第258話 ただの黒

「……さて、どうしたのかな」


 こういう状況の対応方法も学んでおくべきだった。

 俺はどうも人関わるのが苦手だ……。



 1時間程前、天界から帰ってくるとウチでマサナと知らない人が戦っていた。

 その人は名前を『クロ』という死神だそうで、ウチで戦っていたのは、


『たまたま通りかかったら、明らかに邪悪な者がお前の家でうろついてな。成り行きで戦闘になってしまった』


 とのこと。

 その後マサナは逃げてしまい、また成り行きでクロさんは今ウチに居る。

 まあ、一応いくつか気になる点があったので、質問する為に居てもらったのもあるのだが。



 一つ目は、初対面のはずの俺達のことを知っていたこと。

 帰ってきてすぐの時、彼女は俺に『ヒカル! 逃げろ!!!』と言ってきた。

 何故クロさんは俺の名前を知っていたのだろうか。

 そして多分だがあの感じだと、俺以外の人のことも知っているだろう。


 次に二つ目はシナトスに異様なほどそっくりなこと。

 双子なんじゃないかと思うほどに、その顔は瓜二つだった。

 オマケに声や身に纏う服装までそっくりである。

 違う点といえば、喋り方と服の色と目の色くらいだ。

 それくらい二人はそっくりだった。


 まあそんな訳で彼女を警戒する訳ではないのだが……、気になりはするのでウチに来てもらった次第である。


「えっと……それじゃあ、いくつか質問させてもらっても良いですか?」


「分かった、一体何が聞きたい?」


 まるで俺達とは昔から知り合っていたかのように、ぎこちなく返すクロさん。

 ……なんでだろうか、変なはずなのに不思議と違和感はなかった。


「えっと、クロさんはどうして俺達のことを知っているんですか? もしどこかで会っていたなら申し訳ないんですけど、俺達初対面ですよね?」


「……ああ、そうだ私達はきょう初めて会ったな。それなのに私がお前たちを知っている理由は簡単なことだ」


「え?」


「ヒカル、お前は自分のことをよく分かっていないようだな。度重なる2度の戦いの功績は、天界でもかなり知れ渡っていることだぞ? 暴走した天使・美紀正路と5体のオンネンとの戦い、そして追放された堕天使グレイル・アルバートとの戦い……。そんな偉業を成した存在だ、知っていてもおかしくはないだろう」


 ……そうなの?

 え、俺いつの間にか天界ではかなりの有名人になっているんです?


「彼女の言う通りだよ。城内光、君は今じゃ天界では知らぬ者はいないレベルの有名人だぞ?」


「マジで!?」


「マジだ」


 知らなかった!

 なんかリームは凄い当たり前みたいに言うけど! 俺は一ミリも知らなかった!!


「どうしよう、今度行った時とかに声掛けられたりしたら……」


「……なんで若干怯えてるんですか、ご主人?」


「だってさあ!」


 と、俺が村正ちゃんとわーわー言っている間にシナトスが話を進める。

 シナトスとしてはそれ以上に気になることがあるのだ。


「それじゃあもう一つ聞きたいんだけど……」


「言わなくても分かっているさ、『何故私とお前が似ているのか』を聞きたいんだろう?」


「……うん」


 コクリと頷くシナトス。

 余程気になるのか結構食い気味だ。

 まあ自分とそっくりな人物が突然目の前に現れたら、あんな反応をしてもおかしくはないだろう。


「何故似ているのか、それは……」


「……」


「……私にも分からん」


「はあ!?」


 分かんないの!?

 なんかありそうな雰囲気だったのに!?


「私もお前を見てびっくりしている。ドッペルゲンガーか何かかと思ったくらいだ」


「こっちのセリ……フって言いたいけど、それは貴女も同じ気持ちなのよね……」


「生き別れの双子の姉妹とかはありえないの?」


「ありえないな。お嬢が生まれた頃にはエルメはもう物心がついていたから、そんな存在がいたのなら知っているはずだ」


「……でも、他人の空似にしては……ちょっとそっくり過ぎない?」


 いや、まあそういうこともあるのかもしれないけど……。


「確かに少し違和感もあるが……まあ本人がそう言うのだし、そうなのだろう。嘘をついているとも思えないしな」


 それは俺も同意だった。

 何故だろうか、彼女は俺達の敵ではない気がするのだ。

 俺達を騙すようなこともしないと、何故か当然のことのように感じる。

 彼女に対して『敵意』や『警戒心』と言った感情が、全く湧いてこないのだ。

 別に舐めている訳ではないのだが。


「他人の空似……か。まあ、そういうこともあるのかもしれないわね」


 シナトスも一応納得したようだ。

 まだ若干驚きが消え切っていないが。


「さて、それじゃあついでにもう一つ聞いていいかい? 君はマサナ……というか帝たちと敵対しているのかい?」


「一応そうだな。理由は確かめるまでもない悪党だったから、という単純なものだが」


「そうか。……なら、もし良ければ我々と共闘しないかい? 我々もいろいろあって奴らと戦っているんだ。特にお互い損はないと思うのだが」


 特に迷うこともなくリームはそう切り出す。

 クロさんは少し悩んでいるようだったが……。


「そうだな。私も独りで戦うのは辛いと思っていたところだ。……よろしく頼む」


「――! はい! よろしくお願いします!」


「ああ、よろしく。そうだ、別に敬語は使わなくもいいぞ」


「……いいの?」


「うん。そっちの方が……気楽でいい」


 ニコッと小さく笑うクロさん……じゃなくてクロ。

 どこかで見たことがあるような気がするのは、シナトスに似ているからか。

 

 こうして、シナトスにそっくりな黒い死神。

 優しい雰囲気だけど、どこか寂しそうな『クロ』が俺達の仲間になった。



 【後書き雑談コーナー】

   光「クロはご飯たくさん食べたりする?」

  クロ「まあ、それなりには」

   光「そっか……」

  クロ「お前が心配している程は食べないさ」

   光「あ、そうです……か?」



 次回 259話「予兆の音」

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