第3話 不正な死
「じゃあ、婆ちゃんが生き返るっているのは?」
「それは、アナタのお婆さんは不正に殺されたの」
「不正に殺された?」
「そう、人は死ぬ時が決まっているの。この世のバランスを保つため、『この人はこの時この死因で死ぬ』っていうのが生まれた時から定められている」
「そ、そうなんだ……」
もちろん普通の人として生活してきた俺には初耳の話だ。
というか、できればあんまり知りたくなかった話でもある。
「だから、時には病気が流行して多くの人が死ぬこともある。でもね、今回は違うの」
「今回はって……、まさかこの流行病か!?」
「そう、まだ死ぬべきでない人がどんどんと命を落としている。誰かが不正に人を殺しているの」
「ていうことは、その誰かが判明すれば」
「今回の病気で死んだ人たちは皆、生き返ることができる。もっとも、生き返るというよりそもそも死ななかったことになるのだけど」
「……」
人の不正な死。
にわかに信じがたい話だ。
多分、普通なら俺の頭がおかしくなって変な幻覚を見ていると考えるべきなんだろう。
でも、俺はそうは考えなかった。
「なんとなくは分かった。で? 俺は何をすればいい?」
「……。随分と物分かりがいいというか、何というか。まあいいわ、それでアナタにして欲しいのは『情報収集』よ」
「情報収集?」
てっきり、一緒に戦ってほしいとか言われるのかと思っていた俺は、相手の地味な要求に驚いてしまった。
「え? そんなのでいいの? えっと、次元眼っていうので戦ったりできないの?」
「できるわけないでしょ、次元眼は見ることができるってだけ。それ以上は何もできないわ」
「あ、そうですか」
ちょっとだけがっかり。
てっきり超能力みたいなことができると思っていたら、意外と役に立たない能力だったなんて。
「私は死神だから、人間の社会には疎い。だから、アナタにお願いしたいの」
「分かりました」
死神に命を救われて、特別なチカラがあると言われ、頼まれたのは情報収集。
世の中、漫画みたいに上手くいかないものだと勉強しました。
と、ここで今度は彼女の方から俺に質問してきた。
「でも、アナタ。どうして戦うって分かったの? 私、そのことの関しては何も言及してないと思うのだけど?」
「え? 漫画とかだとこういうときって戦いに巻き込まれるのが、お約束じゃないですか」
「知らないわ、そんなお約束。というか、漫画と現実をごっちゃにしているなんてアナタ大丈夫?」
「ザ・漫画的存在の死神に言われたくないですけどね」
「まったくだ、君はもう少し人間社会について知るべきだと思うよ」
「……」
ん?
今のは誰の声だ?
彼女の声ではなく、もちろん俺でもない。
「……、お嬢。もしかして、吾輩のことを彼に説明していないのか?」
「あ、まだしてなかった。というか、まだ私の名前も言ってなかった」
「おい!?」
……。
さっき幻覚を見ているとは考えないと言ったが、撤回するべきかもしれない。
俺にはさっきから彼女の鎌が喋っているように見えるのだが……。
「何故最初に紹介しない!? まずは自己紹介からだとあれ程、言っておいただろう!?」
「したわよ、自己紹介。それに、そんなこと言ったら貴方はずっと黙ってたじゃない」
「結界を張ってこいと言ったのは君だろう? あと、名前を言わない自己紹介なんて聞いたことない」
なぜだろうか。
どうしようもなくカオスな状態なのに、鎌のほうがまともなことを言っているなんて……。
「少年、いろいろと抜けたお嬢ですまない。吾輩は『リーム』、まあ見ての通り彼女の持つ鎌だ」
「はあ……」
「そして彼女は『シナトス』、多分説明してくれていると思うが死神だ」
「はい、それは聞きました」
「そしてもう一度正式にお願いしよう、どうか我々の『クロカゲ』退治に手を貸してくれないか?」
「ク、クロカゲ?」
「……。お嬢? もしかして、これも説明してないのか?」
「うん」
次々と俺の前に現れる新ワード、新展開。
今日学んだことは二つある。
一つは世の中はそう上手くいかないということ。
そして二つ目は、死神に命を救われると後が大変ということだ。
このとき、このビルに迫る存在がいたことを俺たちはまだ知らない。
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