第960話「飛び入り参加者」
突き抜けるような晴天の下、赤煉瓦の瀟酒な街並みが広がるシード02-スサノオ、またの名を〈ウェイド〉にて。白い制御塔の見下ろす大広場に築かれた特設ステージを、多くの調査開拓員たちが取り囲んでいた。
「さあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! いよいよ本日12時より、激突!料理王決定戦、激デカ料理編を開催いたしますよ!」
ステージの中央に立つのはマイクを持った料理人。白い厨房着に身を包み、1メートルはありそうな長いコック帽を被った青年だ。
彼の名前はデラウマックス☆トシゾー、歴史の長い料理系バンド〈三つ星シェフ連盟〉に所属する実力者だ。今から始まる
料理王決定戦は以前から〈三つ星シェフ連盟〉が何度も開催している料理人プレイヤーの祭典で、その時々に出されたお題に沿って料理人たちが腕を振るい、豪華なゲスト審査員たちがその料理に星を付けていく、というイベントだ。
「さあ、今回のゲストは過去イチで豪華な面々が揃いました! 聞いて驚け、見て驚け!」
デラウマックス☆トシゾーのコールと共に、ステージ上を仕切っていたカーテンが開かれる。
現れたのは今回のために集められた審査員の面々である。
「まずはこの方! 初代料理王にして我が〈三つ星シェフ連盟〉の総料理長! 鬼瓦三太夫狸太郎斎錦刑部実弥!」
最初に紹介されたのは〈三つ星シェフ連盟〉のリーダー、鬼瓦三太夫狸太郎斎錦刑部実弥。紋付袴に長い白髭、筋骨隆々のタイプ-ゴーレムと、厳しい要素てんこ盛りの料理人である。
「続いてはデカ盛りと言えばこの方! 数々の大盛りメニューを薙ぎ倒し〈新天地〉で堂々のミスリル級を今日まで維持し続けている食の大魔神、〈白鹿庵〉のレティ!」
「いえーい! よろしくお願いしますっ!」
続いて呼ばれたのは今回のゲスト枠。大食い兎ことレティである。彼女は椅子から立ち上がると、歓声を沸かせる観客たちに向かって大きく手を振った。
「そして! レティさんがいるなら当然この人も! 同じく〈白鹿庵〉からやって来た異次元の存在、おっさん!」
「名前も呼んでくれないのかよ……」
レティの隣に座っていた俺も立ち上がり、軽く手を振る。別に大食いというわけではないのだが、レティが誘ってきたから応じてしまった。
「さらにさらに! 本日はスペシャル特別ゲストがまだまだいらっしゃいます! 続いてのゲストはこの方! なななんと、料理王決定戦に初のNPCが参戦だ! 全てが謎に包まれたミステリーガール、イザナギ!」
『よろしく』
名前を呼ばれたイザナミが、事前の打ち合わせ通り立ち上がってぺこりとお辞儀をする。それだけで、観衆が爆裂に盛り上がった。
イザナギは食べることが好きらしい。ならばこういうイベントに参加してみるのも、彼女にとって良い体験になるだろうと考えて、レティを通じて〈三つ星シェフ連盟〉に参加を打診したのだ。そうしたら、向こうからも話題になるからと二つ返事で快諾を頂けた。
「そしてぇ! みなさまお気づきでしょうか! 今回は鬼瓦三太夫狸太郎斎錦刑部実弥が審査委員長を努めておりません。失格? 降格? いいえ、そうではありません。何故なら、今日は彼よりもさらに相応しい方がいらっしゃいました! ——特別審査委員長、シード02-スサノオ管理者、ウェイドォォォオオオッ!」
「えええっ!?」
高らかに響く声と共に、舞台袖から銀髪の少女が現れる。ウェイドが参加するという話は聞いていない。驚く俺に、彼女はちらりと青い目を向けた。その瞳が不敵に笑っているように見える。
『当然の参加にも関わらず特別審査委員長という大役を任せていただき、ありがとうございます』
「い、いえいえ。こちらこそ、ありがとうございます!」
スタッフからマイクを受け取ったウェイドは、トシゾーに向かって丁重な挨拶を述べる。その後で観客の方へ振り返り、優雅に挨拶を始めた。
『本日で25回を迎えた料理王決定戦。本来ならばこうして割り込むような真似は避けるべきと分かってはおりますが、その盛況ぶりを耳にして居ても立っても居られず、やって来てしまいました。甘い物ならたくさん食べられると思います。ぜひ、よろしくお願いいたします』
ウェイドの言葉に、観客たちが大きな拍手で応える。突然の大物登場に料理を作る挑戦者たちは表情を固くしているが、ご愛嬌といったところだろう。
鳴り止まない喝采を背に、ウェイドはこちらへやってくる。
「どうやって参加をねじ込んだんだ……」
『頼んだら席を用意してくれました。ありがたいことですね』
近くに来たウェイドは、済ました顔で言う。そんなにスイーツが食べたかったのか……?
彼女は新たに用意された審査委員長の席に座り、ニコニコと微笑んでいる。
鬼瓦三太夫狸太郎斎錦刑部実弥、レティ、俺、イザナギ、そしてウェイド。五人の審査委員が揃い、舞台は整った。次に紹介されるのは、俺たちの審査を受ける料理人たち、挑戦者である。
「それでは、エントリーナンバー1番から。〈三つ星シェフ連盟〉所属デラウマックス☆トシゾー! あ、私です!」
トシゾーは毎回出場し、毎回エントリーナンバー1番だから、これは鉄板のギャグになっているらしい。観衆の笑いを掴みながら、トシゾー氏は更に挑戦者を読み上げていく。
料理王決定戦は回を追うごとに挑戦者も増えてきているが、それでも予選などは行わずぶっつけ本番の一回勝負を基本としている。次々読み上げられる参加者は所属もスキルレベルも問われず、完全に平等だ。
彼らは平等に料理を作り、審査員がそれを星三つのうちで審査する。未だに最高点である星15個を取れた者は居ないが、挑戦者の中には12個以上を獲得したことのある猛者もちらほらといる。
「これ、全員がデカ盛り料理作るんだよな? 食べ切れるのか?」
「え? 食べきっちゃ駄目なんですか?」
「いや、なんでもない……」
続々と読み上げられる挑戦者の数に戦々恐々としていたら、レティはきょとんと首を傾げていた。彼女ならまあ、なんとかなるかという安心感が凄まじい。
「そして最後、エントリーナンバー40番! 〈白鹿庵〉所属メイドロイド、カミル!」
「うおおおおおいっ!?」
壇上に上がってきた赤髪のメイド少女を見て思わず大きな声を上げてしまう。彼女はうんざりとした表情でこちらに振り返ると、「なによ」とぶっきらぼうに言い放った。
「なんでカミルがここにいるんだ!?」
『エントリーしたからに決まってるでしょ』
「だとしたら俺にも一言言ってくれよ……。一応雇い主だぞ」
『参加を決めたのが5分前だったんだから、仕方ないでしょ』
「土壇場すぎるだろ」
どうやら、〈ウェイド〉にあるガレージの様子を見に来たカミルは偶然俺たちが審査員として出る料理王決定戦について知ったらしい。どんなものかと来てみれば、まだエントリーができると言うことがわかり、それならやってみようと飛び込んできたらしい。
「カミル、そんな性格だったか?」
『うっさいわね。アンタは黙ってアタシの料理を食べてればいいのよ』
妙にツンケンとしたカミルはそう言って去っていく。NPCの参加者というのも史上初ということで、客席は大盛り上がりだ。本当にこんな調子で大丈夫なのかと不安になるが、そんな俺を置いてイベントは幕を開ける。
「それでは、第25回激突!料理王決定戦、激デカ料理編の開催です!」
デラウマックス☆トシゾーの宣言が上がり、激しい拍手が町中に広がった。^
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Tips
◇八つ星コック帽
優れた料理の腕を持つ料理人にのみ着用が許された特別なコック帽。その長さは気高き誇りを表し、その白さは心の清さを示す。
〈料理〉スキルレベル80以上で着用可能。
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