第246話 再びの戦い、三度の激昂
【前回のあらすじ】
宇水を助けるため、たった一人でハサナとの戦いに挑む薫。
果たして、薫の見つけ出した必勝法とは……?
「――」
素早く。
抜刀と共に素早くハサナに剣を振りかざす。
聖炎を纏った剣は吸い寄せられるようにハサナに迫り、その身体を斬り裂いた。
「なッ――」
斬られた腕から赤い血が零れ落ちる。
ハサナは自分が攻撃を受けたことに驚いたが、それは元々当然のことなのだ。
あの日、敗北を喫したあの日から積んできた特訓の成果。
薫は感受嗅を十二分に発揮し、敵の動きを全て確実に捉えることが出来るのだ。
故に薫の攻撃は全てが必ず命中する。
ガサナの権能による強引な『回避不可』ではない、鍛錬された実力による作り上げた『回避不可』なのだ。
「へえ……、偉そうなこと言うだけはあるね。強くなったんだ」
「この程度でお褒め頂けるとは光栄だな。……言っておくがこんなの序の口も序の口、てめえは絶対にここで倒してやるから覚悟しておけ!」
「面白いね! 楽しみにしてるよ!!!」
薫を嘲笑いながら、その場で手を振るハサナ。
ただそれだけの行動で凄まじい突風が薫を襲う。
無理矢理吹き飛ばされた風は真空の刃になり、薫の全身を切り裂きまくった。
「ぐっ……!!!」
ガサナのように氷が出てきたりはしない。
ただ、ただ純粋な普通の素振りなのだ。
それだけでこの威力、思い返せばハサナは初戦の時も尋常ならざる腕力を見せていた。
だが――
「紅蓮・渚八連!!!」
そんなことで薫の勢いは止まらない、止まるはずがない。
無駄なく放たれた炎の波は8つ。
風に煽られ荒れ狂う海のように次から次へとハサナに圧し掛かる。
「うわっ!? 何これ!?」
驚いた素振りを見せる割には冷静に対処するハサナ。
と言っても、その方法は思い切りぶん投げた椅子や机で炎の波に穴を作り避けているのだが。
「さてさて! 波の数や威力も強くはなったけど、これくらいじゃ――!?」
投げつけた机が空中で炎上。
机を焼き払ったのは薫の『紅蓮・大文字』だ。
前回ハサナが見た大文字よりも3倍近く大きくなった炎が、容赦なくその身を呑み込んでいく。
「紅蓮・天下!!!」
それでも薫の勢いは留まることを知らず。
大文字に呑まれ動けないハサナに天下を直撃させた。
ハサナはそのまま巨大な炎に押しつぶされる。
「どうだ!? ……チッ! まだピンピンしてやがる!!!」
(想定内とはいえ、腹立つもんだな。まったく!)
スッと何事もなかったかのように立ち上がり、埃を掃うハサナ。
チラッと光の方を向き、いつもと同じ様子で話し始めた。
「いやー、びっくりびっくりだよ。君、本当に強くなったんだねぇ。『渚』は数も威力も増大、『大文字』は5メートル近くまで大きくなってるし、『天下』に至っては本気で気絶しかけるくらいの威力になっているんだもの」
「の割は元気そうじゃねえか」
「ああ、これはもうしょうがないね。私の生まれ持った性格だから。どんなに痛く辛くても私の口調は変わらないし、態度も特に変化しないんだよ」
「……」
「ああ、あと……どんなにムカついても、ね」
「変わらない」と言っておきながら、やけに冷たい雰囲気の言葉を放つハサナ。
次の瞬間、薫の目の前には弾丸の如く投げつけられた机が飛んできていた。
「――!」
咄嗟に剣で弾き返すが、ギリギリで対応したので勢いを殺しきることは出来ず、大きく後進。
そこに全く同じ勢いの机が信じられないほどのスピードで連投されていく。
「ほら、ほら! ほらほらほらほらほらほら!!!!!!」
「ぐおおおおおあああああぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!!」
素早さを極めた連投はもはや一つの帯のようにまでなり、ひたすら薫に向けて投げつけられ続ける。
薫はもう一つ一つ対応することは出来ず、剣を盾にして凌ぎ続けている状態だ。
しかし、聖炎を纏った剣はしっかりと薫を守り続ける。
(ああ、うっとおしいな! 全然倒せないじゃん!)
結果としてハサナが周りの机や椅子を投げ終わった時には、まだ薫はしっかりとその場に立っていた。
「はあ……はあ……、ったくムチャクチャしやがって……」
「疲れた感じに振る舞ってるけど、まだ随分元気そうじゃん。案外しぶといんだね」
「当たり前だ。あの程度で死ぬなら、俺はもうとっくのとうにくたばってるよ」
「そう……、それは悲しいねえ。中途半端にしぶといからいつまで経っても死ねないないんだねえ。……あまりにも可哀そうだから君は私がここで殺してあげるよ」
冷ややかに、そして嘲笑うようにハサナはそう言った。
「君の魂を私が奪って、そして吸収してあげる。そうすれば君は確実に死ねるよ。輪廻のサイクルからも外れてもう永遠に蘇ることもなくなる」
「……!」
「さあ、永遠の終わりを君に与えよう!!!」
「くっ――!!!」
迫るハサナの一撃をなんとか回避する薫。
しかし、いくら感受嗅でハサナの動きを完璧に認識しているとはいえ、攻撃とは違っていつまでも回避が続けられるわけでもない。
「あははははははは! ほらほら! ちゃんと逃げないと! 捕まったら終わりだよ!? もう絶対に生き返れないなんだからねえ!!!」
「くそ!!!」
「まあ、逃がさないんだけどさ!!!」
投げつけられる破片。
それを剣で弾いた直後、薫の視界の外からさらに投げられた破片が剣を強制的に弾き飛ばす。
「しまった!!!」
「さあ! これで終わりだよ!!!」
「―――――――――――!!!!!!!!!」
回避する手段はなく、逃げることも出来ない。
どう足掻いても逃げ道はない。
そして、ハサナの手は、薫の、胸に――
次回 247話「君を愛している」
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