を委ねし手技の激闘
[情報保全検閲システムISCSにより、情報が修正されました]
じゃんけん。
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