魂のレッドライン

ギン次郎

1章 夢を見た天使

第1話 それは天使の声ではなくて

「お前は宇宙人だな」


 昔、そんなことを言われたことがある。

 どうしてそんなことを言われたのかは、もう覚えていない。

 それでもその言葉は、まるで呪いのように僕の心に深く刻みつけられていた。



 昨日、婆ちゃんが死んだ。

 俺の唯一の肉親だった婆ちゃんが死んだ。


 俺の母さんは俺を生んだ時に死んでしまい、父さんも小さい頃に事故で死んでいた。

 だから俺は小さい頃から孤独だった。

 そんな俺を17年間育ててくれたのが、婆ちゃんだった。

 その婆ちゃんも昨日、流行り病で死んでしまった。


 致死率100%と言われるその病気は、一か月前ぐらいから流行り始め、多くの人の命を奪っている原因不明の謎の病気。

 あらゆる国が医学の最先端技術を用いても治すことが出来なかった、正真正銘の不治の病。


 感染すると、まずは体のダルさがでる。

 その時はまだ大したことはないのだが、そのうち動くのが困難にすらなってくるのだ。

 そして、次に徐々に体が本当に動かなくなっていく。

 足、手、体、そして最後は心臓だ。

 それはまるで命が吸い取られているのかのように。


 この病気を人は「死神病」と呼んでいた。

 まさに死神のごとく、多くの人が亡くなっている病気だからだ。


 婆ちゃんも、俺と病院の先生たちの必死の看病の甲斐なく、昨日その息を引き取った。

 そして俺はまた孤独になった。



「これくらいなら大丈夫かな」


 50階建てのビルの屋上に来た俺は、その高さを見て確信する。

 これなら確実に死ねる、と。


「母さん、父さん、婆ちゃん。俺もそっちに行くことにしたよ。ごめんね」


 向こうに着いたら確実に怒られるだろう。

 でも、それでも、俺はこの世界で独りで生きていくなんて無理だった。

 なぜなら俺は――


「本当に良いの? それで」


 飛び降りようとしたその時、声が聞こえた。

 もしそれが普通に聞こえてきたのなら、俺は無視していたかもしれない。

 しかし、その声は普通には聞こえてこなかった。

 その声は確かに、屋上にいる俺のさらに上から聞こえた。


「え?」


 思わず俺は上に振り返りながら聞き返してしまった。

 そこにいたのは、満月をバックにして空飛ぶ鎌に腰掛ける女の子。


「だから本当にいいのって聞いてるの。城内 光シロウチ ヒカル君。」


「し、死神!?」


 どう見ても、その女の子は死神だった。

 死の間際に現れ、それを飛び、鎌を持ち、おまけに名前まで知っている。

 しかしまさか本当に存在するものだったとは…!


「あの~、私の質問に答えてくれないかしら? 本当に死んでしまっていいの?」


 死神なのに、なぜか俺を死なせないようにする死神。

 しかも彼女は次の瞬間、本当に死にたくなくなることを言った。


「アナタのお婆さんに、もう一度かもしれないのに」


「なッ!? それはどういう!?」


「聞きたい? それなら、まずはその手すりに掛けた足を下ろしてからね」


 これが彼女との最初の出会いにして、最初の会話。

 そしてこの日が、死神に命を救われた俺の運命が変わった日。

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