魂のレッドライン

第16話 陽炎の鎧

「シナトス？」

　確かに、確かにシナトスは斬りつけたはずなのに。

　オンネンの体は斬れるどころか、傷一つついていなかった。

「ごめんなさい。なんか、視界が歪んで……。」

「目が……？」

　これもアイツの能力なんだろうか。

　しかし、深く考える暇も与えてはくれない。

【燃エルガ如ク！　炎ガ如ク！！】

　今度は槍の回転はなく、シンプルに突き技を仕掛けてくる。

「甘い！　お前の攻撃は、もう見切った！！」

　ここまでの戦いで、コイツの戦い方はもう理解できた。

　まさに俺のことをハチの巣にしようと突き技を連発してくるが、どう来るか分かっていれば避けるのは簡単なことだ。

「ヒカル！　避けて！！」

　シナトスの声に従い、直線上から外れる。

「くらえ、土龍神弓！！」

　シナトスは逆手に持ったリームを床に引っ掛け上に切り上げる。

　この間の防壁術に似ているが、今度は壁ではなく地面を蛇行する攻撃を発生させ――

【グヌウウウウウウウウウウ！！！！！？？？？？】

　オンネンの目の前で爆発。

　爆風に晒され、オンネンの体制が崩れる。

「今度こそ！！」

　その隙にシナトスは今度こそオンネンを斬りつけた！　が、

　パキン！！

　俺の竹刀の時と同じように、砕けたのはやはりリームの方だった。

「リーム！！」

「ぐっ……。だ、大丈夫だ。問題ない、これぐらいならすぐに回復する」

「よかった……」

　だが、状況はなにも好転しない。

　考えろ、よく考えるんだ。

　オンネンの攻撃を避けながら、必死に俺は考えを巡らせる。

　こないだのアイツは『磁力』を使っていた。

　そして、アイツの不可解な点は全て『磁力』が原因だった。

　なら、コイツにも何かがあるはずなんだ。

　斬れば斬るほど固くなる鎧。

　シナトスの視界の歪み。

　何か……、何かが……！

「城内 光！　来るぞ！！」

「え？」

　気づいたときには俺はヤツの熱波に吹き飛ばされていた。

　しまった！　考え込み過ぎた！！

　……？　熱波？

「そうか！　分かった！！」

　床を転がり、なんとか立ち上がりながら俺は叫ぶ。

「ど、どうしたの急に？」

「アイツの謎が解けたんだ！」

「！　ホントかい！？」

「ああ、謎の原因は『熱』だ！！」

「熱？」

「鉄ってどうやって打つか知ってる？」

「え？」

　急な俺の質問に戸惑う、シナトスとリーム。

　今度は油断しないように気を付けながら会話を続ける。

「鉄って言うのはメチャクチャに熱くして、それを打って固くしていくんだ」

「！　なるほど……。アイツは自身の発する高熱を器用に操って、鎧の高温を保っているのか」

「そう、だからアイツに攻撃を叩き込めば込むほど、アイツの鎧は固くなる」

「じゃあ、私の目のぼやけは？」

「それは多分『陽炎（カゲロウ）』だよ」

「陽炎？」

　これまた不思議そうに質問される。

「陽炎っていうのは周りの空気との温度差によって発生する見え方の異常。光が屈折するせいでものが歪んで見えるんだ」

「だからってそこまで大きなものでもないでしょう？」

「まあ、普段はそうなんだろうけど。こんなハイレベルの戦いじゃ、コンマ１ミリのズレだって勝敗に大きく影響するさ。実際、さっきみたいにね」

「……」

　少し納得はいかなそうだが、飲み込むシナトス。

　そもそもオンネンが発している熱は、普通と違うので常識があまり通用しないのもあるのだろう。

「しかし、謎は解けたがどうする？　熱をどうにかしないかぎり我々に勝ち目はないぞ？」

「そうなんだけど……」

　それをさっきから考えているんのだが、なかなかいい案が思いつかない。

　何かアイツの体を一気に冷ます方法は……

―少し離れたところ―

「光くん……」

　物陰に隠れながら、状況を見守る茉子にも光たちの劣勢は目に見えて理解できた。

　なにか手助けをしたいが、気絶したヒナを置いて遠くに行くわけにもいかない。

　ヒナはまだ目を覚ましてはいなかった。

「どうにかして、火を弱くしないと……」

　あたりを見渡すがなかなか役に立ちそうなものはない。

　消火器程度じゃ足りないだろう。

　第一、どうやってアイツにかけ続けるのだ。

「……！　あれは使えるかも！！」

　すると茉子はスッと立ち上がり、

「ごめんね、ヒナちゃん。ちょっとだけ一人にするよ」

　そう言って駆け出したのは、制御室。

―再び、前線―

「くそ！　これでどうだ！！」

　斬りつければ固くなる、ならば突き技ならどうか。

　ギン！！

　と、綺麗な金属音は鳴り響くが、歯が立たない。

「これならどう！？」

　今度はシナトスが思い切りカートを滑らせるが、それも槍で吹き飛ばされる。

「打つ手なしか！？」

【ハハハハハ！！！！　燃エロ！！　燃エロ！！！】

　オンネンも勝利を確信してか、歓喜の声を上げた。

　が、次の瞬間。状況は一瞬で流転する。

　ブー！　ブー！！

　と、鳴り響くサイレンの音。

　それと同時に、シャーと水が天井からかけられる。

【ヌアアアアアア！？　水！　水ガァ！！　ナゼダァ！？！？！】

「な、なにこれ？　なんで、天井から水が？」

　戸惑うシナトスとオンネンだったが、俺ははすぐに理解できた。

「……！　そうか！！　火災報知器か！！！　でも、なんで今になって……？」

「光くん！　ブレーカーをつけてきたよ！！　これで報知器が！！」

「茉子！！」

　そう、茉子は制御室に向かい落されていたブレーカーを再び付け直した。

　オンネンが報知器を恐れ、ブレーカーを落としていたため報知器は反応していなかった。

　それが今、直ったためオンネンの熱に反応し水を噴射し始めたのだ。

「今なら行ける！　決めるぞ、城内 光！！」

「おう！！」

　もだえるオンネンにまずは俺が、一太刀。

　さっきとは違い、今度はアイツの鎧が砕け散る。

　急に鎧が冷まされたせいで、温度差に耐え切れず鎧が脆くなったのだ。

　すると、砕けた鎧の下に宝石のようなものが見え――

「お嬢！　あれがコアだ！！」

「はああああああああああああああああああ！！！！！！！！！！！！！！！」

　三度目、今度こそは確実に切り裂いた。

　コアと呼ばれた宝石のようなものが真っ二つになり――

【グヌアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア！！！！！！！！！！！！！】

　オンネンが消滅した！！

「やったのか……？」

　ビショビショになりながら、ゆっくりとシナトスに聞く。

「ええ、ええ！！　倒したのよ！！」

「やったー！！！」

　互いにびしょぬれだったが、俺たちは初めての勝利を手に取った！

「茉子！　ありがとうな！　おかげでアイツに勝てたよ」

「いやぁ。そんなたいしたことしてな――

　バキャン！！

　言い終える前に、轟音が響く。

　そして、轟音と共に戦いで脆くなっていたのか、壁が砕け散る

　そのまま壁は茉子に容赦なく襲い掛かった。

「茉子！！！！！」

「ふえ？」

　もう、間に合わない。