第922話「管理者の尋問」※
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FPO日誌
このブログはVRMMO、FrontierPlanetをプレイしている一般のおじさんが惑星イザナミでの出来事をぼんやりと記していく日誌です。
あまり有益な情報などはありません。
攻略情報は公式wikiかBBSのほうがいいでしょう。
上級者向けのものは「大鷲の騎士団(別窓)」や「ねこのあしあと(別窓)」へ。
あくまでも、平凡な日常を淡々と記したものであることにご留意ください。
メンバーからの許可を得たので、今後はバンド〈白鹿庵〉の活動日誌としても運営していきます。
その一環で、本人らからの要望を受けて記事中の画像にあったメンバーのプライバシー保護編集を消しました。
ゲーム内での問い合わせは〈白鹿庵〉リーダーのレッジまでお願いします。
#444「取り調べを受けました」
記録保管庫の設備拡充や前線の攻略などが活発に行われている中、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
さて、本日は調査開拓団全体を大きく揺るがした事件についてようやく身の回りも少し落ち着いてきてご説明する余裕も出てきたので、話していこうと思います。
今回の事件の発端は、〈白鹿庵〉のメンバーが〈破壊〉スキルに関する情報を手に入れるため〈第一オモイカネ記録保管庫〉へ行こうと誘ってくれたことです。私たちは記録保管庫の最下層から未踏破区域と呼ばれるフィールドへと向かい、そこで古代ドワーフの住居跡を見つけ、探索していました。
その過程で通称“廃都”、正式な名称を〈窟獣の廃都〉という新たなフィールドを発見しました。しかし、廃都へ踏み入ると共に来た道を引き返すことはできなくなり、更にそこで
イビルグレムリンが占拠していたのは、廃都の中心に立つ塔。こちらが掲示板等でも話題となっている第壱術式的隔離封印杭クナドです。クナドの管理術式思念体との意思疎通が可能であり、その要請もありイビルグレムリンを撃退しました。
そして、今度こそ廃都から地上へ戻るため、クナドの知識も借りて古い坑道を進んでいたのですが、〈アマツマラ地下坑道〉に繋がる地点で謎の建造物に阻まれてしまいました。
以降は、既に公開されている報告書に記載されているとおりです。坑道内で、私たちは管理者ウェイドから託されたホイッスルを使用しました。これが第一のトラブルの原因です。そして、その後に正体不明の存在が突如として現れ、黒色のエネルギー体のような物質を放ち、非破壊オブジェクトとされていた石扉を破壊しました。そうして、我々は現場に急行していた管理者ホムスビ指揮下の即応部隊によって捕縛されました。
しかし、同時に発生していたネットワーク回線の不調と、開拓司令船アマテラスとの通信断絶に関しましては、我々は関連していません。少なくとも、故意的にネットワークを破壊したという事実はございません。
現在、管理者ウェイドには尋問が行われています。同時に並行して新たな管理者かつ第零期先行調査開拓団員としてクナドの調査も行われているようです。これらの結果によっては、〈アマツマラ地下坑道〉と〈第一オモイカネ記録保管庫〉双方から〈窟獣の廃都〉に繋がる通路の整備も行われると思います。
さらに、第壱術式的隔離封印杭クナドの発見により、他の封印杭の存在や、その封印対象の存在が示唆されています。こちらもまた、調査は調査開拓員の皆様に託されることでしょう。
もうひとつ。すでにwikiには専用のページが作られ、wiki編集者のレングス氏とひまわり氏によって編集も行われていますが、現在コボルドの言語を解析し翻訳装置を作る試みが進行しています。そういった分野に関して知識や技術をお持ちの方は、ぜひご協力のほどお願いいたします。
最後に。〈紅楓楼〉の皆さん並びに作業中だった鉱夫の方々、ご迷惑をおかけしました。
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地上前衛拠点シード02-スサノオ中枢演算装置クサナギ仮想人格。通称、管理者ウェイド。都市機能の全権を握り、統括的な管理を行う都市運営の要にして、管理者スサノオに次いで経験豊富な管理者であり、仮想人格と機体を獲得し“管理者”として初めて調査開拓用機械人形たちとの交流を図った改革者。
領域拡張プロトコルにも多大な影響を与え、タカマガハラからも高い評価を受けていた彼女は、現在“三体”による尋問を受けていた。
『緊急救難信号発信ホイッスルを調査開拓員エイミーに貸与したのは、完全なる規則違反であることを自覚しておったのか?』
『はい。しかし、当時の状況を鑑みて、また調査開拓員エイミーであれば適切に使用すると判断しました』
場所は〈ウェイド〉の制御塔内部、中枢演算装置本体の格納されている第八階。わざわざ管理者機体に乗り込んでやってきたT-1、T-2、T-3の3人が、同じく管理者機体を駆動させて正座しているウェイドを囲んでいる。
T-1の問いに対し、ウェイドは包み隠さず正直に答える。もとより管理者は上位権限者である指揮官に虚偽の報告をすることは許されていないが、それでも3人の少女の表情は険しい。
『貴女は、緊急救難信号の意味を知らないわけではないでしょう』
T-3の追及に、ウェイドは唇を噛んで頷く。
あのホイッスルから発せられる信号は、調査開拓団においても欠くことのできない管理者の危機的な状況を知らせるためのものだ。替えの効く機械人形の調査開拓員であれば、そんなことをせずとも自死的に機能を停止させてバックアップセンターで新たな機体と共に復活すればいい。
『調査開拓員たちが活動していた〈窟獣の廃都〉は通信監視衛星群ツクヨミの通常通信圏外でした。彼らが行動不能になった場合、代替機体への移送よりも外部からの救助を行った方が、調査開拓団全体としての利益は大きいと判断しました』
『しかしのぅ……』
淀みなく当時の思考を説明するウェイドに、T-1はどう処遇をつけるべきかと考えあぐねる。彼女の行動は重大な違反行為であることに間違いはない。しかし、彼女のおかげで機械人形ではない存在——コボルド族やクナドとの接点が生まれたのもまた事実だ。
ホイッスルがなく、レッジたちが自主的な機能停止を選んだ場合、今回のような成果は挙がっていなかった。
『管理者ウェイドの判断および行動は、クサナギの演算規範から大きく逸脱しています。異常性の修復のため、ロールバック処置の実行も提案します』
しかし、T-2は規則に則り冷酷な判断を下す。
ロールバック処置とは、彼女が異常ではなかった時点まで状態を戻すということ。実質的には、これまで培ってきた仮想人格の消去となる。中枢演算装置クサナギとして存在は保たれるが、管理者ウェイドは消滅する。
指揮官の口から告げられた言葉の意味を知り、ウェイドはさっと血色を失う。慌ててT-1がT-2を押しとどめ、「可能性の一つじゃからな!」とウェイドに伝える。
『T-2の存在意義は知っておるじゃろ。こやつはただ考えうる処遇を列挙しておるだけにすぎぬ』
『しかし……。いえ、私もその覚悟は——』
『管理者もまた、調査開拓員です。調査開拓員には愛を注がねばなりません。私は、ロールバック処置には反対です』
硬い表情で俯く管理者を見下ろして、T-3が寛大な処遇を主張する。その理由として挙げたのは、管理者ウェイドとしての功績だった。
『彼女が調査開拓員との交流を積極的に深めたことにより、領域拡張プロトコルは大幅に進行したのも事実でしょう。確かに、仮装人格は時に合理的判断を阻害する要因ともなりえますが、逆にそこから意図せぬ結果が弾き出されることも多くあります』
『ええい、分かっておるわ! じゃから妾らも仮装人格があるのじゃろ』
正式な処遇は“三体”全員の多数決によって決まるとはいえ、T-1がその分水嶺となる状況だった。T-3の嘆願に近い主張を受けて、彼女は苦い顔をする。彼女だって、ウェイドを失うという事態は好ましくない。
『管理者ウェイドの処遇を定める前に、確認事項があります』
『なんじゃ?』
T-2が挙手し、ウェイドの顔を覗き込む。彼女は当時のインシデントレポートを確認しながら、不明瞭だった点を指摘する。
『ネットワークが途絶する直前、管理者ウェイドよりメッセージが送付されています。現在確認したところ、メッセージは破損していました』
『メッセージ、ですか?』
ウェイドは怪訝な顔をする。T-2から送信されたシステムログを確認し、さらに首を傾げる。青い瞳に困惑の色を浮かべ、眉をきゅっと寄せている。
『その時刻に、“三体”に向けてメッセージを送った記憶、および記録はありません』
『なぬぅ?』
ウェイドの主張にT-1は目を丸くする。
“三体”側のシステムログには、しっかりとメッセージの着信履歴が残っている。しかし、ウェイドの言う通りシード02-スサノオのシステムログには、メッセージの送信履歴はなかった。ログの修正という可能性も即座に検討されたが、監視システムはそれを否定する。
『その後に発生した大規模な通信障害も、いまだ原因は特定されていません』
『むむむ……』
トラブルにトラブルが重なったため、“三体”としても対応が遅れてしまっている。T-2の告げた事実に、T-1は頭を悩ませる。そうしたのち、彼女は突如として大きな声で吠えた。
『ぬあああん! 次から次へと不可解な事が多すぎるのじゃ! 管理者ウェイドの処遇に関しては追加の検討ののち、追って通達する! それまでは謹慎なのじゃ! 妾は少し出かけるのじゃ!』
『T-1!?』
早口で捲し立てた指揮官は、くるりと背を向けて部屋を出る。そのまま警備NPCたちを押し退けて塔から飛び出してしまった。
残されたウェイドと指揮官二人は、困惑した顔で違いに見合い、途方に暮れるのだった。
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Tips
◇高耐久警備NPC“不動”
管理者クラスの高位調査開拓員の警護を務める警備NPC。機動力は低く敵制圧能力も皆無だが、重量のある特殊装甲を展開することで、様々な攻撃を退ける。
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