第11話 そして誤解は厄介へ

「ま、狭い反省室だけどゆっくりなさいな」


「……」


 反省室にヒナと二人きりの状況でどうやってゆっくりすればいいのか。

 今は穏やかなヒナの声も、いつ恐ろしくなるかわかったもんじゃない。


「光」


「は、はい!」


「私ね、少し考えたの」


「へ?」


 考えたって何をだ?

 俺のシバキ方とかだろうか?


「そうしたらやっぱりおかしいなって思った。だってあんなに、臆病で、怖がりで、嫌なことからすぐに逃げるようなアンタが自分からそんなことするわけないって」


 なッ!? バレてる!?

 まさか見られていたのだろうか。

 だとしたら、白井さんことシナトスのことも気づいているんだろうか……。


「だからね。何かあったなら私に相談して? 無理矢理されて相手が怖くて拒否できないなら、私がかわりに追っ払ってあげるから。」


 無理矢理やらされている? 相手が怖くて拒否できない?

 そうなんだろうか、俺はシナトスたちに無理矢理戦わされてるのか?

 確かに、あの化け物は異常ですごく怖くて、正直、逃げ出したかったが……。


 違う。

 怖くて怖くてしょうがなかったが、俺は無理矢理戦わされたわけじゃない。

 俺は自分の意志で戦うと決めた。


「ヒナ、それは違うよ」


「え?」




―同時刻 学校廊下―

「……。困ったわ、まさかこの学校がこんなに複雑だなんて……」


 トイレに行きスッキリしたのはいいものの、シナトスはすっかり迷子になっていた。


「地図とかどこかにないのかしら……。ああ、もう何でこんなに面倒な造りにするのかしら」


 なお、この学校の造りは別に複雑ではない。

 むしろ単純なぐらいで、彼女が迷っているのは単に方向音痴なだけなのだが。


「はあ、こんなことなら一人で行くんじゃなかった……」


 放課後の学校は意外と人が少ない。

 道を聞くことも調べることもできず、途方にくれていたが……。


「あ! いた!!」


「え? 私?」


 見知らぬ誰かに呼び止められた。


「よかったぁ。教室にカバンがあるのに全然帰ってこないから心配したんだよ?」


「あ、えっと。ありがとう……」


「確か白井 サキさんだよね? 私は今城 茉子っていうの。よろしくね!」


「よろしく……」


 普通の高校生は初対面でもこんなにフレンドリーなものなのかしら……。

 もちろん、陰でいろいろ見られていたことを知らないシナトスは困惑するばかりだ。


「あのね、私生徒会長の子と友達なんだけど。その子が教室に残ってって」


「どうして?」


「え!? あ、えっとね……」


 しまったー!!!

 茉子はいまさら気づいた。

 彼女を教室にとどめておく、口実がないことを。


 どうしよう、なんていえばいいのかな?

 ええと、ええと……。

 必死に考えるが、ほぼほぼ初対面の相手を教室にとどめる口実などそう簡単には出てこない。


「えっと、もしかして転校とか引っ越しについて?」


「! そう! それ!!」


 やった!

 相手に助けられる感じで、なんとか茉子はヒナからのミッションを達成することができた。


 と、ここで茉子の無駄に良い頭は一つ思いついてしまった。

 待てよ? これ、光くんから聞き出さなくても私が白井さんから直接聞けばよくない?

 そうすれば、光くんが嘘ついても大丈夫じゃん!

 と、何ともシンプルで大胆な発想に至ったのだ。

 白井さんが嘘をつく可能性は全く配慮していなかったが。


「あの、白井さん?」


「何?」


「えっと、白井さんは……」


 ……なんて言おう。

 『光くんのことを誘惑したの?』なんて聞けるわけがない。

 さすがに私でもそれは分かる。

 えっと、もう少しオブラートに……。


「光くんのこと好きなの?」


「なッ!? ちょ、ええ!!??」


 確かにオブラートには包んでいた。

 元がやばいので包んでもやばかったが。


「そ、それはどうゆう!?」


「いや、あの、そんな深いわけがあるとかそういうわけじゃなくてぇ!!!」


 互いに真っ赤になりながら、動揺する二人。

 しかし、ここで今度はシナトスの脳が一つの結論を出す。


「……。ゴメン」


「ふえ?」


「ちょっと私反省室いかないと!」


「ええ!?」


 何でぇ!?

 ヒナちゃんが来いって言ったの?

 私に言った作戦と全然違うよ!?


 交わる誤解に、飛び交う推測。

 現場はかなりカオスになってきたが、シナトスはさっきのセリフであらかた事態に気づいていた。

 なら、今私は!


「……。今城さん」


「はい!」


「反省室、どこ?」


「へ?」


 反省室に向かわないといけないのだけど……。




―これまた同時刻 反省室―

「ヒナ、それは違うよ」


「え?」


「俺はシナトスに無理矢理やらされやんじゃない。それは、もちろん怖いのはあったさ。でも、俺は自分の意志で選んだ」


「……」


「俺は決めた! 怖くても逃げはしない!! 後悔はない!!!」


「……」


「だってこれが俺の選択だから!」


 ヒナが俺を気遣ってくれるのは嬉しい。

 でも、俺はクロカゲたちと戦うと決めた。

 だから逃げも隠れもしな―


 ヒュン


 ん?

 なんだ?

 なんか今、風を切る音が……。


「そう、ならいいわ」


 あれ?

 なんかすげぇ怒ってない?


「もしアンタが無理矢理やらされたんなら、助けてあげたりとかしようとも思ったけど……」


 ……。

 なんかこれ凄いバッドエンド感あるんだけど。

 目覚めたらよくわからない道場にいそうなんだけど!


「自分からって言うなら! 手加減もなにもなし!! 粛清よ!!!」


「ええー!!!!!」


「待って!!!!」


 俺に迫りくる木刀を止めたのは、一人の少女の声。

 つまり、シナトスの声だった。


「あら? 自分からくるとはいい度胸じゃない」


 まずい、これは俗に言う修羅場と言うやつだ。

 そして、俺はどうあがいても死ぬ未来しか見えない。


 絡みつく誤解と間違い。

 はたして、光は明日から五体満足で生活できるのだろうか……。

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